2.そんな部活存在するの?まあ興味なくは無いけどさ②
翌日、英語のリーディング授業前に伊藤がニヤニヤしながら、オレに話しかけてきた。
「エイト、今日の英語の先生、外国人でしかも凄い美人らしいぞ」
入学二日目にして情報が早いなうちのスカウトマンは。しかし、美人だからって優しいとは限らないぞ。外国人なんて特に。
「外国人教師ということは英語の発音まで厳しいだろうな。大丈夫かイトゥー?」
「ま、まあ何とかなるっしょ。美人なら頑張っちゃうよオレ」
女の子好きなのはわかっていたが年上にも興味あるのかこいつは。同年代の女子にも軽くあしらわれるのだから大人の女性にはきっと掌の上でクルクルされるんだろうな。
そうこうしてるうちに、二限のチャイムが鳴り、間もなくしてドアが開くとスタイル抜群、ブロンドヘアの女性教師が教卓に着く。
「Hello, everyone.」
青い瞳の外国人教師は、美しく微笑みながら挨拶する。
「My name is Margaret Drinkwater.」
男子生徒だけでなく女子生徒も見惚れる。文句なしで上の上だ。
黒板へ描かれた名前も綺麗だ。皆が彼女への視線を止めない。さらに自己紹介を続ける。
「My favorite is shopping 〜」
趣味から普段行くお店を説明する。ここまでならきちんとリスニングできた生徒もいるがここから彼女は質問を始める。
「Today, one of the problem is 〜」
専門用語も飛ぶその質問に先程とは違う意味で生徒達の視線が英語教師に集中する。もはや多くの生徒は目が点になっていた。
質問を話し終えると、生徒に意見を求めた。
「Please give your honest opinion.」
多くの生徒が目線を下にむけるなかオレは窓から外の景色を見ている。すると女教師に、
「外の景色を見ている君(英語)」
とオレのことを呼んでいるようだ。彼女と目線を合わせるとにこやかに意見を述べるように促されてしまった。
泣く泣く立ち上がりオレは英語で意見を述べる。ちなみに質問は近年の日本の国民医療費について。医学部を目指すオレだからこそ多少の知識を持っていた。
「先生が述べられた国民医療費についての質問ですが、僕は専門知識を述べるにはまだ若すぎるというか知識が足りません。ただこの問題は僕が生まれる前から問題視されています。年々高齢化が進むなか、問題が蓄積されています。長期的な対策を講じては巡りめく環境の変化には対応出来ません。ですので、その瞬間で明確な対処といいますか、現在ならば自己負担額を増やしつつも折角日本は消費税を増税しているのですからその税金を頼りつつも大きく依存することなく病気の状態によって負担額を変化させつつ、新たな対策を練るべきだと考えます(英語)」
回答を終えると静寂と化していた教室内の空気が一変する。
まずは英語教師が拍手を促すとクラス中の生徒達が拍手喝采でオレを迎える。まあ今の内容理解出来たのは教師だけだろうけどこの状況で気分を良くしない奴なんていないだろう。
中にはハイタッチをしてくる奴もいて先程の延々と続いた教師の自己紹介&質問に一矢報いてくれたことに感謝した結果の行為だった。
「サンキュー。えっと鎌田エイト君。じゃあ今の日本語で皆に説明してくれる?」
マジかよ。今の回答をもう一度言うなんて恥ずかしいだけだろ。てかなんでオレの名前知ってるんだろ?まさか英語が話せるの知っていて指名したのか?医学部志望も知ってた?
猜疑心を抱きながらもクラスメイトの羨望の様な眼差しに押され泣く泣く日本語で意見を述べると、またもクラス中がまるで体育祭で優勝したかのような歓喜をあげた。イヤ、恥ずかしいよ。オレ偽善者だから。もはや殊勝な態度というより卑しさ滲み出てる感じだから。
そんななか、クラスの一番後ろの席で一人の女子が、ニヤニヤしながらこの偽善者を見ていることに、当然オレは気付かなかった。
「さすがアメリカ留学の経験のあるエイト君!」
「エイト君アメリカに留学してたの?かっこいいー!」
昼休みに伊藤と昼食をとるなか隣のクラスからやってきたGG市川奈央とその友達。何やら一緒にお昼ご飯食べながら話したいとの事。
まあ話すのはいいけど男子同士でゆっくりしたいんだよなー。まあこの前のカラオケを断ったのもあるし致し方なしか。はぁー、気を使わなければならないのが辛い。
「留学といっても半年くらいの短期だったよ。あとは近所のイギリス人の知り合いと話したりして覚えたよ」
正直、自分を繕わないで済む外国人との会話は意外と楽しいし、何よりも英語を習得するにはコミュニケーションが手っ取り早い。
「そうなんだー。でもやっぱり英語を覚えたいキッカケとかあったんじゃない?」
鋭い質問だな総合評価CG(Cランクガール。最高はSランク)の市川奈央さん。
「そんな大それた理由は無いよ。たまたま外国人と話すキッカケがあったから覚えようと思っただけ」
「そうなの?外国人の彼女が欲しいとかじゃなくて?その外国人って女の子?」
「いや、40代くらいの近所のおじさん。単身赴任で日本に来ていて休日はヒマを持て余していたから付き合ってもらってたんだ」
やたらと突っ込んでくるな市川奈央。Dランク評価にするぞ。しかし図星である。
その真意はかつてフランスで出会った女の子ともし再び出会うことがあるのなら英語で話したいという秘めた男心だ。
何とか英語の件を流すことに成功したが、今度は休日に遊ばないかという誘いを受けた。上手く躱す方法は無いかと考えていると同じクラスの女子から話しかけられる。
「鎌田君、今大丈夫?さっき授業中に書き終わらなかった英語の自己紹介文をマーガレット先生に提出しに行ったんだけど、鎌田君を呼んできて欲しいって言われたの。今から行ってもらえる?」
えっ何?と一瞬思ったが、
「わかった。今から行くよ。ごめん、休日の話はまた今度ね」
と告げて、上手くその場を立ち去ることに成功。遊びに行く約束せず引き伸ばすことができたのは良かった。ただこれから行く職員室は億劫で仕方ない。何故なら嫌な予感しかしないのだ。あくまで直感ではあるが。
職員室に到着し廊下に貼ってある座席表を確認したのち英語教師を探す。すると英語教師は気づいて優しく笑顔で呼びかける。
「あっ、アリス君こっちよ」
えっ何?なんでミドルネーム知ってんの?てかその呼び方のせいでめっちゃ他の教師らに見られてるんですけど。
「マーガレット先生、その呼び方やめてください。他の先生方が見ています。そもそも何故ミドルネームを知っているのですか?」
オレの質問に対して彼女は理事長から聞いたのだと告げる。いや、わかるものなのか?受験の時もミドルネーム書いた記憶が無いのだが。理事長は何でも知ってますってか?
「アリス可愛いわよ。私だったらそう呼んで欲しいけどな。」
「いや、オレ男なんで嫌です。それよりも用事は何ですか?」
さっさと用事を聞いてこの場を立ち去りたい。そうでないとずっとこの先生に弄られそうだから。嫌な予感しかしない。
「さっきの授業、英語で意見を述べてくれてありがとう。まさかあそこまで話せるなんて思って無かったの」
何故か潤んだ瞳で話す彼女は続いて、
「私のお願い聞いてくれませんか?」
と英語でお願いしてきた。急にキャラ変わったんですが?この人痛いヒトなのかな?
「内容によります。それで何ですか?」
オレが警戒心を表情に出さないようにそう答えると、とびきりの笑顔で軽快に話し出す。
「キャンプ部に入ってくれませんか?」
「実はこの部活、私が顧問をしているのだけれど先月に3年生が卒業してから現3年生の二人しか居なくて廃部寸前なの。だからあなたのような活きのいい生徒に入って欲しいの」
えっキャンプ部?何それ?部活動案内にそんな部活載ってなかったぞ?それにオレ全然活き良くないから。顔面偏差値高くて外観良くても内面偏差値低いです。BBです。何せ偽善者でやさぐれてますから。
思考停止&返答に困っていると、彼女に「即答しなくてもいいから考えておいてね♡」と言われる。ここで保留にするのもアリだったが、
「実は友人にサッカー部の入部を勧められていてそちらに入部しようかと思っています。」
と、自分の意見を述べた。
これは嘘では無い。実際幼馴染みの求に勧められていてまた昔みたいにサッカーをしたい気持ちがある。高校では父のために勉学に励もうと思っていたが彼と出会ってその気持ちが揺らいだ。それくらい彼の存在は自分にとって大きいのだ。
「それなら大丈夫。兼部も可能よ。キャンプ部は月1、2回の活動だから。サッカー部にそこまでの支障は無いはずよ。それにその友人も入部してみたらどうかしら?」
ヤバい。上手く入部まで落とし込まれそうだと思っていると、マーガレット先生はある条件を告げた。
「あっ、でも入部するには入部条件を満たすかどうか試験を受けないといけないから、そのことも伝えてね」
オレの入部はもはや確定の様相を呈してきたが、とりあえず保留ということで職員室を後にした。
何やら入部条件はマーガレット先生と英語で熱く激しいディベートをすること、もしくはTOEIC900点以上をとることらしい。どっちも激しく難題なのだが。
まあキャンプ部に多少興味が湧いたから求を誘ってみるか。アイツ英語も出来たら完全体どころじゃなくなるな。それに女教師「マーガレット」の御眼鏡にかなった先輩達にも興味があるし。
まさかキャンプ部に多くの1年生メンバーが加入するとは、この時は思ってもみなかった。