2.そんな部活存在するの?まあ興味なくは無いけどさ①
桜の花びらが散る度にまた一つ思い出が積もる、そんな季節。
〜回想〜
日本での生活が始まってから間もなくしてエイトに友達ができた。日本では、フランスにいた時よりもハーフだからといって、エイトが避けられたり無視されたりすることはほとんど無かった。寧ろエイトが成長するに連れて同年代の子とは容姿に差が出始め、彼に寄ってくる女の子も増えた。
小学校に入学してエイトは二人の同級生と仲良くなった。一人は成績優秀で、運度神経も良く、普通なら何処か鼻にかかる要素が出てくるものだがそんなことも無く、寧ろ落ち着きがあって愛嬌もある、もはや【完全体】の子供。それがエイトからみた常和求だった。
エイトは求が自分と同じような人気者であったため、初めはお互いに距離をとっていたが、お互いサッカーが好きなこともあり程なくして仲良くなった。
そして、サッカー好き繋がりから仲良くなったもう一人が七海奈々である。彼女もエイトと同様にフランス人とのハーフであり、幼少期にフランスに住んでいた。
エイトと奈々は、同じ境遇ということもありすぐに親しくなったのである。彼女もエイトと同じように周囲に避けられたりしたのかどうか、エイトは気になったが結局尋ねることは出来なかった。
彼らはサッカーをしない時ですらいつも三人一緒であった。二人といる時のエイトは素直な気持ちを出せる「別の自分」であった。そんな幸せな時間も小学4年のある日失われてしまう。
求が父親の仕事の都合上転校となってしまったのだ。エイトと奈々の二人になったのも束の間、今度は奈々も転校してしまう。
さすがにショックであったエイトは何とか平静を取り戻そうとするが、そこには二人と出会う前の、いつも何処かしら冷めていて、周囲のご機嫌をとる良い子ちゃん、【偽善者】がいた。
〜回想終わり〜
「エイト〜カラオケ行かね?」
聞いたことのあるその声は同じクラスになった伊藤。今朝入学式前に出会った伊藤の小学校の同級生たちと久しぶりの再会ということでカラオケに行くとのこと。
「ごめん、今日予定あるんだわー」
伊藤の誘いを断る。別に「中の中」以下の人間とは絡みたくないわけでなく、今日は本当に予定があった。
母の命日だ。
毎年この出会いの季節にオレは「最愛のヒト」に会いに行く。近況報告を母も待ち望んでいるはずだから。
「ホントごめんね、また今度一緒にいこう、市川奈央さん」
名前を呼ばれた伊藤の同級生は一瞬残念がる素振りを見せるもすぐさま笑顔で、
「わかったー、絶対だよ」
と返事をした。悪くない返答であったからまあまあGGかな。
その分、今後ケアしないといけないがまあ伊藤の知り合いだし仕方ないか。これからも続くんだろうな、こういったことが。
周囲の誘いを掻い潜り自宅へ直行後、父と妹と一緒に母の眠る場所へ。
花や母の大好きだった紅茶を供えしっかりとこの一年を心の中で報告する。
帰り道に父に学校はどうだと問われるが問題ないと答える。あんな屋敷に住まわせてくれる父や大好きだった母のためにもここで躓くなんてことはしない。確実に国立の医学部に現役で合格してみせる。
そんな決意をした矢先、高校生活二日目にして今後の人生を左右する「最初の」大きな分岐点へ突入するとは思ってもみなかった。