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ピユア・マインド

作者: 當宮秀樹

早乙女雅之は自閉症というハンデがありながらある卓越したある才能があった。

そんなマーくんをとりまく友人や周りの環境が彼と向き合うすがたを書いた作品。


Hisaeのもとに依頼のメールがあった。


Hisae様


初めてメールいたします。今から話す内容の小説をお願いしたくメールいたします。


それは私の兄の話です。 兄は中学校卒業直前に他界しました。


昭和三十二年にこの世に誕生し十五歳で他界するまでの短い生涯でした。


兄は自閉症という障害を持って生まれました。何故この世に生まれる必要が

あったのかと思う程、純粋な魂の持ち主だと、今でも私は思っています。


我が早乙女一族に兄という人間が存在した証しを、本として残したくメールしてみました。


兄は昭和三十二年、早乙女家の二男として生まれました。長男の兄と妹の私の三人兄弟です。


兄は自閉症でその頃の自閉症児は今と違い閉鎖された環境で育ちました。

身体的障害はありませんでした。


兄は自分から主張することをせず、性格はいたって温厚、誰からも好かれたように思います。


そんな兄にはある特技がありました。それは点描画です。兄が点で描く世界は見た人は

誰もが圧倒されるほど、類い希な才能がありました。特に宇宙の絵は傑作です。


そんな兄の短い生涯を小説として書いてほしいのです。それを早乙女家に代々伝え

残したいなと思いメールいたしました。

早乙女まみ


Hisaeは返信した。


メール拝見しました。私がお役に立てること光栄に思います。是非、私に執筆させて下さい。


執筆にあたって雅之さんの点描画をよろしければ拝見したいと思っております。

よりリアルに作品を仕上げたいと考えます。

Hisae


後日、雅之の届いた絵をみてHisaeは驚愕した。 

その絵は予想以上の仕上がりと完成度の高さに驚いた。同時にHisaeは事の重大さを感じた。           



「ピュア・マインド」


 早乙女雅之は、昭和三十二年、東京都三鷹市井の頭に、早乙女家の次男として生まれた。


人は彼をマーくんと親しみを込めて呼んだ。マーくんは小学2年までは普通学級で過ごしたが、

自閉症の為小学三年から中学の三年までを養護学級で過ごした。


マーくんは自分から主張することが苦手。 口癖は「いいよ」だった。

マーくんの人柄を表わす的確な表現。


子供の頃からノートに鉛筆で絵を描くのが大好きで、暇な時はひたすら絵を描いて過ごした。


絵の題材には決まりが無く、写実的であったり空想画であったりと自由だった。

そんな早乙女雅之、通称マーくんの物語。


マーくんは三鷹市立の中学校に入学した。


「私は中の島みゆきといいます。今日から君達のクラスを受け持ちます。

楽しい学校生活にしましょう。よろしくお願いいいたします」


クラスは一年から三年までの合同。


「それでは一年生から順番に自己紹介してみましょう」


マーくんは一番目の挨拶だった。


「早乙女くんどうぞ」


「マーくんです。以上……」


「マーくん早いねぇ!もういいの?」


「いい」


「そっか。はい、早乙女雅之くんです。みんな宜しくね」


クラスの先輩が言った。


「先生にいわしてる面白い一年生……先生ちゃんと自分で、自分で」


「そうね、つい私がいっちゃった。先生、バッテンだね」

みんな笑った。


数日過ぎるとマーくんはみんなと馴染んでいた。同じ小学校から来た

顔見知りの先輩が多いので、馴染むのに時間は要しなかった。


「マーくんは小学校の時からずっと絵を書いてるの?」

先輩の国男が聞いてきた。


「うん。書いてます」


「マーくんの絵って写真みたいだね。上手になりましたね。

みゆき先生マーくんの絵見て」


「どうれ。マーくんは何を書いてるのかな? 先生にも見せてちょうだい」


みゆき先生は絵を見て呆然とした。マーくんの絵は写真のような写実的な絵でしかも

点描画だった。それも緻密に書かれており、点だけで陰などの濃淡やその

他細部まで上手に描かれていた。


「マーくん、他にもあるの?このノートもっと見せてくれる?」


マーくんはサバン症候群だった。


「マーくんすごい上手だね。この絵はなにを書いたのかな?」

ミケランジェロの絵のようなタッチだった。


「夢。楽しかった。とっても綺麗だった」


「マーくん、綺麗な夢見るのね…いいな、先生もこんな夢見てみたいなぁ」


職員室に戻ったみゆき先生は、美術の美神先生にマーくんの話を聞かせた。


「明日、美術の時間があるから、その時に見せてもらいます。

なんかワクワクしちゃいます。サバンはテレビでは見ますが、

実際にこの目で見たことありませんから」


当時、障害者へスポットが当たることはなかった。


翌日「一年生の皆さん、初めまして、私は美術の美神淳子です。宜しくお願いします」


「一年生は先生に挨拶して下さい」


「マーくんです。以上」


全員が笑った。


「また、自分のことマーくんっていってる」


美神が「マーくん、後で先生に絵を見せて下さいね」


「今日は、自分の手を好きなように書いてみて下さい」


美神はマーくんの側に寄り「自分の好きな描き方で描いて良いのよ」


側にあったスケッチブックを見て「マーくん、これ見せてもらっていいかしら?」


「は、はい、どうぞ」


そこにあったのは黒い点だけで描かれた世界だった。瞬間すごい!

まさしくこの絵は天性の才能ね。これがサバンの世界観か……

この夢の世界のような構図、たしかこの子達はアドリブが効かないっていわれてるけど、

これは完璧なオリジナル。我々に視えない何かを視ているのかもしれない……


美神は常識に縛られている自分が恥ずかしく思えた。


1年の初夏マーくんは風疹にかかり、三十九度の熱が三日間続いた。 

マーくんは自分に何が起こっているのか理解できなかった。四日目の朝、

母親が額に手を当てると熱は下がっていた。慌てて体温計で測ってみると

三十六.五度と平熱に戻っていた。母親は胸をなで下ろした。


「お母さん、お母さん、ノートと鉛筆下さい」


「ハイ、わかりました。でも今日は寝てなさいよ。学校はお休みです。わかりましたか?」


「ノートと鉛筆、ノートと鉛筆」


「ハイ、ハイ、わかりました。何度もいわないの」


マーくんは何かに取り憑かれたかのようにノートに点を描きはじめた。

2時間ほどして母親がマーくんの部屋に入ってきた。マーくんの絵を見て驚いた。


その点描画は宇宙に浮かぶ大日如来の絵。もう一枚の絵は、聖母マリアに抱かれた

赤ちゃんのキリスト絵だった。


「マーくん、どうしてこの絵書いたのですか? なにを見て書いたの?」


「夢です」


「マーくん、こんな夢見てたの?」


マーくんは点を描きながら答えた。


「うん。まだ、たくさん見たよ」


「お母さん楽しみ。もっとたくさん書いて下さい。でも、今は体力が無いから

ゆっくり書いて下さいね」


「体力ってなんですか?」


「体を動かすパワーよ」


「はい」気の無い返事を返しながら点を打ち続けていた。


昼ご飯を運んできた時には、部屋に数枚の絵が散らばっていた。その絵を眺めていた

母親の視線が止まった。 マーくんの作風が明らかに今までとは違っていた。


「ねえ、マーくん。どうしてこんな絵書いたの?教えてちょうだい」


「夢です」


「マーくん、面白い夢見たのね」母親が手に持っていた絵は総て抽象画だった。


翌日、学校の廊下を歩いているマーくんの姿があった。正面から廊下を

走ってくる生徒がいた。マーくんに接触し二人は倒れた。


「なんだお前、そんな所に突っ立てるんじゃねえよ」完全な言い掛かりであった。


事情のわからないマーくんは「す、すみません」と素直に謝った。


「すみませんじゃねえだろ…コラッ!エッ!」


「す、すみません」マーくんは怖くて謝った。


謝ってるマーくんに攻め寄った。次の瞬間、マーくんの腹に膝蹴りをした。


マーくんはその場にうずくまった。


「う~。う~」


「気をつけろ!バーカ」その生徒は走り去った。


怯えたマーくんは動けなくなっていた。その場を通りかかった同じクラスの利幸が

「マーくん、どうしたの?」


「お腹を、足で蹴られました」と震えていた。


「行こう」肩を支えてマーくんをクラスに連れ戻った。


その日からその生徒によるマーくんへのいじめが始まった。生徒の名前は

エイジという札付きのワル。 数日後、帰り道の途中で後ろから付けてきた

エイジがマーくんの後ろから声を掛けてきた。


「おう、お前、名前は?」


マーくんは振り向いてビックリした。瞬間この前の悪夢が蘇ってきた。


「す、すみませんです、す、すみませんです」


「おい、俺なんにもやってねえだろが、俺に言い掛かりでもつけてんのか?」


「す、すみません」


「何にもしねえからチョットこっちにこい……」


「す、すみません」


エイジはマーくんの腕を強引に捕まえ、コンビニに入った。陳列してあるチョコと

菓子を、廻りを確認してからマーくんのカバンに入れた。 

支払いをせずそのまま店を出て、公園のベンチに座らせた。


「おい、よこせ」エイジは盗んだ物を手に取り。


「こんな物、盗んで駄目だろうが……」


「ぼ、ぼ、ぼく」


「お前を警察に連れて行こうか? お母さん泣くぞ! お前の代わりにお前の

母さんが警察に逮捕されるぞ」


「だだ駄目です。ゆ、ゆ許して下さい。 ゆ、ゆ許して下さい」


マーくんは完全にパニックになった。


「わかった。言わねえよ。その代わりこれからは俺の言うこと聞けよ。 解わかったか?」


「わかりました」


「今日は帰っていい、絶対、誰にも言うなよ。 誰かに言ったらすぐ警察だぞ! 

おまえの母さん逮捕だぞわかるな!」


「はい、言いません」


その後、このような行為は数度繰り返された。異変に気付いた母親が問いただした。


「マーくん、あなた最近何か嫌なことありましたか?」


「あ、あ、あ、ありません。言いません」


「何があったの?」


「知りません」両手で耳をふさいだ。


母親はみゆき先生に相談した。 みゆきも仲の良い美術の美神に相談した。

マーくんの理解者だった。


淳子は「マーくん、最近怖いことあったでしょ?それを絵に描いてくれない? 

先生が退治してあげます」


マーくんは万引きの様子やエイジの顔など数点に渡って描いた。 

美神は驚いて直ぐみゆきに報告した。


「みゆき先生、この絵どう思います?」


「あっ、この生徒は三年A組の山田栄二。きっと何かあるわね?」


「しばらく下校途中、私マーくんを尾行してみましょうか」


みゆきが言った「そうね、お願いできる?」



そして、その日がきた。淳子は三十メートルほど離れて歩いた。 

突然、マーくんの後ろに人影が現われた。あの絵の人物の山田栄二だった。


「おいマーくん、今日も遊ぼうぜ」


「あっ、はい……」


「今日は何処へ行く? 何か欲しい物あるか?」


「………」


「まぁ、いいか。俺についてこい」


二人は本屋に入った。淳子は柱の陰から二人を見ていた。

店員がいないのをエイジが確認し、そして週刊誌を取り、マーくんのカバンに入れた。 

急ぎ足で2人はレジの反対側から店を出た。


「待ちなさい!」淳子は声を掛けた。


エイジは一目散に逃げた。


マーくんはその場に立っていた。


「マーくん、何やってるの?」淳子はカバンから雑誌を取り出し店に詫びを入れた。


「マーくん、チョット来なさい」


マーくんなりに悪いことをしているという自覚はあった。


「警察に言わないで下さい。警察に言わないで下さい。お母さん悪くない、

悪いのはマーくんです」


「どういう事か説明して」優しい声で淳子が聞いた。


だがマーくんはパニック状態で混乱していたので、携帯でみゆき先生を呼んだ。


駆けつけたみゆきはすぐ推測できた。

「解りました。みゆき先生と淳子先生がお母さんを警察から護ります。約束します。

だから、マーくんも話して下さい。約束してください。解りましたか?」


少し落ち着いたマー君は「はい、みゆき先生と淳子先生とマーくんの約束ですか?」


「はい、そうです」みゆき先生が言った。


「みゆき先生の言うとおりにすると、お母さん警察に逮捕されなくてすみますか?」


みゆきはマー君の話を少しずつ解析し、大まかな内容が掴めた。 

みゆきと淳子は涙ぐみながら、マーくんの話を聞いていた。

そして、エイジに苛立ちをおぼえた。


校長に事情を説明し、翌日エイジとその親が校長室に呼ばれた。 

入室したエイジの顔面に淳子はいきなり平手打ちをした。校長とみゆきが止めに入った。


エイジの親が反発した「何なんですか! この方は? 教育委員会に行きますよ……」


今度はみゆきが「結構です。どうぞ、教育委員会でも警察でも行って下さい。

エイジくんはそれ以上の事をこの自閉症の生徒に強要してたんです」


みゆきの目に涙が溢れていた。


校長が穏やかに「みなさん、冷静に、落ち着いて下さい。 お母さんも事情は

聞いておられると思いますが、マーくんは自閉症の生徒です。 

通常社会通念の常識はこの子達には通用しません。

理解できない部分が多いのがこの子達の現状です。

それを利用した犯罪が今回の騒動の発端。

分かりやすく言うと、お子さんがマーくんを誘導して万引きを重ねた。

しかも、マーくんのお母さんが警察に逮捕されるという脅し文句を

言葉たくみに使っての犯行です」


校長はエイジに向かって「山田くん、どうですか? 異義はありませんか?」


エイジはうなだれていた。


校長は続けた「マーくんのお母さんからは、何とぞ穏便に処理してやって下さい。 

との事ですので今回の件はこの場で済ませようと思っております。

ただし、今後、山田くんはマーくんに接触しないでいただきたい。 

山田くん約束できますか?」


「はい」下を向いたままだった。


校長が「山田くん、人の目を見て返事して下さい。 私の言葉理解できませんか?」

語気が少し荒かった。


今度は顔を上げ「済みませんでした」


「最後にお母さんと山田くんはこれを見て下さい」


マーくんの描いた山田くんの顔。絵は鬼のような形相のエイジの顔だった。


「山田くんの顔はマーくんにこのように見えたんですよ。マー君にとって

一生涯この顔が心に焼き付くんです。心の傷です。しっかり覚えておいて下さい。

今後、このようなことが無いようにしてください。 

この学校を出て以降の人生においても同様です」


話が終わり山田親子は頭をさげて校長室を出た。


「みゆき先生と淳子先生は残って下さい」


校長は二人に「君達の心情は解りますが、体罰とそれを肯定する言動はよくありません。 

教壇に立つ者はいついかなる時も感情が理性を上回ってはいけません。 

常に冷静であって下さい」


2人は校長に頭を下げた。


「もうひとついいですか?これは校長でなく私個人としての意見です……

淳子先生、よく叩いてくれました。胸がスッキリしました。 

校長という立場上(声を詰まらせ)僕にはできません。 

僕の心はスッキリしました。 マーくんの心のケア頼みますよ」


みゆきと淳子は笑顔で校長室を退出した。二人の胸のつかえが落ちた。



Hisaeは手を止めた。書いていてマーくんに会いたいと思った。

すぐメールを送った。


マーくんの小説を書いていて、私、個人的にマー君の顔を拝見したいです。 

差し支えなければ写真を見せてもらえないでしょうか? Hisae


翌日メールが入り写真が添付されていた。それは天才画家の山下清と一緒に

写っている写真であった。 彼はボンズ頭で雰囲気がどこか山下清と共通する何かがあった。


コメントがあった。


大好きな山下清展に行った時、一緒に写した写真です。山下画伯もマーくんの

絵を見てビックリしてました。今でもその時の光景が心に焼き付いております。


ツーショットかHisaeの頬に涙がつたわってきた。 思いを新たに書き始めた。


中学校2年になったマーくんの絵は母親や淳子先生の範疇を超えたところにあった。 

つまり、凡人では理解できない世界観がそこにあった。天才ピカソも最初は写実画や

パイプを持つ少年などの画風が多かったが、徐々に形の囚われを超越した世界に入った。

それが有名なゲルニカを誕生させた。

この頃からマーくんは何か焦るように点描画を書き貯めた。


ミクロの世界からマクロの世界に移行したように、表現するなら

金剛界曼荼羅の世界観がそこにあった。


淳子がある作品について「これってどういう絵なの?」


「空です」


「そら?」


「ハイ!」


「どういう事かなあ・・・説明できる?」


「高い空で星がいっぱいあるんです。そこに色んな人が住んでいます。

でも体が無いの。もうすぐマーくんも行きます」


「この星のようなのがみんななの?」


「違う。星は星です」


「そっか、ごめんね。先生、見たこと無いからわからないの。ごめんね」


「大丈夫ですよ」


「何が?」


「大丈夫です」


「……?」この頃になると言動に意味のつたわらない事が多くなってきた。


そして、マーくん中学3年生の卒業間近。 自分の部屋に籠もる事が多くなってきた。


歌手や女優さんの衣装デザインがマー君の目にとまればそれをアレンジして楽しむとか、

目に止まるものはジャンルを問わずなんでも描いていた。

マーくんはいつも新鮮な目を持っていた。


ある時、淳子先生から親に打診があった。


「マーくんの絵を、知り合いの画商に見せませんか? 

作品の展示会を開催してみませんか?」


話は進み卒業後に展示会を開催することが決定した。


淳子先生から「マーくん、今日、展示会場の下見で銀座に行こうか? 

帰りにおいしいもの食べて帰ろうよ、お母さんも会場で待ってるのよ」


「ハイ! 行くです」


放課後二人は井の頭線で渋谷に出て、銀座線に乗り換え銀座で降りた。 

マーくんは初めての銀座だった。


観たことのない、絵になりそうな風景がそこたくさんあった。

吉祥寺も都会だが銀座の比ではない、マー君は目を凝らして観察していた。


2人は交差点で信号待ちをしていた。


淳子は急に大声を出した「まーくん危ないっ!」


刹那、先生はマーくんを抱え込んだ。次の瞬間ドンという鈍い音。 

同時に二人は倒れた。

二人の上にトラックが重なるように止まり、アスファルトは一面血の海と化した。



「卒業生合唱」卒業生の声がした。


「仰げば尊とし、我が師の恩……」


卒業生の席には、マーくんの写真と花が飾られていた。教員の席にも

淳子先生の写真と花が供えられていた。 校長先生が最後に事故の

経緯と二人へのはなむけの言葉を贈り、式は終わった。


銀座の画廊では「早乙女雅之 作品展」が開催された。個展は新聞、

週刊誌にも取り上げられた。


個展は大成功を修めた。特にマーくん晩年の二年間の作品は高い人気と

高い評価がえられ、多くの人が絶賛した。


会場受付には淳子先生とマーくんの二人で写った写真が飾られていた。



END



Hisaeのキーボードを叩く手が止まった。何か、むなしい小説だった。 

この手の実話は小説のように明るくは終われない。 

特にHisaeはマーくんに入れ込んでいただけにショックだった。


製本に取りかかった。 挿絵にはマーくんが描いた家族の想い出の

作品の数々をふんだんに入れられていた。


表紙には当然マーくんのお気に入りの作品。 裏表紙は個展で使用した

淳子先生とマーくんの二人の楽しそうな写真で飾った。


できあがりましたのでご覧下さい。


早乙女 まみ 様



製本し、早乙女まみに発送した。ひと月後、早乙女まみから荷物が届いた。 

一冊の本と手紙が添えられていた。


この度は、まことにありがとうございました。兄の作品まで随所に

組み入れていただき大変感謝しています。


勝手ながらこの作品を、淳子先生のご家族にも一冊、下記の住所に

送っていただけないかと思います。


当初考えていた以上のすばらしいできに驚いております。

兄マーくんがこの本の中に呼吸して生きております。 

特に母は何度も何度も繰り返し読んでおりました。


兄の作品集ができあがりましたので、Hisaeさんに贈呈させていただきます。

マーくんの作品見てやって下さい。


ありがとうございました。

早乙女 まみ

 


END


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