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たった一言の大切さ

作者: 来留美

「おはようございます」


今日も言えた。


彼と私は挨拶をするだけの関係。



いつも通る公園の前で一度ぶつかった。


それがきっかけで挨拶をするようになった。



名前も知らない。


だからどんな人で何歳なのかも知らない。


ただ挨拶をするだけ。



そんなある日、


いつものように公園の前を通るが彼はいない。


少し、ゆっくり歩いて彼が来ないか見渡した。


彼は来ない。


いつもの挨拶はできなかった。



次の日も彼はいなかった。


私は不安になった。


彼に何かあったのかもしれないと。



それから一週間が過ぎた。


彼とは挨拶はしていない。



名前、聞けばよかった。


もっと彼と話せばよかった。


彼のこと、何一つ知らない。


彼に会いたいのに……。


私、彼のことが好きなんだ。


今頃気付いても遅い。


彼とはもう会えない。




いつも、帰りは公園の前は通らない。


でも彼がいるかもと思い公園の前を通る。



「お帰りなさい」



後ろから声が聞こえて振り返る。


そこには私の会いたかった彼が笑顔で立っていた。



「どうして?」


「ただいまって言わないんだ」



彼は笑って言った。



「ただいま?」


「次は、はてながついてる」



また彼は笑って言った。


彼ってよく笑う人だったんだ。



「だって、何故いるんですか?」


「君に挨拶したくて」


「挨拶?」


「ずっとできなかったから」



彼も私のことを気にしてくれてたの?



「俺、引っ越してこの道を通らなくなったんだ」


「だから見なくなったんですね」


「夕方、ここに来てたけど君にずっと会えなくて」


「私、帰りはこの道は通らないので」


「だからずっと会えなかったんだ」


「引っ越しをしたならもう挨拶できないですね」


「うん」



そっか。


今日が最後の挨拶だね。



「これからもお元気で」


「何か、最後みたいな言い方だね」


「最後じゃないんですか?」


「俺は今日から始めたいんだ」


「何をですか?」


「君の恋人として“おはよう”を言うこと」



彼は真剣な顔で私に言った。



「恋人?」


「そう」


「ん?」



私の頭の中はパニックで何も考えられない。



「君のいろんな可愛い表情をもっと見てみたい」


「可愛い?」



私は首をかしげることしかできない。


私が可愛いわけがない。



「返事聞かせて」


「えっと、あの」


「あっもしかして迷惑だった?」


「えっ、」



嬉しいのに

言いたいのに

嬉し過ぎて言葉が出ない。



「ちょっと落ち着こうか」



彼は私が焦っているのに気付いてくれた。


私は深呼吸をする。



「私もあなたの恋人として“おはよう”が言いたいです」


「本当?」



彼は嬉しそうに笑った。



「今日、言えなかったから“おはよう”」


「もう夕方ですよ」


「俺は“おはよう”から始めたいんだ」


「ふふ。可愛い人」


「あっ子供扱いした?」


「してないですよ。

それじゃあ私も“おはようございます”」


「おはようでいい」


「おはよう」



彼は少しだけ子供っぽいみたい。


彼のことはまだまだ知らないけれど


これからたくさん知っていける。


彼の恋人として。




私は彼の耳元で名前を教えてあげた。


彼は名前も知らないのに恋人って


俺達変わってるよな。


って顔を赤くして嬉しそうに言った。

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