予期せぬ一言に場は瞬時に制圧される
森に纏わる新しいストーリーに着手しているのだが、なかなか良いアイデアが出ないで悩んでいた。そんな停滞と堕落の日々を繰り返している中、ふと閃く。……こうして何時間も部屋のPCの前にいるよりも、実際の森に行ってみるのはどうだろうと。今なら丁度、紅葉の季節だ。そういう自然の中で、お天道様の下で、創作した方が良いアイデアが浮かぶのでは!?樹々に囲まれての執筆って、かっこええのでは⁉︎ 言うなればクリエータとしての理想では⁉︎ 例えるなら、山奥の別荘で優雅に執筆しているみたいな……
そうだ‼︎ (森林のある)公園へ行ってみよう。
自然をより満喫するために自転車で行くことにした。オニギリとお茶は買ったし、念のためブルーシートもリックにつめた。幸いにして休日でもある当日は快晴で、雲も風もなく本当に心地いい日だった。そして意気揚々(いきようよう)としたテンションで自転車のペダルをこぎ始めた。
公園に向かう途中、実は踏切がある。ここらでは有名な『開かずの踏切』である。なので平日休日問わず、時間帯によってはここら周辺の渋滞が当たり前の光景だった。そんな渋滞を嘲笑うかのように、自転車で側道を颯爽と走り抜ける。今さっき、ものすごいスピードで追い抜いっていった車が前で詰まっているその横を、車の幅寄せに気をつけながらのんびり抜き返す瞬間の『してやったり感』は自転車乗りだけの特権なのだ。ただ踏切だけは車同様にどうしようもなかった。そんな開かずの踏切に到着すると、先に待っていた知らないおばあちゃんが、いきなり声をかけてきた。
「さっきから電車が行ったり来たりで、ずっと閉まったままなんだよ」
「はぁ〜」
「かっこいい自転車だね〜」
「あ、どうもです」
「電動⁉︎」
なんでやねん‼︎ (いや、実際にはこんな関西弁でツッコんでいません)
「……普通のギア付きです」
おばあちゃんの感覚としては『かっこいい=電動』なのかもしれないが、全然ピンとこないし、共感も出来なかった。
「……」
その後、おばあちゃんとの会話は唐突に途切れた。
この踏切が開くまでの時間潰しに、必死で会話を試みた見知らぬおばあちゃんの努力は素直に認めよう。しかしそれに反し、結果的にこのなんとも言えない後味の悪い空気にしてしまった事に耐えられず、「はよ、電車通り過ぎて踏切よ開いてくれ〜』と心の中で何度も叫ぶ事しか出来なかった。