表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/19

住む世界が違う

良太が通う中学校は

太平洋が一望できる高台にある。


高台にあるので、

もちろん行きは馬鹿みたいに辛い坂を登らないといけない。


だが、帰りはその雄大な太平洋を覗きながら下校する。


この中学の校歌もそんな内容をより誇張し美化して

自慢気に歌詞を綴っていたはずだ。


良太も(勿論下校時に限るが)確かにこの通学路は嫌いでは無かった。


人の目を気にする事も無く大自然を堪能する。

心洗われるはずの時間………。


だが良太は背中に悪寒を感じていた。


何故かというと上地さんが

後ろから付いて来ているからだった。


上地さんとしてはそのつもりはないのだが、


徒歩で通える距離の中学なので

通学路が被るのはよくあること、


一緒のタイミングで帰宅したら

それは当たり前の事だ。


良太の自意識過剰であった。


良太は後ろを振り向かずに

後方へ神経を集中する。


気配は感じるのだが足音が聞こえない。


やはり背後に上地さんがいると良太は落ち着かない。


恐怖に駆られて物陰に隠れた所、

ふと横を見たら顔面蒼白の女の霊が!


それは上地さん!

何て良太は想像してみる。


失礼なことを考えたな、と良太は思った。




それはそうと、


予想外の出来事は

本当にありもしないタイミングでやってくる。


曲がり角から男女の声が聞こえた、


男子の声に聞き覚えは無いが、

その女子の声は良太にとって


大いに聞き覚えがある声だった。


「先輩、今日は時間ありますよね?」

「ああ、部活は引退したし、時間ならいくらでもあるよ」


「やった!…じゃあ、先輩の家に遊びに行ってもいいですか?」

「マキぃ、先輩じゃなくて、いい加減名前で呼んでくれよ」


「え~、でも先輩は、先輩ですし…それに名前で呼ぶのってハズカシぃ…」


交差点に入る前に

良太は声の聞こえる曲がり角を恐る恐る覗いた。


曲がり角からやって来るのはやはり、

稲取さんだった。


それだけで済めば良かったが

隣には知らない男子生徒がいる。


聞き覚えの無い声の男子は

高身長のイケメン生徒だった。


稲取さんが先輩と言うから三年の男子生徒だろう。


部活は引退したと語っていたが

肌はこんがり焼けている。


この夏休みはどのように過ごしたのだろうか。


良太はそのまま走り去れば良かったのだが、

その場で身動きが取れなくなった。


「…黒田くん…どうしたの?」


ふと横を見ると、

そこにいるのは炎天下が続くのに顔面蒼白の上地さん。


立ち止まったタイミングで

上地さんに追いつかれていた。


「あ、いや…上地さん、その何でもないよ」

「…?」


すぐに稲取さんと先輩が現れる。

物陰に身を隠した訳でもないので

直ぐに彼女に気付かれた。


「あっ!黒田くん!…と、きゃっ!…う、上地さん!?」


稲取さんの顔は「シマッタ!」と言っていた。

あと「ビックリした!」とも。


隣の先輩は「な、なんだ?こいつら?」

と顔が言っている。


「ま、マキのクラスメイト?」


「あ、はい、私と同じクラスの黒田くんと上地さんです…」


友達?とは聞かない先輩。

そしてそれにハイと答える稲取さん。


「どうしたのかな?キミたちマキに何か用かな?」


その先輩は訝し気な表情で良太達に尋ねる。


そこまで良太が異質な存在に見えたのだろうか、

確かに良太の隣にいる上地さんは異形だったかもしれないが。


稲取さんが先輩と良太達に割って入った。


「すみません、先輩は先に行ってもらっていいですか?すぐ追いつきますので」


「ん?そう?…分かった、でも何かあったらオレを呼んでね」


先輩は稲取さんの指示通り先に進む。


何を疑っているのか分からないが、

何かあったら呼んでね、と付け加えて。


良太はここまで一言も喋れなかった。

炎天下が続く9月の始めに良太は氷の様に固まっていた。


「ご、ごめん!黒田くん、上地さん!」


「えっ?な、なんで謝るのかな?」


ようやく良太は喋った。

先輩がいなくなってやっと解凍できたようだ。


「ごめん本当は部活の用事じゃなくて、いや部活ではあるんだけど…その神田先輩と話しがあってさ…あ、神田先輩ってさっきの人ね、バスケ部の先輩なんだけど、その、私たち付き合っていて…」


「ア、ソナンダ!ゼンゼンシラナカター」


良太はショックのせいか

外国人みたいな喋り方をしていた。


別に聞きたくない事まで稲取さんは説明してくれた。


「カンダセンパイ」

と言う名のボス級モンスターの存在を良太は初めて知った。


薄々感じてはいたが、

この時点で良太は稲取さんが別世界の住人である事に

ようやくハッキリと気が付いたのかもしれない。


「ごめん!とにかく先輩との約束があって日直の仕事代わってもらったんだ、実は先輩と付き合ってるの秘密にしていて…、ごめん!嘘付いた」


「イイヨ、ベツニ。ツギハ、ボクガニチョクノトキニカワテ!」


「ごめんね、黒田くん、約束するよ次の日直代わるから。あと上地さんもごめんね、勝手に日直変わっちゃって」


「…ん」頷く上地さん。


「それと、今見た事まだ他の人には話さないで貰っていいかな?先輩と付き合ってるのバレたら結構クレームが多そうで…」


「ワカタヨ!ボクゼタイダマテル!ツキアテルコトダマテル!」


「……」もはや喋ることをしない上地さん。遠い違う世界を見つめている。


「じゃ、ごめんね!また明日!」


「ウン、マタシタ!マタシタ!!」


良太の淡い恋心は露と消えた。


あのボス級モンスターの

「カンダセンパイ」と言う名前の先輩と

稲取さんを奪い合うレベルも装備も良太には無かった。


所詮良太の恋心は淡いもの。

風が吹けば簡単に消えてしまう程度のものだった。


「…じゃあ、黒田くん、私こっち側だから…」


「ああ、うん、じゃあね上地さん、また明日…」


「…うん、また明日…、その元気だして…」


あの上地さんが良太に気を使っていた。


別れの挨拶に一言だが、

上地さんにとってはかなり頑張っている。


良太は必死に隠しているつもりだったが

上地さんには良太の恋の相手がバレていたのかもしれない。


そして新学期開始早々に

突然起こった失恋を目撃された。


良太は自宅へ急いだ。

10分で帰る道のりを半分の5分で帰り着いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ