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リアルとゲーム


  署の一階フロアには、

幸薄そうな印象の40代程の女性が椅子に座って外の風景を眺めていた。


その女性の身なりは整っており裕福さがうかがえる。

控えめの化粧をしているが、それでも充分な顔立ちである。




「すみません、お待たせしました」


杉森はその女性に近づき声を掛ける。

女性は杉森よりも隣にいる一之瀬に目が向く。


「いえ…その、そちらの方は?高校生?彼女も何か…」


幸薄そうな女性は

明らかに季節感とサイズ感が違う

モッズコートを羽織った女子高生みたいな

一之瀬を見て言う。


彼女も…に続く言葉は、

何か犯罪に?

と言うつもりだった。


「あ、いえいえ、私も少年課の警官ですよ、おほほ…。一之瀬と申します。私も同行させてもらいますので」


高校生と間違われた一之瀬は、

にこやかに訂正する。


まんざらでもないようだ。


一之瀬は高校生こどもと間違われるのが

少し前までは嫌だったが

最近は少し嬉しくなってきた。


そんな彼女はあと数年で三十路おねえさんの仲間入りだ。


「え?何故ですか?ただ自宅まで送っていただけるだけですよね?」


「すみません、同性が一緒の方が安心されるかと思って」


そういう建前で仕事をサボるつもりの一之瀬である。


「あ…いえ、そういう事ならば…、それよりも失礼しました、私ったら高校生だなんて…」


「へへっ、構いませんよ、若く見られるのは嬉しいですから」


「お前の場合は幼くだな…」

「何ですか?杉森さん」


一之瀬の言葉は無視して、

杉森はポケットから車のキーを取り出す。


「では行きましょう、私の車で行きますので、裏の駐車場にあります」


「無視しないでくださいよ…」




高給取りのイメージがある警官だが、

警察職員の私用車が並ぶ駐車場には

意外と地味な車種が多かった。


そんな中、一際年期の入ったミニバンに杉森は向かう。

かなり地味な車だった。


隣に駐車してある

アニメのフィギュアを車内のフロント部分に丁寧に並べてある

派手なカラーのMINIが余計に目立ってしまう。


杉森はその地味なミニバンの運転席に乗り込む、

一之瀬は助手席にしかめ面で乗り込んだ。

女性は一瞬躊躇しながら後部座席に乗り込む。


その車内は甘ったるい芳香剤の匂いで充満していた。


「杉森さん、この匂い強すぎですよ…」


「たばこのにおい消しだよ、我慢しろ」


「うわ、何かベタベタする…これってたばこのヤニじゃないですよね?私って子供のころから車酔いがひどくって、特にたばこの匂いがする車って苦手で…うっ、ほら何か込み上げてきた…キモチワル」


「飲み込め、吐くなよ」


一之瀬はワザとらしく口に手を当てながら言った。


確かにこの甘ったるい芳香剤と、

微かに漂うたばこの嫌な臭いには気分も悪くなるだろう。


「すみません…、窓を開けても?」


耐え切れなくなったのか、

女性は言う。


「あ、どうぞ…、他の窓も開けますから」


バツが悪くなった杉森は車内全体の窓を開ける。

外の空気が入り女性二人は多少落ち着いたようだ。


交通量の多い国道近くの警察署なのだが、

車の排気ガスの方が女性二人には新鮮な空気らしい。


「…ほら、何が市民の安全云々ですか、これじゃあ拷問ですよ。ああ喉がイガイガしてきた…匂いは誤魔化せても、こればかりはどうにもならないですね」


「うるさいな、嫌なら戻ってもいいんだぞ」


杉森は語気を強めて一之瀬に言った。

居た堪れない気持ちをぶつけている。


「どうぞ、これ使ってください。まだありますので」


後部座席の女性が手持ちのカバンの中から

ブリスターパックに包装された簡易マスクを取り出す。


大きく、

「嫌な臭いをシャットアウト!」

「害ある空気をノックアウト!」

と描かれてあった。


「あっ、すみません。助かりました!」


簡易マスクを一之瀬に手渡した。

一之瀬も女性同様にそれを付ける。


「…では、行きましょうか」


杉森は車のキーを回す、

妙に気になる変なエンジン音が駐車場に響き渡った。


バックミラーで後方を確認、

サイドはミラーを使わずに、

横目でチラリと確認。


後部座席と助手席のマスク面の二人は

喫煙者はゴミだと言わんばかりの目で杉森を睨んでいた。


「…悪かったよ、禁煙するよ」


杉森は消え入りそうな声で何度目かの禁煙を宣言した。

少し季節外れの窓全開のミニバンは女性の自宅へ向かう。



「すみません、ここで大丈夫です。お仕事中なのに、わざわざありがとうございました」


高級住宅街に相応しい、

さぞ、お高そうな一軒家の前で

地味なミニバンは停車した。


女性の御自宅はその身なりに相応しく立派だった。


「いえいえ、警察もサービス業みたいなものですからね、お子さんの事は我々にお任せください。最善を尽くしますので」


ただ着いて来ただけの一之瀬が率先して言った。

一之瀬は「最善を尽くす」と言ったのだが、


事件性を感じ無い只の家出では

警察は人員を割いて捜査出来ない、


今回もデータ入力のみで終わるだろう。

後は家出した本人がひょっこり帰ってくるのを願うだけだ。


今回の送迎も一之瀬が言う通り「サービス」の一環でしかない。

だが、杉森はサービスのみならず、本業を進み出た。


「…あの、よろしければお子さんのお部屋を拝見させて頂けないでしょうか?」


「えっ?」

「えっ?…ただのサボりじゃなかったんですか…」


「何か不都合な点でもございましたら勿論遠慮しますが、あなたのお子さんの為でもあるんです、出来れば協力して頂ければ…」


女性は一瞬躊躇したが、杉森を見て覚悟を決める。


「わ、分かりました、そこまで仰るのなら…。少しお待ちください、散らかっていますので」


女性は慌てて自宅へ入った。


その後ろ姿を見て一之瀬は感づいた事を口にした。


「なるほど…、杉森さん」

「何だ?」


「…積極的ですね。やはり狙ってたんですね、私はお邪魔ですか?」


見当違いも甚だしかった。


「…ああ、帰ってもらっていいぞ」

「もう、冗談ですよ!私も行きます」


「本当に帰ってもらいたいんだが…」



暫くしてから、

女性が二人を自宅へ招き入れた。


そこは豪華な外観どおり豪華な内観であった。


その立派な玄関先には

二人用のスリッパが置かれてある。

貧乏警官二人は若干照れながらそれに足を入れた。


「どうぞ、息子の部屋は二階になります、上着はそちらに掛けておいてください」


「あっ、御構い無く、これは私にとって制服みたいなものですから。ほら覚えていませんか?あの大人気ドラマ!」


一之瀬の暑苦しいモッズコートを指して女性は言ったが

彼女なりの拘りがあるようだ。


女性は自ら薄暗い階段を進み誘導する。


散らかっていると言って時間を取られたが

家の中は既に整理されていて、チリ一つ無く

掃除が行き届いているように見える。


後ろを警戒するように進む女性に一之瀬が問いかけた。


「息子さんがいなくなったのに気づいたのは先月だったとか?」


「はい、9月の半ば頃でした」


「あれ、ちょっと時間が空いてますね?数週間くらい放置していたんですか?」

「放置だなんて!そんな!!」


女性は一之瀬の言葉を強く否定する。

隙間風など入ってこない

頑丈なつくりの屋敷には声が良く響く。


「その、…あの子はいつも部屋に閉じ籠って何か作業をしていまして、あまり顔を合わせる機会がなくって、それで今回も同じ事だろうと思って…」


「同じ家にいるのに数週間も顔を合わせないのですか?」


「その…、実はあまりあの子との関係が良くなくって…」


「何でまた?喧嘩でもしたんですか?」


「いえ、元々仲が良くないと言いますか…」


「元々?どういう意味でしょうか?」


躊躇いながら女性は答えた。


「その…私はあの子の実の母親ではないんです、主人の連れ子でして…」


次第に女性の顔に影が射す。

それでも一之瀬は続ける。


「そうだったんですか、それでその旦那様は今どちらに?お仕事ですか?」

「一之瀬、もうその辺でいいだろ…」


杉森が一之瀬の肩を強めに引っ張り話を中断させた。

女性は俯きながら進む。


「署で全部聞いている、後で報告するから…」


「あっ、すみません…。そう何度も言いたい事では無かったですよね、失礼しました…」


「…いえ、気になさらないでください、捜査には必要な事でしょうから────こちらです、息子の部屋になります」


その部屋の扉には

黄色と黒の配色のテープが縦横無尽に貼られてあった。


それには連なって「KEEP OUT」と文字がプリントされてある。


ここまで徹底して立ち入り禁止を警告しているが

部屋に鍵は付いていなかった。


女性は緊張しているのか少し手が震えていた。

ドアノブに手をかざし意を決したように扉を開く。


カーテンを閉め切っているようで室内は真っ暗だった。

女性は不慣れな手つきで部屋の照明を付ける。


「わあ、すごい!」


一之瀬が素早く反応した。


そこは、何処に視線を持って行けばいいのか分からない程の

独自の熱量と圧迫感がすごい部屋であった。


デスクの上には

窮屈そうにパソコンのモニターが何台もずらっと並ぶ、


その周囲に、

一見小型の冷蔵庫か製氷機かと思うようなPCが数台設置してあった。


天井近くまであるスチールラックには

アニメのフィギュアが整列している。


素人目には規則性が分からないが、

おそらく持ち主のこだわりの隊列を組んでいるのだろう。


「もしかして、このPCは息子さんが?」


「ええ、あの子の趣味で、自作のパソコンらしいです。私はその辺が弱くて理解できませんが」


「へえ!いい趣味していますね息子さんは!それにアニメの趣味も中々です!」


一之瀬はパソコンに近づき興味深そうに眺める。


アニメのフィギュアには極力手を触れず

ベテラン鑑定士が骨董品を鑑定するかの様に注意深く観察している。


「ふむ、私と気が合いそうです!」

「それは嬉しくないな」


杉森はそう言いながら、

鋭い眼差しで部屋全体を眺め、おかしな点はないか瞬時に観察する。

気怠そうでいながら意外としっかり警察をしていた。


「これだけ、他と違うな」


メインデスクに集中してまとめてあるPC機器とは別に

部屋の隅に独立してPCとモニターが備わってあった。


車のハンドルを模した機械、

ゲームのコントローラー、

他おそらくゲーム周辺機器が備わっている。


一之瀬が、ずいっと前に入り込んで言う。


「ははーん、これはゲーム専用のPCだと思いますよ!でも、独立して設置してるのも珍しいですね、一々移動するの面倒じゃないですかね?それでは電源入れまーす」


趣味が似通った部屋に一之瀬は興奮していた。


気合を入れるように服の袖をモッズコートごとまくり上げる。

パソコンの電源ボタンを押そうとするが、


「え?その…あまり勝手な事はしないでください、息子が気づいたら怒りますので」


女性に止められる。


ここまで、非協力的だと捜査が進まない。

仕事をサボってまで来た意味が無くなってしまう。

そもそもその息子が今いないのだから問題なのではないか。


一之瀬は少しムッとしながらそう思った。


「大丈夫です、電源を入れる程度ですよ!それにPCに何かメッセージでもあるかもしれませんよ?」


「そうかもしれませんが…それってゲーム専用とか言っていませんでしたか?」


「あ、ごめんなさい、電源押しちゃいました!」


片目を閉じて舌をペロリと出しながら一之瀬は言う。


「おい、一之瀬」


「…何ですか?杉森さ────」


眠たそうな目をしているのに、

すごい圧の眼差しを放っている。


「はいはい、すぐシャットダウンしますよ、少し待っていてくださいね」


一之瀬は杉森に従った。


「…お、お願いします」

「すみません、あのバカが失礼しました」


軽く舞い上がっている

一之瀬の行動を監視しつつ、


「一つ簡単な質問に答えて頂きたいのですが…」


女性に質問をする。


「…はい、どうぞ」


「では、息子さんがいなくなってからこの部屋に入ったのは何度目ですか?」


杉森の質問に女性は少し考えてから答える。


「えっと、そうですね…、あの子がいなくなったのに気が付いた時と、その後は1~2回程度です、実はあまり彼の部屋に入らない様にしていました。戻って来た時、怒られても仕方がないので」


「そうですか、と言う事は、この部屋は余り調べていないのですね?」


「ええ、書置きとか無いか一通り見た程度です」


杉森は、なるほど、と頷き

手帳に文字を数行走らす。


「出来れば部屋の状態はこのままにしておいて下さい、今後捜査する際に必要になりますので」


「…はい、分かりました」


杉森は懐からスマホを取り出し

女性に見せつけながら言う。


「すみません、写真を撮らせて貰ってもいいでしょうか?」


「え?わた────」

「いえ、この部屋の中です…」


「あ、すみません…。どうぞ…」


杉森は一頻り室内を撮影する。

何か漏れが無いか後で確認するためだ。


「おい、一之瀬」


スマホの画面に映る一之瀬は

パソコンを食い入る様に見ている。


パソコンのモニターには

アニメの美少女キャラクターが

グラビアアイドルの様にポーズを取っていた。


電源はまだ落としていない。


「杉森さん!見てください!」


「何やっている、電源を落とすだけの筈だろ?」


杉森は女性を横目に見ながら一之瀬を注意する。

だが、一之瀬は…。


「ほら!このオンラインゲーム!私もハマっているんですよ!あっこれも!まさかゲームの趣味も同じだとは!」


「…もうその辺にしとけ」


一之瀬はマウスを握ってアレコレ操作をしている。

モニターに映る画面が次々と切り替わる。


パソコンの電源を落とす様子は無い。


「ちょっとだけ…彼のレベルがどれくらいか見るだけです」


「おい!」「あれ?」


「いい加減にして下しさい!真面目に捜査してくれているんですか!?すぐ電源を落とすって言っていたではないですか!」


女性は我慢の限界だった。

一之瀬を睨み怒りをぶつける。


「一之瀬、それくらいにしろ!」

「え?でも…」


「何であなたみたいな人が警察なんてやっているんですか!?真面目に捜査してください!」


元も子もない事を女性は言う。

だが全く持ってその通りだった。


「何度もすみません、勝手が過ぎました。一之瀬、謝れ!」


「す、すみません…舞い上がってしまいました」


女性に向かって頭を下げる一之瀬、

彼女なりに懸命に謝罪する。


女性はそれを見ようともせず杉森だけ見る。


「すみません、今日ところはこれで失礼させていただきます」

「すみません…」


「そうしてください!今日はお引き取りください!」


女性の剣幕に一之瀬はたじたじだった。

サボりのつもりが飛んだ目に会った…と一之瀬は思う。


だが、杉森の方は冷静だった。


「ですが、また後日伺わせてもらってもいいでしょうか?勿論こいつは置いて来ます」


「…分かりました、約束ですよ、彼女は連れてこないでください」


「申し訳ございませんでした、行くぞ一之瀬!」

「は、はい…」



杉森のミニバンに乗り込み

足早に高級住宅街から去って行った。


少し遠回りをしながら車を流す。

信号待ちで杉森が口を開いた。


「ばか、調子に乗り過ぎだ」

「すみません、軽率でした…」


「…ところで何か見つかったのか?」


杉森は一之瀬の行動を見逃していなかった。

杉森の言葉に一之瀬はニヤリとする。


「はい、すごい発見しちゃいましたよ!」

「何だ?」


杉森は運転中に助手席に向かって

身体ごと顔を一之瀬に向ける。


「さっきのオンラインゲームです!」

「何だ、それだけだったのか…」


でもすぐに前方を向き

ハンドルをしっかりと両手で握った。


「じつは私、彼の操作キャラをつい先日同じゲームをプレイ中に見かけたんです!」


「…そうか、だからどうした?」


イマイチの反応に

一之瀬は少しがっかりする。


「杉森さんはネトゲしたことないんですか?」


「ゲームは学生の時くらいだな…。ネトゲ何てしたことないぞ」


一之瀬は「えっ?信じられない!何で生きていられるの?」と言った顔で杉森を見る。


「どうでもいいから本題を早く話せよ」


「はいはい、分かりました。今彼がリアル世界のどこにいるかは分かりませんが、オンラインゲームの世界に居たのは間違いないです!それに彼は間違いなくネトゲ中毒!ゲーム世界に入り浸っている可能性が高いです!私と同じ匂いがしますからね」


杉森は無言のままだったので、

そのまま一之瀬は話を続ける。


「私はネトゲの世界に限るなら顔が広いのですよ!ゲームの世界にいるなら簡単に見つけ出して見せます!」


「…大した自信だが、そもそもそのゲームのキャラは本人に間違いないのか?」


「ええ!間違いありません。すごく可愛い女の子のキャラで印象に残ってます!さっきの彼のPCでしっかり同一人物だと確認しましたし、私くらいのゲーマーならまず見間違う事はないですよ!」


杉森は少し考え込む、


一之瀬のその絶対的な自信は何処から湧いているのか定かではないが、

もし彼女の言う通りそのキャラクターが本人に間違いなければ、

探りを入れても良いかもしれない。


「そうか、ゲーム内で接触して居場所を突き止める…まあ穏便に済ませられていいだろうな、面倒事も少なそうだし」


「ええ!それに最終手段で運営に協力してもらってIPを調べて何処のPCでログインしていたとか色々調べられますよ!」


「ただの家出で、そこまでの許可を取れると思うか?」


まだ大事になっていないこの事件ではそれは叶わない。


一之瀬の友人に頼めば違法性があるが調べられない事も無いのだが、

そこまで危険な事をする程の事件ではない。


「うっ、確かに…」


「まあ、ゲームの捜査は意外と有りだな、よし一之瀬はそっちを調べてみろ、ただし穏便にな、その彼に素性がばれない様に、だぞ」


「えっ!いいんですか?仕事でゲームしていいんですか?」


一之瀬の理想は「ゲームしながら仕事が出来ればな…」である。

この瞬間、彼女の夢が実現する事になった。


「そうは言ってない、署でゲームしたら指詰められるぞ?」


一本指で器用に

タタタタタッ!タン!

とキーボードを打つ強面の上司を思い出す。


瞬時に一之瀬の顔色が変わった。

そんな甘いものでは無かった。


「…そうですね、お家に帰ってからやりますよ。杉森さんも一緒にやります?私が教えて差し上げますよ!」


後輩である一之瀬が杉森に先輩面で言う。


10月初旬、

年期の入ったミニバンの車内に

先輩風が吹き荒れる。


「いや、結構だ。この事件はお前の独壇場だ、大体の事は任せたぞ一之瀬巡査長」


杉森はそれを断った。

要は、面倒事おしごとは一之瀬に押し付けるつもりだった。


「そうですか、残念です…。ところで杉森さんが言ってた、“気になる点”って何だったんですか?」


「なんだ?そんな事言ったか?」


「何で、そうすぐ忘れるんですか?その為にここまで来たんでしょう!私はサボるつもりだったですけどね!そして、怒られて散々な目に会いましたよ!」


「…そう、だったな」


一之瀬のクレームは無視する。


少し間を空ける杉森。

先程の幸薄そうな印象の女性を思い出す。


少し考え込むように、

杉森は前方を見つめながら答えた。


「…はっきり言えないが、彼女は何か隠し事をしている。まあ、確証はない、ただの感でしかないけどな…」


まだ思うところがある杉森は

この時点ではあえて口にしなかった。


「うわぁ…刑事の感って言いたいんですか?私たち少年課ですよ?」


「何が言いたい?少年課も警察に変わりない、犯罪に大きいも小さいも無いだろ」


「う、うわぁぁ…、杉森さんが…うわぁぁ、キモチワル…」


「飲み込め、吐くなよ」


少し遠回りで車を流す。


10月の始めごろ、

陽射しはあるが風は冷たくなり始めている。

だが、ミニバンの窓は全開だった。


甘ったるい芳香剤の臭いはまだ消えない。


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