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税金泥棒

10月に入り季節はだいぶ秋らしくなってきた。


陽射しはあるのだが、

吹く風が強く冷たくなってきている。


窓から見える街路樹は所々色づき始めつつあった。

長かった夏も終わり季節は秋になる。




そんな外の世界の季節の移り変わりにはお構いなしに、

一之瀬は上司に隠れながらスマホのゲームアプリの世界に没頭していた。


授業中にスマホをこっそりいじる女子高生の様だ。


一之瀬はスマホの中で大活躍するイケメンキャラにニンマリとする。

声には出さないが、「ぐふふっ…」と笑っていた。


女子高生みたいなことをする一之瀬だが、

その体型も外見も女子高生とあまり変わらない。


成長期をどこかに忘れて来たようで、

成熟する直前で成長は止まったようだ。


社会人としては少し派手に髪を明るく染めている。


本人としては上司に怒られるか?怒られないか?

くらいの絶妙な加減のつもりだが、結局上司に怒られた。


それでも髪の毛の色は戻していない。

頭の成長も止まっているのかもしれない。


上司の動向を警戒する。

ヤクザみたいな強面の上司は一本指で器用にキーボードを

タタタッ!と打っている。


ばれていない…。


一之瀬の方は一応、仕事してますよ、といった体で、


右手はマウスを握り定期的にカチカチして、

左手にスマホを持ちデスクの下で隠しながらゲームをする。

長い前髪で視線を上手くごまかしていた。


一之瀬は外見も中身もそう女子高生と変わりは無いようだ。




「あっ、やった信国くんだ…あ、でもこれ持ってるか…」


「…おい一之瀬」


「はあぁっ!!!び、びっくりした!」


強面上司ではなく、

一之瀬の先輩である杉森が後ろに立っていた。


「…す、杉森さん!驚かせないでくださいよ!」


杉森は眠たそうな目をした長身痩躯の男性で、


部署内では中堅どころに位置するが、

堂に入った気怠い雰囲気で中堅と言うよりもベテランっぽくみえる。

その無精ひげを剃って、もっとシャキっとしたら

男前?とも言えなくもない。


ポケットに手を突っ込みながら杉森は答える。


「ああ、悪かった、ちょっと出るから、あのやくざ屋さんが何か聞いて来たら適当に言ってくれないか?報告するのも面倒だしな…」


杉森は強面上司を、ちらっと見て言う。

強面上司は一本指で器用にキーボードを

タタッタタタタッ!と打っている。


「また駅前のパチンコですか?」


「えっ?なんでお前知ってんの?いや…じゃなくてさ、さっきの相談に来た保護者を自宅まで送っていくんだよ」


「へえ、これまた珍しい。いつも気怠いオーラ全開のいつも眠たそうな目をした杉森さんが…。あの職務怠慢の申し子の杉森さんが…。怠慢王の夢はどうしたんですかー!」


杉森の職務怠慢を放棄して献身的な職務態度に喝を入れる。

どこか間違っていた。


「そんな夢なんて抱いてない、一般市民の生活の安全を守るのが我々の務めだろう?それに職務怠慢はお前の方だ」


杉森は一之瀬の手元のスマホを指差して言った。

危うくスマホを落としそうになる。


「こ、これは仕事です!健全な少年少女たちが悪徳課金ガチャにハマらない様にです!」


「少年少女たちがハマらない様にお前が代わりにハマってやっているのか?今月もヤバそうだな、また昼飯オゴって、とか言うなよ…」


「うっ!…ま、まあ、それにしても何でまた?ただの家出でしょう?そこまでする必要はあるのですか?」


一之瀬は話を本題に戻す、

と言うよりも話を逸らした。


「まあ、そうなんだが…」


少し間を空ける杉森。

先程の保護者との会話を思い出す。


身なりは綺麗だったが

幸薄そうな印象の40代の女性。


憔悴しきっており少し頬がこけていた。

息子が失踪したのだから無理もないが。


だが、どこかおかしい点がある。


「…いや、まあ少しな、気になる点があって…」


杉森は一之瀬から視線を逸らせて柄にもない事を言った。

普段の杉森はこんな事は言わない。


「ははーん、分かりました!杉森さんその保護者を狙ってますね!杉森さんバツイチだし、イロイロ溜まっているんですね…カワイソーニ」


「ばか、確かに熟女好きだが、もっとふくよかな方がタイプだ、それにあの人は熟女って程の年齢でも…って変な事言わせるな」


柄にもない事をいった杉森は

照れ隠しなのか一之瀬の悪ふざけにノってやった。


「あれ?杉森さんって熟女好きだったんですか?いや、ツンデレな杉森さんはきっと真逆の事を言っている筈です…。はっ!やっぱり杉森さんってロリコン?つまり私を狙っているんですか!?ごめんなさい気づかなくって…でも私アニメの世界に好きな男の子がいるんです、それに杉森さんの事ぶっちゃけタイプじゃないです」


女子高生みたいな体型の一之瀬が言う。


ノってやる必要は無かったと、

しみじみと杉森は感じた。


「うん分かった、後は任せたぞ、じゃあな」


「いえ、私も同行します!同性が一緒の方がその保護者の方も安心でしょう?」


「だめだ、お前は残ってろ」


「じゃあ、あのやくざ屋さんに杉森さんが仕事をサボって女性を口説いてるって───」


杉森は面倒事を増やしたくなかった、

だから、すんなり折れた。


「分かったよ…、もう面倒だから着いて来い…」


「やった、では行きましょう!…正直ここに居たくなかっただけなんですよ」


一之瀬はモスグリーンのモッズコートを手に取る。

10月に入りだいぶ秋らしい季節になったが

コートを羽織るにはまだ早かった。


「…そのコート暑くないか?」


「平気です、私はこのコートを着るためにこの仕事を選んだくらいですから!ちょっと暑いくらい関係ないですよ、それと私の事はアオシマと呼んでください」


「わかったアオシマ」


「ちょっと違いますよ、少し間延びした感じで喋って下さい。今の杉森さんはワクさんですよ、分かってます?」


「…面倒くさいな、先行くぞ」


「ちょっと、杉森さん!いやワクさん!ノリ悪いですよ!」




一足先に部署を出た、

長身痩躯の気怠い感じでいつも眠たそうな目をした男性


「杉森巡査部長」


それを小走りで追う

女子高生みたいな外見の少しオタクっぽい女性


「一之瀬巡査長」


不真面目な勤務態度の二人は、

それでも、  署生活安全部少年課所属の警官である。

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