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何のひねりも無い

黒田良太は中学二年生だ、


成長期に入っている筈だが

少し背の低いのが悩み、それでいて痩せ気味。


よく人の顔色を窺いながら慎重に言葉を選ぶ。

好き嫌いをはっきりしない良くも悪くも表裏の無い性格である。

彼はクラスで目立たない部類の男子生徒であった。


そんな黒田良太は教室のど真ん中に席がある、


のだが、


今日、良太は学校を休んだ。

その真ん中の席には誰もいない。


上地真理うえちまりも中学二年生だ、


クラスの中でも特に目立たない女子生徒である。

いや、目立たないというには少し間違いである。


確かに自ら目立とうとしないが

見た目のインパクトは絶大だった。


身体の線が細くて、肌が驚くほど異様に白い。

そして異様に長い髪を前に垂らして素顔を見る事ができない。


つまり、生徒たちは彼女の素顔を知らない、


真理はかなりの美人である。


ただ、それは他人が決める基準。

真理にはそれはどうでも良い事であった。


真理は空白の席に目を向ける。


「…いない」


せっかく意を決して、

自身の正体を明かそうと思っていたのだが、


ちなみに、マリーは真理マリである。

何のひねりも無く、真理マリはマリーである。


仕方がないので、また明日にでも…、と真理は思ったが、


何故良太は休んだのか…、


それを考えていると、

急いだ方が良い気がした。


だが、どうしたら良太に会えるのか…、

簡単な事だが、もう自宅まで行くしかなかった。


だが、真理は良太の自宅が何処にあるのか知らなかった。

通学路が一緒なので近いとは思うのだが…、


「ト、鳥…くん」

「うわっ!!…えっ?上地さん?」


真理は鳥ナントカくんに話しかける。

良太と仲良く話しをしているとことを何度か見かけた事がある。

彼なら知っている筈だ。


「…オ、オレに何か用?」


怯えた表情で鳥島くんは答えた。


「…りょ、黒田くん家って、何処だかしっている?」


極端に他人に話しかけない真理は

最終手段である、“他人に聞く”をすることにした。


「…え?何で、良太ん家を?」


そして滅多に人の目を見て話さない真理は、

人の目を見て言葉を伝えた。


「お、おねがい!」


真理の熱意が伝わったのか、

早口気味で鳥島くんは良太の自宅の住所を教えてくれた。


…何て事は無かった。

良太の自宅は真理の家からそんなに遠くなかった。


徒歩、数分の距離しかない。



マリーを失ったショックで良太は学校を休んだ。

いや、一度は学校へ向かおうとした。


だが、毎朝「おはよう」と

優しく挨拶してくるお婆さんの声を聞いた途端に

マリーを思い出し自宅へ逃げ帰ってしまった。


村の毛皮老婆と関連付けてしまっているのかもしれない。


良太は現実が耐えられなかった。

自室に引きこもり布団に蹲る。


「うぅうう、マリー…」


今日はずっとこの調子だった。


(リョータくん)


マリーの声が聞こえる。


たった一日の引きこもりで

とうとう、幻聴まで聞こえて来たようだ。


「ごめん、マリー、僕のせいだ…うぅうう」


(リョータくん!)


耳にこびり付いて離れない、マリーの綺麗な声、

彼女の肌の温かさ、(触れた事はない)

笑顔の似合う素敵な女の子…。


マリーは、良太の異世界りそうの全てだった、


それなのに死んでしまった。

いや自分が殺してしまった、


良太はそう責任を感じている。


「リョータくん!!」


ほら、また幻聴が…。


「黒田良太くん!!!────げほっ…」

「はい!」


違った、誰かに呼ばれていたようだった。


傷心に病んでいた良太だが大きく返事をする

普段の彼の気の弱さが伺えた…。


良太は自室の窓から外を覗いた。

そこには知った───異様に長い前髪で隠れた───顔があった。


「上地さん?」


上地さんが良太の自宅の前に立っていた。



真理は先程から慣れない大きな声を出し過ぎて喉が痛かった。


「黒田良太くん!!!────げほっ…」

「はい!」


良太は元気よく返事をした。


真理は一安心する。


良太が変な事を考えていないか不安だったが、

いらぬ心配だったようだ。


「上地さん?」

「…りょ、黒田くん!…話をしたい事が」


「えっ?何?何て言ったの!?」


良太は閉め切っていた窓をようやく開けて聞き返す。


「話を!したい!降りて!来て!」

「わ、分かった!」


こんな大きな声でしゃべる真理を見たのは、

良太は初めてだったのだろう。

傷心はさておいて、慌てて部屋を飛び出した。


玄関先に真理が喉を押さえて立っていた。

こんな大きな声でしゃべるのは、真理は滅多に無かったから。


自宅の前に同級生が立っている、

そんな光景を良太は初めて見た。


同級生の自宅に出向くのは真理は初めてだった。


「…上地さん、どうしたの?」


皺が目立つシャツを着た、ボサボサ頭の良太の姿を目にして、

真理は「よし!」と心の中で気合を入れて告げる。


「黒田くん、いえリョータくん!今まで黙っていたけど…、そう!私がマリー!安心して、私は生きている!」


真理は良太に向かって予め用意していたセリフを堂々と言い放った。

噛まずに言えたのは奇跡であった。


「…はぁ?」


良太は当然のリアクションをした。


「……………」

「……………」


真理はこの後のセリフを用意していなかった。


「…じゃ、じゃあまた明日、元気出してね」


「ちょ、ちょっと待って!どういう事!?なんで上地さんがマリーを知っているの?」


良太は当然、真理を引き留める。


「今言ったでしょ?マリーは私だから」

「ごめん、理解できないよ、何で上地さんがマリーなの?マリーはマリーでしょ?」

「そうだよ、真理はマリーだよ」

「何が言いたいの?」


コミュニケーション能力が低い二人の会話は埒が明かない。


「わかった、話は長くなるけど、最初から、順を追って話そうか?」

「そうだね、このままだと一日が終わりそうだし…、僕ん家で話そう、今誰もいないから」


良太は真理を自宅へ招き入れた。


自分の部屋で、とも思ったが、

散らかっている事を思い出しリビングへ通す事にした。


何のひねりも無く、真理マリはマリーだった。


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