GAME OVER
「私の部下が世話になったな…」
「あんた、あの時の…」
マリーはボスこと、
「COCO」の事は覚えていた。
「マリーさんやばいですよ!こいつCOCOです!ゴロネコのギルマスですよ!このゲームでも指折りのトッププレイヤーです!!」
(マリー、隙を見て逃げよう、連戦だし勝ち目がない!)
「正直今回はそうしたいけど…」
COCOの異様な雰囲気に
マリーは立ち尽くしてしまう。
“傲慢の”支配者「COCO」
光輝く白銀のフルプレートを身に纏ったトッププレイヤー。
悪徳ギルド「ゴロ寝子同盟」のギルマスにして最強のプレイヤー。
レア称号の一つである、
「支配者」の称号スキルを発動した事により、
敵対した相手は逃げる事ができなるくなる。
マリーはCOCOの術中に嵌ってしまった。
「約束どおり、見逃すのはこの前だけだ、今回は仕留めるぞ…」
そして「傲慢」の称号スキルが発動する。
赤黒い炎のような禍々しく不気味なオーラを身に纏い、
白銀のフルプレートが徐々に闇色に染まっていった。
…ただ、それだけだ。
特に効果はない。
七つの大罪シリーズは大体こんなのが多い。
だが、キャラメイクに凝ったプレイヤーには
大変貴重なレア称号である。
「いいよ、こんな所でやられるつもりないから…」
(マリー!)
「だいぶ腕に自信があるようだが、私はそう甘くは無いぞ…」
「リョータくん、いつも通りお願い!」
(ああ、もう!こうなりゃやけくそだ!)
マリーは大剣を抜かず、
そのまま突進する。
良太はマウスカーソルで標的を定めて
魔法のショートカットキーを押す。
鋭利な氷の散弾がCOCOを襲う、
だがこの魔法は牽制である。
相手の隙を付いて瞬時に近づくためだ。
マリーは必勝の攻撃パターンで
COCOに立ち向かった。
COCOは武器を手にしていない。
氷の散弾をCOCOは浴びる。
大した攻撃でもないがこれがいつも通り。
その隙にマリーは背後に回り、大剣で一太刀…
「くっ!」
そう思ったところマリーは
咄嗟にCOCOから距離をとった。
マリーは
いつも通りで無い違和感を察知した。
「いやあ、素晴らしい判断能力ですね!それにビックリです!あなたもノーモーション攻撃ができるんですか?これは私が秘密にしていたテクニックなんですけどね!まあ、でもそんなに難しいテクニックじゃないし知れ渡るのも時間の問題だったか…」
先程のテンションとは違う喋り方をするCOCOは
興奮気味に言った。
その直後、
強烈な光の柱がCOCOを包み込んだ。
「トラップを仕掛けていたんですよ、接近戦に自信があるみたいなんで、これで一発!と思ってたんですが、中々です!でも次でおしまいですよー!」
COCOは上級の光魔法の即死攻撃を狙っていた。
「何だか勝てる気がしない…」
(マリー、ここは謝って、見逃してもらおう…)
「ごめん、リョータくんそれは無理だよ…」
(ダメだよ!マリー!…し、死んじゃうかもしれない!!)
良太がゲームとしてプレイしている時は
何度か死亡する事があった。
その時はすぐ近くの村で復活する。
そういうシステムになっている。
そして、マリーになってからは
一度も死亡したことがない。
危険な目には何度か遭遇した事があるが、
それでも掻い潜って来た。
では、
今回はどうなのか?
マリーの死は何を意味するのか?
良太にはそれは分からない。
そして、良太の心配事は的中した。
マリーが光の柱に包まれる。
「あ、すみません。隙だらけだったんで」
即死効果の上級の光魔法。
ノーモーションで発動された
その魔法をもろに浴びてしまう。
そして、
糸が切れた人形の様にマリーは崩れ落ちた。
(…マ、マリー?)
マリーは眠る様に横たわっている。
(マリー!返事してよ!!)
良太のパソコンのモニターには
非情にも終わりを告げる文字が浮かび上がる。
「GAME OVER」
徐々に画面は暗くなっていった。
…
…
…
…
…
「あっ、しまったもう終わっちゃった…、もう少しバトルを楽しみたかったのに…」
マリーの亡骸は既に消えていた。
通常であれば、近隣の拠点に転移する。
「まあ、仕方がない!…勝利報酬は使い古した鉄の手甲か、あのおばあちゃんのヤツだな…。私もコレ沢山持っているしな…、っとそんな事よりお仕事、お仕事!」
COCOは向き直して、フタバに話しかける。
普段ならすぐに隠れているフタバだが、
何故か逃げもせずCOCOを睨みつけていた。
「あ~、えっと…、こほん!私はCOCO、ゴロ寝子同盟のギルマスだ…、フタバく…さん、そう言えば君は私のギルドに入りたいと言っていたね…」
「あんた…、殺したな?」
「へ、何?今の“熊殺し”さんの事?」
「ああ、そうだよ!」
「確かに凄腕のプレイヤーでしたね、私も若干本気になりまして、こうなりました」
「オレは知らないぞ!殺したのはアンタだ!」
「大丈夫ですよ、今頃どこかの村で復活していますよ!ところでフタバさんってお幾つですか?高校生ですか?高校生ですよね!意外と声高いですね、まるで女の子見たいな声です」
「転生者が死んだらどうなるのかまだ分からないんだ!殺したのはアンタだからな!」
「え?ごめんなさい今何て言いましたか?天津飯?」
今度はフタバが光魔法を発動する。
即死効果のない、ただの目晦まし。
「うわっ…、しまった!」
画面全体が光に包まれ真っ白になる。
光魔法の効果によって
COCOは一時的に動けなくなった。
COCOを動かせる事が出来る頃には既に遅かった。
フタバはそこにはいなかった。
「…しまった、支配者スキルを使っておけばよかった、どうしよ、杉森さんに大見え切ってしまった、何て報告しよ?」
COCOこと「一之瀬」は
先ほどのフタバの言葉が気になった。
「天津飯が死んだら…か、えっと、確かコミックでは何度か死んで、その都度、生き返っている筈だと思うけど」
沢山集めて願い事を叶えるアレの事を言っている。