メインクエスト開始!
コツコツと冒険者ギルドのクエストを続けた結果、
マリーの冒険者ランクは
「C」から「B」へ上がっていた。
でも、実はそんなに時間がかかる物ではない、
普通のプレイヤーでも2~3日ほどでランクBにすぐ上がる。
良太とマリーは二週間ほどかかった…。
だが、これであやふやになりつつある、
ゲームのメインストーリーに関わる
大事なクエストが受けられるようになったのだ。
冒険者ギルドでメインクエストの受注を終えて、
マリーは良太に話しかけた。
「リョータくん、このクエストって何か意味あるの?」
(えっ?現物支給の事?確かにあれは無いよね…、指輪は良いとしても、小麦だよ?この冒険者ギルドも経営難なのかな?)
今回のクエストは
メインクエストの割に報酬がイマイチだった。
だが、マリーが言いたいのはそこではない。
「そうじゃなくて、ほら、私たちの使命…、この世界の平和を守る事の…」
(ああ、それね…、まあ大丈夫だよ!)
若干ボヤけつつある
二人の使命的なアレっぽいその事をマリーは言いたいようだ。
だが、良太は含みを持たせて大丈夫と言う。
(…ちゃんとこれも計画の範囲内さ!)
今回のクエストはそれを進める為の第一歩である。
良太は敢えてマリーにこの事を伏せていた。
計画と言うよりも気持ちの問題で
「ネタバレしていたらつまらないでしょう?」
と言うのが良太の考えである。
(それよりも、食料は持った?回復アイテムも充分にある?装備はちゃんとメンテナンスした?あと、解毒剤は必須だよ多すぎても損は無いからね)
過保護ぎみに良太は言う。
「大丈夫だよ、おまけに討伐があるくらいで、ただの調査クエストでしょ?」
(いやいや、警戒は怠ってはだめだよ!何があるか分からないからね!)
メインストーリーを進めるための大切なこのクエストを、
良太は攻略サイトで事前にリサーチしていた。
実は今回、クエスト専用ボスが出る。
マリーの実力では攻略に問題ないが、
毒攻撃を仕掛ける厄介な敵なので
用心に越したことはない。
(夜間のクエストだから気を付けて進んでね、魔物も出て来るよ)
「うん、今日は月が出ているから視界は良好だよ、それにリョータくんもいるしね!」
(へへっ!任せて頂戴!じゃあ行こう!マリー!)
「うん!」
二人の準備は万全だった。
無駄に重厚な造りの村の門をくぐり、
二人のクエストが始まる。
…
…
…
…
…
メインクエスト「太古の神殿調査」
難易度:★★★☆☆
条件:太古の神殿の調査、周囲の魔物を5体以上討伐
報酬:ルビーの指輪、小麦×5
(クエスト詳細)
村の外れにある、太古の神殿から夜間に不思議な光が目撃された。今のところ被害は報告されていないが、その光につられて夜行性の魔物が集る可能性がある。
神殿の調査、並びに、周囲の魔物を討伐せよ。
なお、本来この神殿は聖域に指定されており、人の出入りを厳重に制限しているのだが、今回は特例で侵入を許可する。責任持って対処せよ。
…
…
…
…
…
と言うのがゲーム上の設定である。
厳重に人の出入りを制限された聖域に
特例で調査をする事になったマリーだが、
だったのだが、
だが…、
(うげっ!)「人が多い…」
聖域である太古の神殿はビックリするくらい大繁盛していた。
その掃いて捨てる程の人だかりは
マリーと同様に駆け出し冒険者の装備一式を身に纏っている。
マリーと少し違う所と言えば、
何故か皆殺気を帯びているくらいか。
実は、このゲームの運営会社が、
スマホのゲームアプリの台頭により低迷するPCオンラインゲーム市場に嘆き、
狂っているとしか思えない程の
莫大な広告宣伝費を投資したのだ。
具体的な手法はここでは語るまいが、
その結果、
投資した広告宣伝費に見合う新規ユーザーの獲得に成功したのだった!
という運営側の話を良太は知る由もない。
「どうするリョータくん…?また今度にする?」
(どうしようか、取り敢えず調査は後回しにして、魔物の討伐だけでも済ませておこう)
「うん、そうだね…、でも」
辺りを見渡すマリー、
魔物など何処にもいない。
ただ、殺気を帯びた冒険者の群れがそこにいた。
「その魔物ってどこいるのかな?」
(いないね…、この人の数だしヤラれちゃったのかな…)
良太の推測どおり
ここにいる冒険者たちに殲滅されていた。
彼らはマリーと同じクエストを受注しており、
討伐対象と調査目標が丸被りだった。
(あっ!ほらあそこいたよ!)
「え?どこ」
小型の魔物がリポップして、
「ムキュー!」と威嚇する。
このオンラインゲームでもマスコットの様な扱い方の
愛くるしいモフモフした魔物である。
「あっ、ホントだ!急いで、討ば─────」
その瞬間に
周囲の冒険者たちの目の色が変わった。
血に飢えた冒険者たちは
「ひゃっはーーー!」
と、魔物に寄って集る。
「どけぇ!オレの獲物だ!!」「だまれ!オレが先に見つけたんだ!!」「先に見つけたのはこのオレ様だ!!邪魔するヤツは殺す!」「コロス、コロス」「死ねー!」「従え!オレに従え!力こそが全てだ!!」「殺す!殺す!」「血だ!血が見たいー!」「ニク!ニク!」
魔物を奪い合う集団PKが始まった。
「────つ、出来ないね」
それはもう、
目を向けられるような光景では無い。
(お、おぞましい…)
「何だか魔物が可哀想に思えて来るね」
神聖な太古の神殿は
さながら世紀末の様相と化していた。
そんな血に染まった聖域に
気の抜けたセリフが響き渡る。
「へい!らっしゃい、らっしゃい!解毒剤ありますよー!ここのボスは毒攻撃しますよ!お買い得ですよー」
可愛らしい、ころころとした澄んだ声である。
「PvPならMPポーションが必須ですよー!今ならなんと、メーカー希望小売価格の三割引きですよ!」
戦場にはこういった、
がめつい輩が沸いて出る。
誰の希望小売価格なのか分かった物ではない。
だが、ころころとした澄んだ声…、
その声に良太は聞き覚えがあった。
(あれ?マリーあの人)
「どうしたのリョータくん?」
その声の持ち主は
猫耳の小柄な少女で自身の倍以上ある荷車を引いてる。
「あれ?」
猫耳娘は、
独り佇むマリーに目が留まり、
「…あれ?アレアレアレ!?あれー!?あっ!!やっと見つけたー!」
「やかましい…」
その猫耳娘は、
アレアレ言いながら荷車ごと
ガタガタ駆け寄って来た。
何か商売をしていたようで
荷台には沢山の売り物が乗っていた。
「だれ?」
(ほら、この前のゴロネコと戦った時の)
「ああ、噛ませ犬の…」
(違うよ!そっちじゃないよ!そして、その人の事はもう忘れて!)
「フタバですよ!ようやく見つけた!!随分探したんですよ!」
マリーはフタバを見遣る。
「ああ、あの腰を抜かしていた…」
マリーの体格はさして大柄と言う訳では無いが、
小柄過ぎるフタバを見ると
どうも見下すような形になってしまう。
そして興味を無くしたように言った。
「久しぶり、じゃあ私は用事があるから、さよなら」
別に見下している訳では無ないが、
素っ気なく背を向けて立ち去ろうとした。
「なんでそう早く去ろうとするんですかー!」
「何?何か用でもあったの?」
マリーは立ち止まった。
別に興味が無いと言う訳でもない。
しめしめと、
フタバは自身の両手をモミモミ握りながら近づいてくる。
「いやいや、ただ、ちょっとお話ししたい事がありましてね…」
「私は特にないけど、それじゃあ」
だが、やはり立ち去ろうとする。
「だからちょっと待って!!ほら、この前のお礼もちゃんとしてなかったじゃないですか!それと本当は、ただ仲良くなりたかっただけですよぅ…。同じ女性だし仲良くしましょうよぅ!女性プレイヤーって少ないでしょう?」
フタバの言葉に、
マリーは背を向けながら考えこむ。
「そう?女性冒険者って結構多いと思うけど」
余談だが、
このオンラインゲームのキャラクターの男女比は、
男性キャラ約40%、女性キャラ約60%
女性キャラクターの方が多い。
だが実際のプレイしている
人間の性別はそうとは限らないが…。
「まあ、見た目だけはねぇ…」
フタバはマリーから視線を逸らして、そう言う。
遠くの方ではフリフリの衣装を着た、
美少女冒険者が野太い声で
「うおぉぉー!」
と雄叫びを上げ集団PKに勤しんでいる。
(マリー、いいんじゃない?彼女はランクSって言っていたし、仲良くしても損はないと思うよ)
実は良太はフタバとなら
仲良くなるのは賛成だった。
なにせ見た目が可愛いから、
相手が女子だから、
ただそれだけだ。
「そう…、かな?何だか怪しく思えて…」
(怪しい?大丈夫だよ!声質も女性のものだし、それに年齢も近いんじゃない?)
「声?見たまんま女性だけど?」
(ああ、ごめん、その通りだね、まあとにかく大丈夫!僕が付いているから大丈夫!)
「…分かった、ここはリョータくんの判断に任せるよ」
「誰と話しているんですか?」
「いや別に…」
さて、と向き直してフタバは言った。
「どうでしょう?フレンド登録!とまでは言いませんので、仮フレンド的な感じで…」
「分かった、じゃあよろしく」
すんなりとマリーは了承した。
「ええ!よろしく!…っと、そう言えば何て呼べばいいですか?流石に“熊殺し”なんて言う訳いかないですし」
「…マリー、でいい」
「そうですか!マリーさん、改めて私はフタバです!」
「よろしく、フタバ、じゃあさよなら」
「だから何で逃げようとするんですか!」
…
…
…
…
…
世紀末な様相の血に染まる太古の神殿で、
のほほんと友情?をはぐくむ二人の少女。
「やっと、見つけましたよ…」
それを覗く、謎の影。
そして意味深なセリフをつぶやく。
これではメインクエストが進まない。