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噛ませ犬、それが彼の存在理由

大型グリズリーを倒した後、

手早く通常のグリズリーをもう1体撃破した。


これでサブミッションの条件は全てクリアした。


後は上質な毛皮を老婆に届けるだけ、

老婆の息子にも毛皮のコートが届く。


そして、鉄の手甲が手に入る。つまり、3つ目になる。


「お腹すいた……」

(…………………)


マリーはお腹をさすりながらつぶやく。


熊殺しのバットステータス「大食漢」が響いているようだった。

携帯食料は持参していたが、それでも足りない。


良太は無言のままだった。


マリーは腰の高さ程の草原を速足で進む。

彼女は村へ急ぐ、


老婆の依頼もそうだが、

腹の足しになる食事もそうだが、


…そんな事よりも隣の男がうるさかった。



「いやー、すごいですね!あの大型グリズリーをノーダメで撃破!!それに当たり判定ギリギリを見極めて避ける可憐な動き!すごいですよ!!」


その隣の男は

マリーの初級冒険者の基本装備とは違って、

上質な防具を纏っており、

これまた上等な漆黒の大鎌を背負っている。


格上の冒険者であるのだろう。


「………………」

(………………)


マリーは男を無視して腰の高さ程の草原を歩き出す。

そして良太も無言のままだった。


「ちょ…ちょっと待ってくださいよ!」


この男はマリーが大型グリズリーと戦っているところを

一部始終目撃していたようだ。


戦いに参加しないところを鑑みるに

身に纏う装備に比べて大した実力はないのだろう。


「そうだ!お腹空いているんですよね!ほら、ごはんありますよ!」


男はポーチからサンドウィッチを取り出す。


「食べませんか?活力が限界なのでしょう?」


「……………」


マリーは生唾を飲み込んだ。

男が言う通りマリーは限界だった。


男が平然と持っているそのサンドウィッチ…。


不思議と野菜は萎びれてなく新鮮なままだ。

挟んであるハムも肉厚で食欲をそそる。


「ど、どうも…」


マリーは空腹に負けてしまった。

男が差し出したサンドウィッチを受け取り

背を向けて頬張る。


美味だった…。

バットステータスである「大食漢」は

食事に関してはグッドステータスなのかもしれない。


味覚を大幅に引き上げてくれる。


「やっぱり、その声は女性なんですね!えっと“熊殺し”さん、その…お名前は?称号は見えますが、ネームが非表示ですけど?」


「…別に何だっていいでしょ、お金いくら出せばいいの?もごもご…」


マリーはサンドウィッチを口に咥えて両手を自由にする。

空いた手でポーチからお金を取り出そうとした。


「ク、クールだ…!その見た目どおり、きっと中もクールビューティな人でしょうね…、す、素敵だ…」


だが、マリーはやっぱり止める。

代金は踏み倒そう、そう思った。


「あ、そうだ申し遅れました、まあ表示通りなんですが、“D・O・G”で“ドッグ”です。私の事はそのままDOG(ドッグ)と呼んでください」


「犬?」


鎌を背にDOG(いぬ)が言った。


パソコンのモニター上では、

その男の頭上に「DOG」と表示されている。

称号はその背中の得物の通り「大鎌使い」である。


それではと、(いぬ)を無視して

マリーは草原を歩き出す。


だが、無邪気な子犬のように

DOGはマリーの後を着いて来た。


いや、邪気よこしまな考えはあるだろう。


「今から村へ帰るのですか?」


「まあ…」


「それなら私もご一緒しますよ!」

────と言いっているDOG。


「結構です」


「まあ、そう言わずに!あ、そうだ!一人でフィールドをうろつくのは余りよくありませんよ!ほら…、最近危険ですから」

────と言いっているDOG。


「へえ」


「あっ、その感じだと知りませんね!実は最近“ゴロ寝子同盟”があの村に拠点を移してきたらしいですよ」

────と言いっているDOG。


「あ、そう」


「知ってます?ゴロ寝子同盟?やたらPKばかり仕掛けて来る極悪ギルドですよ!それに初心者の嫌がらせも酷いらしいです。ホント許せないですよね!GMに報告しても全く関与しないらしいですよ、運営側はそういう方針なんですかね?」

────と言いっているDOG。


「ふーん」


「でも、そこのギルマスがやたら強くて、確かトップランカーの一人らしいです。他のギルドが連合を組んで戦争を仕掛けても、ほぼ一人で返り討ちにしてしまったらしいですよ…。でも、安心してください!ゴロネコの奴らが現れたらこの私があなたの盾になって奴らを食い止めて見せますから!!」

────と言いっているDOG。




「……………」

(マリー、嫌なら無理して付き合わなくっていいからね)


これまで良太は黙っていたが、

いい加減我慢ならなかった。


「うん、大丈夫。ありがとう…リョータくん!」


「えっ!?ありがとうだなんて、へへっ…、女性の盾になるのは男の役目ですよ!それよりも、またお腹がすいたら教えてください!まだ沢山サンドウィッチありますから!そうだ…ふ、フレンドになりませんか?」

────と言いっているDOG。


(お礼なんて言われても…、僕は何も出来ないよ…)

「どうしたの?様子が変だけど…」


良太は先ほどの大型グリズリーとの戦いで

自分の不甲斐なさを痛感していた。


思春期真っ盛りの良太は

簡単に自分の存在価値を見失っていたのだった。


「そうですね、いきなりフレンドだなんて変ですよねぇ、でも!この手のゲームって色んな人と関わった方がずっと楽しいですよ!ほら、一緒に冒険したり、一緒にギルドを作ったり、オ、オフ会とかしてみたり…。どうです?フレンドっていいもんでしょ?」

────と言いっているDOG。


(ごめん、気にしないで、大した事じゃないから)

「…そう、分かった」


「えっ!いいんですか!?フレンドになって、いいんですか!?」


DOGはボール遊びをする子犬の様に

マリーの視界に無邪気にずいっと入り込む。


いや、邪気よこしまな考えはあるだろう。


「び、びっくりした!あなた誰ですか!?」


マリーは初対面の人に出くわした様な反応をする。


彼女は視線を悟らせない様に

相手を見たりするのが得意である。


それとは逆に、

見ているようでいて、全く見ていない時もある。


「え?私ですよ、DOGですけど…」


つまりマリーにとってこれがDOGとの初対面であった。


ああ、さっきの鎌の犬か、

マリーは思った。


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