9月某日…ここは?
確かにオレは死んだはずだった。
今でも死ぬ間際の苦しみを身体がはっきりと覚えていた。
暖かい日の光が窓から差し込んでいる。
日の光が身体を包んで体温を上昇させる。
地獄に堕ちても仕方がない悪さをしていたが、
ここはそうでは無かった。
では、まさか天国にいるのか?とも思ったが、
それもそうでは無かった。
たぶんオレは生きている。
オレは知らない部屋のベッドに横たわっていた。
ここは古民家か?床は畳ではなくて石畳だった、
上手く説明ができないが日本的ではない、外国の古民家?
そんな感じの古い作りの部屋だった。
だが、何となく見覚えはある。
頭が上手く回らなかった。
悪い夢でも見ていたのか?
だがあれは夢なんかじゃない、
今でも死ぬ時の恐怖を覚えている。
確かに俺は死んだはずだ、間違いなく。
何か所も刃物で刺されたんだ。
冷たい金属が身体に入ってくる、
今まで味わった事がない程の激痛、
そして冷たい金属が高熱を発する。
文字通り体に刻み込まれた嫌な感覚。
あの苦痛が夢なんて事は無いはずだ。
刺された胸の傷を恐る恐る手で確認してみる。
だが、痛みも刺し傷も無かった。
ただし、その代わりに
…
…
…
…
…
胸には今まで感じた事の無い柔らかな膨らみがあった。
「な!なんだ!?」
聞き覚えの無い声が聞こえた、
女の声だ。
辺りを見渡す。
一人掛けのソファーは無人だ、誰か座っていた形跡もない。
小さなテーブルには一輪挿しの花瓶。水が入っていなく花は枯れている。
窓際の小ぶりな椅子には本が無造作に積み重ねてある。座る場所がない。
壁に打ち付けられている大きな鏡には埃が被っていて鏡の役割を充分に発揮しない。
要するに部屋には誰もいなかった。
オレ一人だけ。
ベッドから身体を起こす。
やはり死んでいないようだ、足もしっかりある。
と、そう言えば服装が変わっている。
丈夫な生地で作られているが、
地味な色のレインコートみたいな服を着ていた。
こんな服をオレは持っていなかったはずだ。
それよりも、こんなギリギリの長さのズボンなんてオレは履かない。
最初はパンツかと思ったが、パンツはパンツでもこれはホットパンツだ。
だが、この服装も見覚えがある。
改めて部屋の中を見渡す。
この部屋の内装にも見覚えがある。
あの埃が被った鏡も見覚えがある。
あの鏡はこの部屋でよく使っていたツールの一つだった筈だ。
大きく息を吸い呼吸を整える。
少しずつだが頭の回転も悪くは無くなってきている。
何となく鏡に近寄ってみた。
すると、鏡にはおれ好みの美少女が立っていた。
黙っていてもアレなので、こちらから声を掛けてやる。
普段であればオレは女とは自主的に喋らないようにしている。
だが今は状況が違った。
「や、やあ!こんにちは」
なんて事を言ってみると、
予想通り鏡の美少女もオレと同じタイミングで
「や、やあ!こんにちは」と言った。
…
…
…
…
…
なんて、白々しい言い回しは止しておく、
もう既にオレは理解していた。
少し状況が違うが、
この展開は寝る前によく妄想していた。
オレは鏡の中のこいつを知っている。
自分の趣味をこれでもかと詰め込んでキャラメイクをした
ご自慢の美少女キャラクターだからだ。
オレはここを知っている。
最近まで、死ぬ前までハマっていたオンラインゲームだ。
オレはゲームの世界の自分が作ったキャラクターに転生したようだ。