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救世のホライゾンブルー  作者: 射月アキラ
第五章 神話の国
25/26

01-01


     1


 そろそろ太陽が真上に来ようかというころ、馬車はようやく停止した。


 さっきまで幌の外側から人々の喧騒が聞こえていたが、今は落ち着いている。アルミュールと同様、軍の詰所か基地のようなところが町の中にあるらしい。


 下ろされた垂れ布を上げるためにルシアンが離れた隙に、グレンはクローディアの様子をひっそりとうかがう。見知らぬ土地に入ったというのにどこか落ち着いた表情をしているのは、彼女が覚悟を決めた証なのだろうか。


「お待たせしました」


 と、ルシアンに促されて馬車を降りれば、すぐそこに灰色の石を組んだ頑強そうな建物があった。とはいえ砦のような戦争の拠点ではなく、単に兵士が集まって訓練をするような場所といった雰囲気だ。


 その奥には背の高い尖塔が見え、どちらの建物にも茶色基調の旗が揺れている。


 フードを気にしながら、クローディアはルシアンに振り返る。


「向こうに見えるのがお城ですか?」


「えぇ、そうですよ。……少し休憩してからになさいますか?」


「大丈夫です、このまま向かいます」


「分かりました、ではこちらへ」


 ルシアンの先導に従い、グレンたちは基地を背に敷地から出た。外には石材を中心にして組まれた建物が並んでいる。


 首都の中心街だけあって、昼間の商店通りのような喧騒とは無縁らしい。城の反対へ目を向ければ、街をまっすぐ貫く大通りの遠くに人混みが見えた。


 そちらに気を取られかけたグレンの手を、クローディアが引っ張る。


「離れないで、見つけられなくなっちゃうから」


 クローディアが小声で言ったのを不思議に思って前を見ると、数歩先を歩くルシアンがちらりとこちらを振り返っていた。


 ルシアンはすぐに前に向きなおったものの、どうしてもグレンから不信感はなくならない。力を入れて口を閉じると自然に口角が下がり、不満がそのまま顔に出てしまった。


 クローディアにその表情を見られたのか、繋いだ手から薄青い色の魔力が流れてくるのを感じる。手に視線を向けても魔力の色が見えるわけではないが、グレンの意識の中に流れてくるのはいつもクローディアの髪と同じ世の果ての色だ。


 不満が流れてしまえば、初めて来た街への興味が残る。


 しかし、周りを見ても堅苦しい雰囲気の建物が並ぶだけで、すれ違う人もまばらだ。分かりやすい「人の生活」を見るのは難しかった。


 結局すれ違ったのは数人で、程なく王城の門に辿りついた。堅牢な壁と鉄格子の門の両脇には、やはり門番が。その姿を見とめると同時、グレンを引くクローディアの手に力が入る。


 アルミュールでの一件が頭をよぎる。が、想像したようなことは起きず、むしろ道を開けるように門が開かれた。


 衛兵に呼び止められることも、身体検査もなく──それどころかグレンが持つ剣も咎められずに、一行は城の敷地へ入る。


 短い小道を抜けて屋内に入ると、まず広々とした空間があった。各方面に向けた扉が、他の部屋や廊下に繋がっているらしい。神話に描かれるような幻想的な獣が彫刻された柱を見上げていると、グレンの手はまたクローディアに引っ張られた。


 扉を一度通り、長い廊下に入る。かと思うと、ルシアンはすぐに立ち止まった。門から近く、単純な道筋なのは客人を招き入れる部屋だからか。


 ルシアンに促されてグレンとクローディアが入った部屋は無人で、豪奢なソファとテーブルが中央に置かれている。


「すぐにいらっしゃると思いますよ」


 と、ルシアンが言ってしばらく。グレンとクローディアがソファに座り、部屋にかけられた絵画をぐるりと眺めている間に、音もなく扉が開かれた。


 ほっそりとした女性が、戸口でドレスのスカートを持ちあげて一礼する。


「ようこそおいでくださいました、世の果ての方」


 穏やかな口調に、グレンはその女性の立場を掴みあぐねた。


 貴人の服装の詳細など知る機会もないが、女性のドレスには細やかな刺繍が施されていて見るからに高価そうだ。しかし女性自身の雰囲気からは、苦労を重ねてきた老婆のような印象を受ける。


 と、グレンが遠慮のない──不躾な──視線を向けていると、女性は片手で口元を隠して「まぁ」と声を出した。


「わたくし、年甲斐もなくはしゃいでしまいました。まずは名乗らなければいけませんでしたね。……ルジストルを預かっております、パトリシアです」


「あ……! 女王様だったんですね……!」


 慌てた様子でクローディアが立ちあがったのにつられて、グレンも同様に起立する。


 そこまでしても、目前の女性が王という立場にいるとグレンが実感することはできなかった。王はもっと堂々として、指導者然としているものと思っていたからだろうか。ふわふわとした言動の女性には似合わない立場だった。


 と、グレンが思考している間に、クローディアは被ったままだったフードを脱いで頭を下げた。


「クローディアです。こっちはグレン。お会いできて光栄です、女王様」


「そんなにかしこまらないで。わたくしこそ、あなたにお会いしたかったのですから」


 言って、パトリシアは手のひらを上にしてソファを示した。クローディアとグレンがもう一度座るのを待って、向かいのソファにパトリシアが座る。そして、部屋で一人立ったままのルシアンへ振り返った。


「長旅で疲れたでしょう。少し休んだらいかが?」


「いえ、仕事の途中ですので」


「ダニエルも会いたがっていたの。あなたをただ立たせていたなんて知られたら、わたくしが怒られてしまいますわ」


「……承知しました」


 応えるルシアンの声は、言いにくそうにつかえた。


 しかし次のまばたきをした後には、いつもと変わらない調子で「失礼します」と告げて部屋を後にする。

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