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救世のホライゾンブルー  作者: 射月アキラ
第三章 信仰の道
13/26

01-01


     1


「あー、これはキツいですねー」


 グレンの剣を片手にそう言ったティムの声は、少々深刻そうだった。


 鞘から抜かれ、あらわになった刀身はボロボロになっている。アルミュールでの一件で、我を失ったグレンが乱暴に使ったせいだろう。


 鍛えられた刃とはいえ、本来は鋼鉄を切るようなものではない。鎧をまとっていたランディールへ無理に一太刀を浴びせた結果、剣の刃は潰れ、ただの鉄の塊になってしまった。


「町に行けば基地についてる鍛冶師に頼めますけど、それでも直せるかどうか」


「ありがとうございます。私も多少の整備くらいならできるんですけど……」


「んー、もしかしたら買い換えかもってくらいの状態ですからねー。ていうか、ウチなら廃棄っすねこれ。鉄に戻して打ちなおした方が早いですし」


 ははは、と笑いながら、ティムはグレンの剣を鞘へ戻した。馬車の荷台であぐらをかいたまま、クローディアへ返す。


 積み荷の位置を変えた荷台は、前よりも広くなったように見える。グレンとクローディアを隠すためにかさ増しされ、外からの視界をふさいでいたものがなくなって、さらに荷物の一部が木箱の上に毛皮を敷いた簡易椅子になったためだ。


 その椅子に腰かけたクローディアは、鞘に収まった剣に視線を落とす。


「見てくれてありがとうございました。……どうするかは、これから考えます」


「いえいえ、俺はなにもできてないんで」


 ひらりと片手を上げて、ティムは軽い調子で言った。


 次いで、いまだ荷台で眠ったままのグレンへ目を向ける。


「まだ起きないみたいですね」


「はい……」


「俺が見ておくんで、世の果ての方はちょっと外出た方がいいんじゃないですか? 馬車の中、あんま動けなくて窮屈ですし……」


 言われて、クローディアはスカートの上から腿をさすった。


 何枚か革を敷いて多少柔らかくしているとはいえ、床に座り続けるのはつらい。即席の椅子ができても、今は長い道中の半分ほどに届いたところ。これから山を越えるとなれば、休めるときに休んでおくべきだった。


「ありがとうございます。……あの、もしかしたら」


「目が覚めたときに錯乱して暴れちゃうやつには慣れてるんで、大丈夫っすよ」


 クローディアはグレンの剣を傍らに置いて立ち上がり、ティムに頭を下げてから外へ向かった。幌馬車の中にいる間にフードの位置を直し、髪が隠れているのを確認する。


 後部の垂れ布は上げられていて、風が通るようになっていた。街道の石畳に刻まれた轍の間に足をつける。


 近くに立つ見張りの兵士に会釈を返してから、クローディアはぐるりと周囲を見渡した。


 草原をまっすぐ貫いた街道が川に突き当たり、そのまま川に沿って曲がっている場所に、馬車は止まっていた。周囲に視界を遮るものはほとんどなく、道の近くにぽつりと立った木に馬が何頭か繋がれている。近くに伏せている二頭の犬は、馬車の護衛や見張りを任されているのだろうか、揃いの革製首輪はルシアンたちが着る軍服と同じ色をしている。


 兵士たちは、荷や馬の見張りを除くすべてが川辺にいた。


 馬をひき、川の水を飲ませて休ませている軍人たちの中にルシアンがいて、クローディアは小走りで駆け寄る。ルシアンが連れている二頭は、他に比べて騎乗用の装備がない。馬車をひいていた馬なのだろう。


「──世の果ての方」


 クローディアに気付き、ルシアンが顔を上げる。


「ノークス中尉への用事は済みましたか?」


「はい。ありがとうございます」


「部下がお役に立てたのなら幸いです」


 そう言って、ルシアンは薄く笑みを作った。


 両脇に並んだ馬は二頭とも水を飲んでいるところで、鼻先を川面につけている。


「近付いても?」


「左の方に来てくださると助かります。右のは悪さをすることがありますので」


 言った途端、右の馬が鼻で水を跳ねあげる。驚いたクローディアが遠回りに左側から近付く間に、いたずら者はルシアンに引き綱を張られておとなしくなっていた。


「失礼しました」


「本当にいたずら好きなんですね……」


「一体誰に似たのか、集中力がなくて困ります」


 苦笑するルシアンの左側で、もう一頭は何事もなかったかのように水を飲み続けている。クローディアが川辺に並んでも、ちらりと片目を向けるだけだった。

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