5 「ひとりでは生きるだけでも哀しいと思うぞ?」
誘導されて、私達は地下へ進む。
途中で刑事組と合流した。
誘導っても、進む通路、多分本来はスタッフ通路で余計な電気つけないで鍵も閉めれば進める方向も自ずと狭まる。
「刑事さん、司法とかリアルの決着望むなら、命をベッドしますか?」
「どういうことだ」
「……一応、私はリアリストです。
体験したことは大概信じることにしてます。
司法などの決着は、『行方不明』まででしょう、まさか、人形がやってたなんて公表出来ないでしょう。」
「というか、多分、じいちゃんと“こっち”のお話し合いになるんじゃないかなとかって思う。」
刑事組に余計な手出しをして欲しくないから、一応の誘導をしてみる。
実際、今の現代社会で“ソウイウモノ”は認められていない。
例えばだ、正式な手順に乗っ取って(乗っ取らなきゃ、自分だけが死ぬだけだし)、丑の刻参りをするとする。
あれって、七面倒複雑怪奇な手順方法だけども、あれって神様を怒らせる方法だから九割方生き残れない。
分かりやすく言うなら、自宅に土足で入り込んで、大黒柱に釘打つ感じが近いぐらいだ。
と言うか、一応、起源自体、平安は橋姫様辺りに求められる辺り、本当古い方法なのだ。
類感と同調の組み合わせでもあるけども、本当に呪い殺したいなら、その人だけの写真を撮って、恨み辛みを口にしながらマチ針で穴だらけにするとかの方がお手軽だもの。
髪とかって割りとおまけだしね。
どっちにしても、私が丑の刻参りをしていて目撃されて、わら人形と写真からその人とトラブルがあっても、呪殺では捕まらない。
器物損壊とかはあるだろうけど。
だから、今回の親玉は捕まらないし裁かれない。
そういう説得だったんだけど。
そういう説得だったんだけど。
蒼真さんが、何かを見せた。
後から聞くに、刑事第零課とか、五課みたいなオカルト刑事物系のそういう部署との外部協力の契約書っぽい感じらしい。
詳しい話は聞かないし言わないけど、一定はそういうの認めてると言うか認めざる得ないらしい。
と言うか、やいとのじいちゃんそういう集まりの組員らしい。
うん、世の中知らないほうがいいこともあるよね、うん。
最後の扉。
金属製でロクに隙間もないのに、濃厚な鉄分の匂いと水っぽい鉄分の匂いがする。
ついでに言うなら、内臓の匂いも。
「えー、グロ苦手なら、と言うか、十年前の某○賀氏系統のグロが苦手なら、眼をつぶった方がいいでしょうね。
うん、明日、小樽食堂のローストビーフと馬肉ユッケ食うつもりだったんだけどな。」
家業柄、どろどろのホトケさんとも接触したことがある。
じゃなくても、わかりやすいアイコンじゃないか。
大学生組のリーダーだった彼が思い切りドン引きしてるし。
刑事の部下っぽい方も、後ずさる辺り、某氏はわかりやすいらしい。
少し待ってから開く。
簡潔に言おう。
某霊界探偵漫画の先代・霊界探偵が人間に絶望した魔族を人間が拷問してる場面を思い浮かべて欲しい。
あれ並みに悲惨と言うか、脳みそが情報を受け付けたくない感じだ。
規模は小さいけども。
例えば、お腹を少しだけ切り裂いて腸をウィンチで巻き取ったり。
例えば、爪と爪の間に細い釘を刺したり。
例えば、指を一本一本、焼いたナイフでスライスしたり。
例えば、スライスした自分の一部を食べさせられたり。
例えば、鉄製で内側にトゲのある揺れる鳥籠に入れられたり。
中身はないけど、針が少ないアイアンメイデンがあったりするし。
なんつーかね、生かさず殺さず、な感じ。
失血死しないように気をつけてる感じだから。
後、実在の拷問処刑だし、割と長時間コースのが実行されてる。
痛いし苦しいけど死ねない系。
腸をウィンチで巻き取る系は、三日生き残ったって記録あるぐらいだもん。
行ってるのは、ソフトボールサイズの小人と女性、女性型の人形だった。
小人も女性人形と同じデザインをデフォルメした感じ。
たださ、血って黒くなるよね?
女性人形の服、残ってる写真って青いドレスなんだよね。
アフタヌーンドレスをもう少しマーメイドラインドレスに寄せたようなそういう感じのかっちりした奴。
色も髪の青銀髪より濃い青で好きな系統の色だ。
はい、どす黒い意味で真っ黒です。
血が乾いた微妙に赤味のある黒です。
『お姉さんたち、だぁれ?
あ、アクアがにがしたお兄さん連れてきてくれたんだ。』
声音は、外見の二十歳そこそこ相応だけども、なんか微妙に幼い。
そんなことを思った瞬間だった。
私の後ろに居た大学生組のリーダーが引き寄せられた。
そして、開いていたアイアンメイデンに押し込まれた。
予備拷問だったのか、騒いでいたのがすぐに静かになる。
カタカタ動いている辺り、麻痺薬系なんだろうが知らん。
その時、私はチエ先輩とトラ先輩を無事に帰すことに注力してた。
言い訳になるけど、正直言って、刑事組の半ば職務半ば個人的事情。
或いは、茜さんみたいなのと違って、大学生組に一切好意を抱けない。
赤木先輩達と同じじゃないかって言われるかもだが、先輩達の場合、先輩同輩としての友誼が先に来てる。
それに、三回、相談を受けた。
全部、『心霊スポット』に『ナンパ(後、青姦)』目的のおもしろ半分だもの。
恐怖の青に、ピンク色混ざってたらイヤでも気付く。
赤木先輩達は、おもしろ半分はおもしろ半分でも、所謂、好奇心からだ。
他人を友人以外を巻き込んだのは一回だし、その一回にしても、憧れ()の先輩に私だけそういうのに連れてかれてるのに嫉妬()して無理矢理ついて来てのトラブルの一回きりだ。
半分は廃墟マニア的な楽しみも混ざってる。
最初にも言ったけど、悪因悪果、自業自得だわな。
さて、生き残る為の会話を始めようか?
「で、お嬢ちゃん、お名前は?」
『リーリエ、お父さまが付けてくれたの。
お姉さんは?』
「夕海、夕焼けの海よ?」
なんつーかね、幼いなぁ。
その分、歪んでそうだが、精神年齢の意味での歪みはなさそうだ。
『ステキなお名前ね!』
「でだ、リーリエ。」
『なぁに?』
「せっかく、来たとこ悪いんだが、私と私の連れは帰っても良いだろうか?」
『えー、お父さまに会うためにリーリエいっぱい食べなきゃいけないのに?』
「まぁね、だけど、人間の魂や霊力を食べ過ぎると腐るよ?」
『そーなの?』
「そうなの。
リーリエは“お父さま”が死んでるのは解ってるわよね?」
『うん、だから、リーリエは最後のしんぱんまでこわれないで残らなきゃイケないの』
ものすごくやりにくい。
ものすごくやりにくい。
強く思ったので二回言いました。
悪口じゃな意味で“純粋無垢”“真っ白”が似合う子だ。
外見が二十歳そこそこに見えるから分かりにくいけど、中身小学生低学年だ。
語彙とか知識とか不相応だけど、本気に“お父さま”しかいない。
それにな、実際、神様、ある程度の村社レベル以上じゃないと、人間の魂や霊力ってのは毒と言うか劇薬だ。
人間で言うなら、醤油を一升瓶で一気飲みに近い。
一応、このめとシェンナ、カディは可能っぽいけど、副作用で十年単位で寝込むぐらいにリスキーなやり方らしい。
町の神社でもどっこいらしい。
正確には、魂自体をもぐもぐする場合だけども。
人間の魂や霊力は、人によりけり分かれるけど人間の食べ物で言うなら、和牛のブランド牛、サシがでろでろに入った極上牛。
それを焼き肉でご飯も挟まずにタレで二十人前食べて見ろ。
一般人なら吐くと思う。
体育会系とかはわりかし食べきる気がするけど。
だから、ではないけど、このまま行けば、後十年持たないだろう。
霊格ってのかな、面識無いから、わからないけど“お父さま”のアロイスさん、高かったか特化タイプだったんじゃないかな。 職人タイプの今でも、無自覚が多いの。
前に買った財布の作者もそういうタイプ。
造られて四十年足らず、霊力高い人間をもぐもぐしてても、格が付喪に近い。
一応、怪奇体験は人一倍してるが、間違っても私は一般人だ、勝てない。
そこ、一般人()とか言わない。
TRPGクトゥルフの探索者と同じようなもんだ。
多少技能を持ってても、一般人ってことで。
『むぅ、なら、リーリエがまんしる!』
「いい子いい子。」
『えへへ~』
「その代わり、これを預けるわ」
『なぁに、これ?』
「この石は元々、二つでひとつなの。
“無理だと思ったら”これと私のこれを繋いで連絡してね?」
プラスチックでなく、骨系の素材を赤と青にそれぞれ染めて、一円玉より小さいけどそこそこ大きい水晶と、爪の先ほどでかつ安っちいルビーとサファイアを嵌めた指輪。
素材の骨を含めて全部双子だ。
トラ先輩の伝手で造って、蒼真さんに術を重ねて貰ったそれだ。
同一だったことを則ってだから柔軟性のない呪具になってる。
『ほんと?きれー、ありがとう。
じゃあ、もどってきたらわからないけど、いまはお姉さん達いらないや。』
なんつかね、赤色のアリスだわな。
いつかにあげた作品で、『永遠少女』ってつけたキャラが居たけどそんな感じだ。
此処まで来れば話すことは少ない。
チエ先輩とトラ先輩とは相変わらずの付き合いだし。
茜さんとはそこそこの付き合いがある。
刑事組は、あれからしばらく、メールのやりとりをしていたけど、それも途切れた。
後輩っぽい方からの最後のメールで先輩の霧島が行方不明になったと聞いた。
大学生組も、全員が行方不明だ。
――そして、裏野ドリームランドはまだ存在している。
――リーリエを含めて。
――そして、未だに、ドリームランドのうわさは消えない。
と言うわけで、こういう決着でした。
弓子としても、“こども”は殺したくないのです。