44話死んだフリとリベンジ
階段広場や休憩室では遺体の吸収は行われない。
ゴミ捨て場は別で。良く出来ている。
しばらく男達と過ごし、
「町の様子はなにかあるか?討伐隊は帰ってきているのか?」
思い切って話を振った。
「討伐隊はもうずいぶん前に帰ってきていたらしい。
甚大な被害を受けて撤退してきたそうだ。」
それは知っていた。そこからだ。
「隊を率いた騎士が仮面の冒険者を探していたぞ。
盗賊の手先だ何だと喚いていたが真っ向から説き伏せられて
そんな事実は無いということになったな。」
「俺たちも従軍していたが、あの騎士の命令は
無茶苦茶だった。何もわかってない。」
「アンタはアンタで十層で目撃されたきり、
ダンジョンから出てこない。ってことで死んだことになってる。」
「ああ、だが死んだことになるくらい
冒険者には良くあることだ。帰ってくれば問題ない。」
ずいぶんゆるいな。中身が入れ替わってるとか思われないのか?
そこで中身という言葉でいまさら思いついた。
毒が全身に回らないように縛るのが良かったんじゃないのかと。
いやいや、そんな原始的な方法が通用するなら
彼らも知っているだろう。たぶん。
少し、気まずい気持ちになった。
「ああそうだ、ここで俺を見かけたことは
秘密にしておいてくれ。」
実際何日経ったのか数えてない。
UIで日数カウントはしているが、めんどくさいので見てない。
おれは長いこと曜日や日付に囚われない生活をしてきた。
期日や期限、締め切り、納期といった言葉は俺の辞書には無い。
やりたい事をやりたいだけやる。それが大事だ。
ただし、自分を殺す敵が来ない範囲で。
この間合いの見極めが日本ではとても難しかった。
殆どの人間が見えない荒縄でじわじわと絞首刑状態だ。
ここでも簡単ではないが、環境に贅肉が無い分動きやすい。
撤退する男達から食料を買い取り、出て行った後も鍛錬を続ける。
室内の壁から壁へと脚力とバランス感覚だけで飛び回る。
出来るだけ静かに。素早く。滑らかにだ。
最初は手を着いていたが、次第にターンが決まるようになる。
捻りを入れてみたりもする。
パワーは十分。俺に足りないのは軽業だと気づいた。
コン術の動きが出来ないと諦めていたが、
それではダメなのだろう。もっと速く大きくかわせばいい。
紙一重でかわす、なんてのはその上の達人のすることだ。
大から小へだったか?大きな動きを学んでから
小さな動きへと縮めて行くのだ。
反復練習でパターンを刻み込む。
応用力はセンスが無ければ出せない。そんなもの微塵も持ってない。
限界を超えるたび、自分が自分でなくなっていく気がする。
変えてもいい部分と、変えてはいけない部分の
切り分けはまだ出来ていない。
だから今は入力の切り替えと出力の切り替えスイッチを作っている。
肉体的な通常モードと戦闘モードだ。
頭は戦闘モード寄りになって戻らないのだが仕方ない。
脳に手をつける方法は判らない。フリップフロップ回路が欲しい。
だが、今はまだこれでいい。
おそらくさらに上位の敵を相手にすれば飛んだ瞬間狙い撃ちだ。
空中制動も必須になるだろう。
これで尾の叩きつけをしのげる自信がついた。
いくつかのパターンも想定した。
今度こそ勝つ。
理由は良くわからんがなぜだかすごいヤル気を出して
俺は休憩室を出た。
通路を索敵しながら先へ進む。すぐに標的は見つかった。
その数3匹。
…1匹づつ。1匹づつね。
テンションが下がったが、2匹を弾で処分し、残り一匹と対峙する。
素早く一定の間合いまで近づくと大口開けて突っ込んでくる。
初動を見切った。動く前に体のたわみが見える。
槍を合わせる。
ギリギリでかわされるが、勢いを殺しきれずに大きく逸れた。
叩きつけがくる。やはり見える。
動く前に重心が乗った部分がわずかに変形する。
すっ飛んでくる丸太のような尾を足裏でやわらかく受ける。
その勢いを蹴りつけて俺は厨二…中に飛んだ。
伸身宙返りだ。掛け声は「トゥッ!」
これだよこれ!
戦闘中に伸身宙返り!
これを決めてこそ戦いというものだ。
しかし頂点に届く前に、大蛇が大きくたわんで力を貯める。
狙い打つ気だ。一気に大蛇が伸び上がる。
空中に逆さの体勢から槍で迎え撃つ。
やばい、バランスが崩れた。
槍が大蛇の首元を抉り剥ぐ。
だが大蛇はそのまま手首へ喰らい付こうとする。
槍を捻って反動を得て体勢を立て直しつつ
その頭にナイフを叩きつける。食いつきを中断し
傷を開きながら、さらにかわされる。
大蛇も俺も落下を始める。
大蛇は体が3分の1ほど地面に着いたところで再度仕掛けてくる。
このままでは着地できない。
槍を引いて軌道を変えつつナイフを振り上げで追撃。
それもかわして空いた脇腹へと「悠々」と喰らい付こうとする大蛇。
つまり速度の落ちた攻撃。
その頭を俺の肘と膝が挟み潰さんと動く。
大蛇は思い切り横に反り返り、またまたかわした。
かわし過ぎだろwww
しかし大蛇の体は完全に宙に浮いたうえ腹をこちらに見せている
チャンスだ。天派込みで最速で突く。
上から見ればCの字状態の大蛇が逆向きに曲がるより早く
槍が大蛇の真ん中で炸裂し、腹からブチ切った
バランスを崩して転がり、飛び起きる。
やっぱり転がってしまった。
だが、さすがに真ん中付近で切られては思うように動けないらしい。
内臓を撒き散らし追撃は無く、激しくのたうっている。
ここから先の想定が無い。
即座に距離をとり様子を見る。
油断してはいけないのだが、
心に勝ったという気持ちが湧き上がってしかたがない。
大蛇が威嚇音を鳴らして毒液を噴射するも
下がるまでも無く届かない。
ていうか噴射も出来るのかよっ?!
突撃と同時にやられたらやばくね?
距離をとりながら見ている内にだんだん弱って大蛇は死んだ。
でも死ぬまでに数十分かかった。
長すぎて止めを刺すか迷った。
切れた体とくっついたりはしなかった。
待ってる間に最初の2匹はダンジョンに食われた。
ちょっとしぶとすぎると思った。




