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43/50

43話修行と敗北

そこそこ戦えれば良い。

最強である必要性なんてぜんぜんない。

だって普通の冒険者はみんなそうじゃん。

ちゃんと日々を生きてるじゃん。

俺が普通かどうか微妙なところだが。


もう一度大蛇に挑む勇気も無く、

魔法をいじったり、槍を振ったり、あーだこーだと妄想したり、

大蛇の乾燥肉にまで手をつけようとするまでグダグダしていた。

何日経ったのかも数えていなかった。


大蛇と戦うまで、俺はまた結構強くなったと思っていた。

魔狼も弾丸無しでもちゃんとあしらえるようになった。

それなのにこのザマなのだ。


あの巨体、パワー、スピード、反応、そして戦意。

手足が無いのに付け入り方が判らない。

どこもかしこもグネグネと自在に動き、隙がない。

相手が死ぬまで戦うというルールのなかで

執念深いということがあれほどに厄介なのだと実感させられた。


毒だって恐れることはない。

対策も機能することは解体部位を用いて確認した。

体に牙で穴が空いても痛いだけだ。治せる。

急所をやられることと、締め上げられること。丸呑みにされること

これらをしのげば問題ないはずだ。


とにかくもう一度戦って今度こそ勝つ。

そう何度も思おうとしたが、これは訓練じゃない。

新しい発想もとっかかりもなしに挑んだって

仕方が無いんじゃないのか?

地派を鍛えてパワーとスピードで上回るしかない。

ここで勝って、練兵場に行き槍青年に今度こそ勝つ。

そうなるのが一番気分がいいだろう。


こんな考えを何度も繰り返した。


ひたすら体をいじめて鍛えていたある日、

扉の外で戦う音が聞こえてきた。他の冒険者が戦っているようだ。

ここに来る可能性が高い。


まだ半裸で腕立て伏せの最中なんだが?

肉体の見掛けの変化はもう殆ど無いが、出力は確実に向上している。

すべては禁書に記したとおりだ。ちょっと怖い。

腕立ても体を跳ね上げる、滑らかに静かに下ろすの繰り返しだ。

もう逆立ちしてもいいかもしれない。


ちょっと最近脳筋じみてきている気がする。

これも肉体の変容による精神の変化といえるかもしれない。

嘘です。ただちょっと細マッチョな俺カッコいい

とか調子こいてるだけです。


扉が勢い良く開かれ、冒険者が雪崩れ込んで来た。

一人は抱えられ、ぐったりとしている。

閉め抑えられた扉の向こうから

大蛇の体当たりの衝撃が伝わってくる。

「くそっシツコイな!」

「チャトラムッ!チャトラムッ!しっかりしろっ!」

「うわっ先客か!あっ、あんた!毒消しを持っていないかっ?!」

ちょっと逆立ちしてみていた俺に怯まず問いかけてくる。


毒消し?ああ、あのポーションと一緒に並んでたクッソ高い奴。

ちなみにポーションは金貨30枚、毒消しは金貨16枚である。

ふざけているが、ものすごい速攻性と万能性があるらしい。

いわゆるゲームのそれに近いのだろう。

ちなみに置いてあるのは模型であり、買うなら取り寄せになる。

しかも値段も参考価格の時価だ。希少品らしい。


「持ってるわけが無いだろう…。」

呆れてしまう。そもそも他人に使うわけが無い。

「くそっ!ダメなのか!」

「おい、シジマック!気持ちはわかるが無茶を言うなっ」

扉を押さえていた鎧の男が注意を飛ばす。

どうやら理性はあるようだ。

チャトラムという男は毒を喰らっているらしい。顔色が悪い。


ここでテンプレなら「ちょっと見せてみろ?」とか言って

治してしまうのだろうが。

魔法で他人の体に干渉できたとしても、回ってしまった毒で

停止した呼吸や心臓を無理やり動かすくらいしか

方法が思いつかない。それをしても他内臓へのダメージには

どうにもならない。


「とにかく呼吸を補助してやれ。」

無責任に言ってみる。

「呼吸?!そうかっ息ができないのか!」

それだけではないのだが、と思ったら衝撃的な事態が発生した。

描写したくない。

チャトラムとやらの面倒を見ていた男が

「直接」呼吸を補助し始めたのだ。

ホモォ~ッッい、いや、これは医療行為だ。尊いのだ。

ぐ、想像以上に恐ろしい事態だ。俺は壁際まで後ずさった。


ほんの少しだけチャトラムの顔色が良くなるが、

傷口からの出血が止まってない。

「くそぉっ血が止まらねえ!」

とにかく塞ぐくらいしか思いつかない。

血清とか無いとやっぱ無理だよこれ。


結局チャトラムはなんだか全身ひどい感じになって死んだ。


残った男達が悲しみに暮れる中、俺は汗を処理し服を着ていた。

もう何も言うことは無い。


しばらくして男達の感情に一区切りついた頃、

「その格好は…あんたは仮面の流れ者か。生きていたんだな。」

えっ、ちょ、死んだことになってる?

「こんなところで、あんな格好で一体何をしていたんだ?」

うわぁキタよ、今何してるの?系の質問。

答えは筋トレ以外の何ものでもねえよ。

「そんなことより扉の外はどうなってる?奴らは執念深い。

そうそう扉から離れんのではないか?」

切り返してやった。

「いや、確かにしぶといが頭は悪い。怒りが収まれば

すぐに忘れて何処かへ行くだろう。」

あ、そうなんだ。トリ頭みたいなもんか。

「で、アン「チャトラムは残念だったな。毒は呼吸や動き以外に血にも悪い力があるようだな。」」

被せた。聞きなおそうとすんじゃねえよ?

「大蛇が居なくなったらどうする?」

「チャトラムをダンジョンに食わせるわけにはいかない。

蛇野郎がいなくなったら背負って地上に戻る。」

「そうか。」


冒険者として迷宮に消えるのが葬儀かと思っていた。

仇は討たないのかとも思った。

名前は危険だがそこまでしてくれる仲間がいるのだ。

いい奴だったのだろう。

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