31話討伐隊と遊び
大狼の皮の返却が出来る様になったとの知らせで、
皮が移送されていた町ギルドへ行くことにした。
同時にランクも上がる。まあ。これ以上あげる必要も無いのだが。
するとなにやら物々しい。
「仮面の!お前も参加か?」
「なんのことだ?」
「なんでも、西の街道に現れた盗賊の討伐隊が組まれるそうだぜ?
この前潰れたフォンダックル商会はその被害にあったって話だぜ。
ほかにも行方不明が相次いでいるとか。ゆるせねぇな。」
「そういうことか…。」
適当に流し、受付に行く。
「預け物を受け取りたいんだが。」
あ、仮面の…と言われるが冒険者証を提示して処理を完了する。
「ウォンさん、現在、西の街道の盗賊討伐隊の募集が
行なわれております。ぜひ掲示を読み参加を検討ください。」
ニッコリされた。
「見てみる。」
けして「ああ、」とか「わかった」とか言わない。
曲解されて参加を了解したと言われかねない。
毛皮を受け取る。
一ヶ月も経ったが、念入りに下処理したおかげでカビは生えてない。
カチカチになってるがなんとかなるだろうか?革屋いくか?
掲示物を確かめると、報酬は悪くないようだ。
だが、奴らは荷運び含めて20人くらい居た。
胸糞悪いため、ぶっ殺すのに何のためらいも無いが、
こちらの数と質、向こうの切り札が見えてこない。
この依頼表は情報が足りてない。
これではだめだ。
俺はスルーしてスラムに帰った。
早速、皮なめしをしていると、マールクが来た。
「討伐には参加するのか?」
「アレでは参加できない。」
俺は理由を説明した。
「…だが、参加せねば盗賊の仲間であるという疑いは晴れぬぞ?」
「参加しても疑われる。隊を混乱させ失敗させた~とか
責任を押し付けられるのは御免だ。
それに情報が制限されてるのは上の癒着の証拠だ。
騎士はどれだけ出る?死ぬぞ?」
「そうだな…」
色々話し合った後、マールクは帰っていった。
領主は冒険者を使いつぶして何がしたいのか?
気に食わないだけか?
ダンジョンコアという絶対の権力基盤がある領主は倒せない。
ただ、よき領主であることを願うことしか民には出来ない。
糞ッたれすぎる結論だ。
マールクは良くやったよ。
頑張りすぎなほどに頑張ったよ。
空いた時間に平行してチャリをいじり、
荷車が引けるように3輪に作り変える。
ギアチェンジが無いのでMPでパワーアシストを加える。
自走もするが、まだ消費が激しい。
数日後、討伐隊が出立していった。
結構な数が出て行ったが冒険者、兵士が多い。
騎士は数えるほどが偉そうにしている。
数は足りているといえば足りているが、
ありゃだめだ。
見送りを済ませた俺は小屋に戻った。
この数日は表で革をなめし、鎧を作り、おもちゃを作った。
夜は酒場でくだを巻き酔いつぶれた。
内通などしていないことを証明するためだ。
「仮面は討伐に参加しなかったんだな~臆病風に吹かれたのか?」
いじろうと酔っ払いが話しかけてくる。
「ああ、そうだよ。俺は死にたくないからな。」
「ひゃははは、おれもだぁ!しにたくねぇよぉ~っ。」
「あんなご立派な騎士様と俺じゃあ、やり方が違いすぎて
ヘマこいちまうのが分りきってるからよ、自粛したのさ。」
「騎士様の鎧を見たかよ?ギンピカだったぜ。傷一つねえwww」
「盗賊は目の色変えるだろうな。」
だといいけどな。
「討伐隊の成功と生還を祈って~か~んぱぁ~い!」
乾杯の文化は無い。意訳だ。祈って飲もうぜーというだけである。
あ~面倒なイベントはスルーに限る。
どう転ぼうと正直どうでも良い気分だ。
マラソン大会、運動会、学園祭、日直、集合写真、
何もかもスルーしてきた。
集合写真なんか丸く貼り込まれてすらいない。
俺が写ってないことに誰も気づいてないのだ、笑える。
それからぼんやりと魔法で作った落ち物ゲームで
暇をつぶしたりするものの、くっそ退屈だ。
対戦が出来ないと物足りない。
漫画もラノベもアニメもゲームも無いのだから。
音楽と絵画とダンスと料理
それがこの世界で言う、表の大人の楽しみの大半だという。
「庶民にゃ、酒場の飯と、たまに来る流しの芸人くらいさぁ。」
と、飲んだくれていたときに聞いた。
ふーん、と俺は流した。
ここで、「じゃあ、俺が一曲やってやんよ。」とかやると
貴族に呼ばれて、屋敷で演奏したまえ状態になりかねない。
まあ、そんなことが起こりえないほどに演奏レベルが低いのだが。
縦笛でエーデルワイスがせいぜいだろう。
投石でミンチになりかねない。
じゃあ、子供は何して遊んでるのか?
どうせ男の子は冒険者ごっこ、女の子はおままごとだろう。
そう思い、おれは孤児院へ見物に行った。
けっして事案ではない。
だが、途中で俺の脚はピタリと止まった。
手汗がにじみ、足が震える、視線があがらない。
遠くから子供達の明るい声が聞こえる。
恐ろしくてたまらなくなり、俺は逃げ出した。
子供に戻りたいと願ったことがあるだろうか?
それは何歳ごろに戻りたいという願いだろうか?
そこから自分は間違ったということだ。
この世界の子供の遊びを確かめることは出来なかった。




