19話魔法使いと大狼
そして八層に入った。
今までと様子が違う。
降りたところにある広場の門はすべて閉じられていて
安全が確保されていた。
門には覗き窓と穴がいくつかついており、穴から刺し殺したり、
敵を確かめてから開けることが出来る様になっている。
1PTが休憩しており、チラ見すると重装備で、
いわゆるフルプレートとタワーシールドだ。
そして内一人が小さな玉の付いた杖を持っていた。
あれはもしかしなくても魔法使いではなかろうか?
すごく気になります!
そのPTの目がこちらを訝しげに見ている。なんだこの空気は?
仮面で毛皮装備の槍ソロがここへ来るのは
そんなにおかしいのだろうか?
はい、おかしいですね。オーガって近接だと硬くてかなり強いしね。
誤魔化しとして見せ掛けの弓を背負っているんだが。
挨拶すれば一応挨拶を返してもらえた。
さて、扉が閉まっている以上、迂闊に開けるわけにもいかない。
覗き窓を覗いてみると、
一番遠いところにやけにデカイ狼が陣取っている。
ここで大狼である。ムキムキでボサボサでデカイ。
そのうえ素早そうな普通サイズ狼を数匹従えている。
これはヤバイ。いきなり強くなりすぎじゃないですかね?
とりあえず、扉から離れ、座って休憩する。
ここまで結構急ぎ足だったし。
あの狼の魔石は欲しい。取り巻きから排除する選択肢は無い。
弾丸を見れば学習して厄介になる。
扉の穴から初撃の10-16弾をぶち込んで倒せれば御の字であるが、
その後の取り巻きの動きが予測できない。
数匹とは近接戦になる可能性が高い。
魔法を他人に見られるのも困る。
そこのPTが先に仕掛ければ
この世界の魔法が見られるという利点があるが、
魔石は諦める羽目になりそうだ。
あ゛~また迷うなぁ。
あのデカイ狼が他に何匹居るやらによるんだけどなあ。
保存食の干し芋をかじりつつ、浴びせられる視線を無視して考える。
16グラム弾となれば44マグナム並みであり、
オーガの頭だって吹っ飛ぶはずだ。
だが急造であり、調整が甘い。必中とはいかないかもしれない。
狼マジ怖いし、噛まれたら死ぬし。
ちょっとした傷から病気だってありうる。
ここには温泉が無いのだから。
芋で腹が満たされると眠くなってきた。
寝たふりをしつつ、視界拡張でPTを観察する。
「何だアイツ、仮面?」
「降りてきたと思ったら飯食って寝ちまいやがったぞ?」
「大狼見てブルッちまったんじゃねーのか?」
こそこそと話し声が聞こえてくる。
魔法使いは町の冒険者か貴族か?下手は打てない。
別段美人でもない神経質そうな年増女だ。
MP回復のためか目を閉じて集中し、ぶつぶつ何か唱えているようだ。
男たちはフルプレートで防御優先といった様子。
防いで魔法でドカンという戦術が透けて見える。
ん?はじめて女が登場したのに何スルーしてるんだって?
実ははじめてではない。練兵場で合同訓練するとき、
壁の上から何人か応援しているのを何度か見ているのだ。
そう、あの槍青年のことを応援していたのだ。
爆発しろ、しめやかに爆発しろ。
何度も無様に転がされながら、なんども呪ったが、
新魔法は起こらなかった。
まあ、リアル女とかで動揺したりはしない。
乳くらいしか気にならない。
んぅ~もうしょうがない、やってやるです!
うとうとしつつ、ハッと目が覚めたようなフリをしてから、
起き上がり、水を一口飲む。
おもむろに彼らに近づき、一言たずねる。
「先に行っていいか?」
「ああ、どうぞ。俺たちはまだしばらく休憩するつもりだからな」
男たちは驚いたような馬鹿にしたような呆れた感じで答える。
別に、倒してしまっても構わんのだろう?
という気持ちで一杯になりながら
扉に向い弓を手に取る。脳内BGMは当然アレだ。
土で他の覗き穴をこっそり塞ぐ。
穴から矢を射るフリをしながら
隠し持った10-16弾を設定した倍の威力を込めて発射した。
できるだけ遮音したおかげで、
ボンッと扉の向こうから小さく低い音が聞こえる。
大狼はわずかに反応して動いたが、弾は命中し、ふっとばした。
過剰攻撃だったようだ。
取り巻きは混乱している。
門を小さく開け槍と荷物を掴んで通路に出て、すぐ閉める。
弓と荷物を即置いて、5-4弾を数発握り込んで取り出すと、
狼たちがこちらに気づいた。
駆け出す前に一発、駆け出した奴に一発、
「ギャウンッ」という狼の悲鳴が聞こえる中、
三発目を撃とうとしたとき、狼が鋭角に跳ねた。
「ぐっ」と思わず声がもれるが、撃つのをこらえ、
跳ねた狼がさらに壁を蹴り通路の中ほどへ着地する。
寸前に三発目をぶちこむ。だが四発目は間に合わない。近接戦だ。
俺は横に飛びながら槍を狼に向けて構える。
すると狼は槍を潜るように低く突進し、
続けて伸び上がる用に飛び喰らい付こうとしてくる
読み読みなので、四発目を喰らわす。
だがそれを目隠しにするかのように、
もう一匹が横から低く、足を狙って突っ込んでくる。
「加速」を使って不自然な体勢から不自然な方向に
自身をふっとばして回避。
地面に転がりながら、握り込んでいる五発目を準備する。
狼も喰い付き損ねて転がり壁にぶつかるが、素早く起き上がり、
壁を蹴るようにして飛び掛ってくる。
五発目を叩き込んだ。
膝を突きながら、痛みを堪えてなんとか槍を構え、確認する。
即死でない狼のうめき声が聞こえるが戦闘不能のようだ。
打ち付けて痛む腰を抑えて立ち上がり、止めを刺して回る。
奥を慎重に覗き安全を確認すると、
大狼の死体を抉って魔石を確保する。
とにかく魔石が大事だ。
荷物を外して背負子兼カートを取り出す。
内臓がこぼれてグロい大狼を載せて扉前に戻り、
また奥へ行き取り巻き狼をカートに乗せる。
転がったときにこぼした弾丸を回収する。
なんとか獲物を中へと運び込んで扉を閉める。
血抜きのための場所に狼をぶら下げ終わると、
「あ゛ぁ~」
情けない声をだしつつ、俺はその場で崩れ落ちた。