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14話スラムで覚える日常会話入門編

次の日の朝、マールクがローブを着たヨボヨボのじーさんをつれて来た。

おでのかだだはぎんじくづうでぼどぼどだ(俺の体は筋肉痛でボロボロだ)。

紹介によると「トロソ」と言う名前らしい。おれも名乗返す。

マールクは一言二言トロソに言付け、

肩をバシバシ叩くと去っていった。

じいさんが死んじまうぞ?


トロソじーさんはため息をつくと

敷物を敷いてなにやら道具を準備し始めた。

木札、石ころ、さいころ、秤や棒、インクとペン、そして本。

小ぶりだが、ハードカバーの立派な本である。

俺も小屋にとって返し、交渉用に使った道具を引っ張り出す。

あと体を拭く道具も出す。


爺さんの前に戻ると準備は終わっていた。

俺も毛皮を敷いて座り込み、体を拭く。

爺さんはあっけにとられたようだがすぐに話をし始めた。


まずは木札に2つの記号が間をあけて書いてあるものを取り出し、

開いてるところに石ころを何個か置く。


ふむ、これは計算が出来るかどうか確かめようと言うあれだな。

俺はさっと4つの答えを用意してやった。

爺さんは「ヘエ」と喜び、

残り3つの木札をそれぞれ示し読み上げた。

俺は四則演算子を獲得した。書字板にメモりながら復誦し、

表示魔法にも記録する。

それから重さ、長さ、太陽を見ての大雑把な時間

などを教わった後、本を開き見せられながら

使われている文字を教わる。

アルファベットのようなものだ。

パパッと覚えた(魔法カンニングしている)。

じいさんは俺の書字板と木札が気になっているようだが、

次の課程に移る。

俺の入れた茶を飲みながら、そこからはひたすら単語だ。

物の名前から動き、色、感情、感覚、身振り手振りと

道具を交えて教えられる。

書字板には書ききれないので木札も使ってメモし続けた。

持ってきた道具をあらかた習った後、道具を片付ける。

俺も道具を片付けた。

爺さんの荷物を持たされる。

「町、歩く」

と爺さんに簡潔に言われたので、俺はあわてて装備を整えた。

スラムを歩きながらいくつか単語を教わるが、

曖昧な物は省かれていた。

死んでるのか寝てるのか判らない男や、

家なのか板切れなのかわからない寝床などだ。


進んでいくと樽の描かれた看板が見えてきた。酒場のようだ。

丁度昼時であり、店内は食事客で混み合っていた。

スラムの癖に大繁盛である。

それでもなんとか席をとり、注文をする。

ガヤガヤとした話し声の中に

俺の偽名と仮面という単語、そして、

とても興味深そうな視線を感じる。わかる。

どうやって食べるのか?って思ってるんだろう?

でも簡単な話だ。

少し下を向いて仮面を少し外して隙間から食べるだけである。

すぐに周囲の客はしらけた。これにはじいさんも苦笑いである。


メニューは煮た芋に何かのソースかけ、

しょっぱい肉片と野菜クズ炒め、そして温い酒。

料理は思いのほか美味いが、酒はかなり不味い。

キンキンに冷やして美味くなるテンプレがよくあるが、

関係なく不味い。マシにはなるが。

苦味と渋味と酸味が交じり合い、

鼻を突く奇妙なにおいが最高の不協和音を掻き鳴らす。

出来損ないが回ってきているのだろうか?

なんとか飲み干し、混んでいる為すぐ席を立つ。

当然爺さんのおごりだ。俺はカネなど持っていない。


酒場を出てさらに歩く、爺さんは思ったよりかくしゃくとしていた。

道具屋、古着屋、金物屋、近くの畑などを回り、

さらに用途や言葉を習う。

日が沈む頃には門の前にいた。

爺さんも町住みのようだ。荷物を渡すとつらそうだが、

手を振って別れた。門の向こうに荷物持ちが待機していた。

マールクはどうやって渡りをつけているのだろうか?

そうとう顔が利くようだ。


俺は帰りながら今日一日の復習をする。

カタコトながら、

かなり読み書き出来る様になってしまったのではなかろうか?

トロソは非常に実践的に教えてくれたものだ。

あとは速やかに異世界語翻訳魔法を作ろう。そう心に誓うのだった。


寝る前にささっと魔法を作る。

某先生の翻訳のようにすごいのは無理だが、

単なる単語辞書程度なら簡単だ。

とくに「これは何ですか?」と聞けるようになったのは大きい。

どこかの言語学者はそこから始めるというのを聞いたことがある。


さて、そろそろ狩などしないと食料が厳しくなりかねない。

明日は時間が取れるだろうか?スラムに来てからなかなか忙しい。

正直もっとダラダラ出来る掃き溜めのような所と思っていた。

だが、やたらと面倒見のいいマッチョ、さわやかな若者、

知的な老人、飯の美味い酒場とみな勤勉で、

スラムにやってきた奇妙な新入りにやけに親切だ。

俺のどこにそんな価値があるように見えるのだろうか?

どう見ても原始人のはずだが。

それともこうするきまりのようなものでもあるのだろうか?

謎が深まる充実スラム生活だった。

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