12話町と新拠点
とにかく今はステルス優先で森からの脱出を急ぐ。
見張りの目が届かないところまで離れてから街道に出る。
とても歩きやすい、文明を感じる。ただの土の馬車道なのに。
せっかく組み立て荷車があるが、
すぐ隠れられないので使わないことにした。
しばらく進むと道の脇に広場が見えてくる(望遠)。
これは野営地だね間違いないね。
迂回するか?なんかめんどくさくなってきたな。
これは油断なんですかね?
こう、普通に歩いててどうにもならなくなるってのは、
どのみち、どうにもならないんじゃないですかね?
というわけでこのままスルーして道を進もうと思う。
横目にちらりと野営地を見るとやはり商人の荷馬車が有り、
護衛が煮炊きしている。
西へ行くのだろう。注意を促すべきかとも思ったが、
何より言葉が分からないのでスルーする。
二連続で仕事(強盗殺人)はしないかもしれないし。
護衛はこちらに奇異な視線を向けている。
仮面毛皮大きな背負い荷物だ、さもありなん。
だが、とくに絡まれることも無く離れることが出来た。
これが原因で豚商人が襲われた事が
俺のせいになったりしないよな?フラグかこれ?
聞き込みくらいはくるかもしれん。気をつけよう。
さらに進む。もう夜中だ。周囲が畑に変わり始め、
前方に町が見え始めた(望遠)。
即座に方向転換し、畦道に入る。正面から町に入るつもりは無い。
まずは忍び込んで様子を探り、できれば言葉を覚えたい。
かなり大きな町だった。高い防壁に囲まれており、
川が流入している。
全周回るのに2日を要した。進入するのに水路を使うか、
壁を越えるか迷う。
だが、城壁外にも人が住んでいた、川の出て行く下流側のスラムだ。
川は汚物にまみれておりとても臭い、建物もボロい。治安も悪い。
死体が転がっているまである、そいつは片足、片腕が無かった。
かなりやばい。
だが、俺のような奴が紛れ込むには最適だ。
道端でぐったりした連中のにごった視線を感じるが、
襲ってくることは無いようだ。
下流へ移動しながら、適当な空き地を見つけ、
そこを拠点とすることにした。
まず穴を掘ります、出た土で柱を立てます、
ここいらは土がいいようだ、良く固まる。
さらに傘のように土棒を柱にかけます、
蜘蛛の巣のように横棒も張ります。
そこらへんで刈ってきた草束を葺きます、
なんちゃって竪穴式住居の出来上がりです。
大きさは寝る分くらいしかない。
魔法があるので生活上ほとんど焚き火は必要ないのだが、
灰や虫除けのために囲炉裏と足のある寝床付きだ。
スラム住人が通りながら横目でちらちらとこちらを見ている。
目立ちすぎか?そのまま地べたに横になるのがスラムマナーか?!でもそんなのは嫌だ。
出来上がった頃には夜になっていたので。
建築中に干しておいた、すり潰した雑草を
渦巻き状に配置し火をつけて寝る
森の生活で何度か試したので問題ない。魔法で監視できる。
翌朝、アラートで目覚める。誰か来たようだ。
頭と足首の魔石で射程が小屋の外まで届くので
外も監視できます、安心。
起きて身なりを整え
(仮面も毛皮も被りっぱなし、武器を持つだけ)、外へ出る。
そこにいたのは少しやつれているが筋肉質な男が数人。
みな手や足を欠損しているようで、引退した戦士といったところだ。
リーダーは隻腕のひときわデカイ男のようだ。
この調子だと、まじで120%の世界が待っているかもしれない。
俺の槍を見て一歩後ずさるが武器を抜くようなこともせず、
何かゆっくりと話しかけてくる。
うむ、わからん。
手をかざしてちょっと待てのジェスチャーをして小屋に戻る。
やっべぇー!!!まじっべーよ!!!!!
寝て起きたらいきなり異世界人と交流とか
スラムだからって都内みたいに無関心なわけねーwwwww
都内マジ心が砂漠。
深呼吸して心の準備をして、
荷物から交渉用に用意した色々を持って外に出る。
さあ、交渉の始まりだ。
まず言葉が分からないことを伝えねばならない。
声が出ない、耳が聞こえない、頭が悪い、
などの誤解をさせずに伝えるのが難しい。
毛皮をしいて座り込み色々する
言葉が通じていないことは分かったのだろう。
相手も難しい顔をしている。
自分を示して「ウォン」と偽名を名乗った
偽名は未開人っぽく短いのがいいだろうと思ったからだ。
すると相手も自分を示して「マールク」と名乗った
隻腕大男はマールク、○ぃ、覚えた。
難航する交渉は細かいことは何も伝わらないまま、
昼になった。
相手の腹が鳴る。苛立ちもギリギリのようだ。
そこで俺はちょっと待てのジェスチャーで小屋に戻り、
土器で茶を淹れ、干し肉を持って席に戻る。
人数分の湯飲みは無いため、マールクに茶と干し肉を振舞った。
俺が飲み食いしてみせると、
男は土器の湯呑みを不思議そうに見ながらも、
胃に収めてくれた。表情が柔らかくなった、
これで多少は関係が良くなったか?
茶を継ぎ足し、休憩などを挟みつつ、交渉は夕方まで続いた。
あまり芳しくは無かったが、俺の土器や毛皮、
数個見せた魔石と
装備には興味があることが分かったし、通貨を見せてくれた。
多分、鉄貨、銅貨、銀貨でもっと上があるようだ。
俺も武器を作るときに作った
コイン状の鉱物サンプルを見せてみたが、
少しは興味があるようだったが、
それ以上は良く分からなかったようだ。
それから適当に作った楽器を見せた。
土器で作った笛や木琴のようなもの、金属線を使った弦楽器だ。
調律も演奏も適当である
とりあえず、言葉は通じないが交渉の余地があり、
友好的であることは伝わったと思う。
空を見て日が沈み始めた頃、なんとなくお開きとなり、
握手をして帰っていった。
握手の文化が有る…のか?
武人は手を見たり握ったりすればどの程度か分かるという。
悪○将軍とかの○獄の△所封じとか、
うかつに手を握る奴は危機管理が甘いとか。
マールクの手はまるで野球のグローブのようだった
今日は結局何も出来なかったし、
肉も振舞ったので食料が少し心配になった。
どうにかして稼ぐ方法が得られるといいのだが。
不安になりつつ、交渉で嫌な汗をいっぱいかいたので、
体を拭いて寝た。