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城の客間で

 城に着き、寝室付きの広い客間に通してもらった。

 俺たちの世話役だという初老の従者はボラールと名乗り、王を俺たちへ謁見させるまでの身支度として、浴場で身体を洗い流すことをすすめてきた。たしかにまだ身体中を包んでいた繭が取りきれていなかった。

 ぜひお願いしたいと言うと、ボラールは支度をすると言って部屋を出ていった。

 俺はベットに横になりながら、客間の棚に並んでいた本を読んでいった。

 読んでみると、そこにはこの世界独自の言語が書かれており、異世界人である自分には読めないはずだったが、全ての文の上には日本語の翻訳が浮かんでいた。ボラールの喋りにしても、聞こえてくる声と口の動きが違うので、洋画の吹き替えを聞いているような感覚になった。こちらが喋った声も、向こうには翻訳されて聞こえているんだろうか?


 その後、立て続けに神葉樹の実が割れ、コウイチ、ミナギ、ルナの順番で出てきた。

 目覚めた三人に現状を伝えると、反応は様々だった。

「最近のゲームってスゲェんだな! 本当に中世ヨーロッパに来たみたいだ! 壁とか床とか触った感覚も全部本物っぽいし。ほっぺたつねっても痛いし」

「RPGの世界に来たなら、この眼でモンスターを見てみたいです! ドラゴンの背中に乗って空を飛ぶのが夢だったんです。クジラより大きな動物もいるんでしょうか」

「ルナは魔法使ってみたーい! ほら、名前からしてルナって魔力に満ちあふれてる感じがするでしょ? きっとすごい魔法使いになれると思うの」

 驚いたことが、三人ともゲームの世界に入り込んでしまったという事実を悲観せず、むしろ喜んですらいることだ。現代っ子恐るべしである。

 俺は目覚めてからというもの、影狼のモンスターと戦っている間も、この城(ライアット城というらしい)に着くまでも、客間に通されて三人が木の実から産まれるのを待つ間も、この状況を楽しんでいる余裕などなかった。

 どうしてこの世界に来てしまったのだろうか、家には帰れるだろうか、帰れるとすればどうすれば帰れるのだろうか、それはいつか? この世界で死んでしまったらどうなるのか、考えても答えの出ないことばかり考えていた。

 たしかにこの三人のポジティブさには見習うところがあり、すでに起きてしまったことに対してああだこうだ考えてもしょうがないのかもしれない。

 少しは起きてしまったことを楽しむ余裕があってもいいと思えた。

「それにしてもお兄ちゃん」

 ルナがすねたような顔を近づけてきた。

「おそってきた悪いモンスターをやっつけたって……なんでルナより早く魔法使ってるの! ルナが魔法使いなのにー! ルナにも魔法おしえて!」

「そんなこと言ったってなぁ。教わらずに出来たもんを一体どうやって教えればいいんだよ。使えるって感覚があって、覚えてた名前を唱えただけだからな」

「じゃーそれ、言ってみるから教えて!」

 影狼に放ったディーンヴァルドは雷系の中級魔法にあたる。俺が使った時には雨雲が立ち込めていて、威力が増幅されていたようである。このゲームの魔法にはフィールド効果があるのだ。ちなみに、最も下位クラスの雷系魔法はディーンという。

「ディーンヴァルド!!」

 ルナがそれらしく目一杯に手を広げ魔法を唱えたが、何も起こらなかった。

 何も起こらないのはいいが、

「ルナ。兄貴に向けて魔法を使おうとするんじゃない」

 ルナはいたずらな笑みを浮かべて、

「いいじゃん、どうせなんにも起きないんだし」

 その時、さきほどの世話役ボラールが浴場の準備が出来たと声をかけてきた。

 俺たちは全員で浴場へ向かった。


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