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冒険は上空10,000mから

 離陸してしばらくの後、シートベルトの解除許可が出ると、機内は一斉に騒がしくなった。

 喧騒の主は高見野高校2学年修学旅行御一行様で、かくいう俺、結城ユウタ(ゆうきゆうた)もその中の一人だった。

 隣りのシートの百村コウイチ(ひゃくむらこういち)がテンション高く声をかけてきた。

「なぁ、沖縄に着くまでなんか暇つぶし出来るモン持ってないのか? せっかくの修学旅行だぞ! 72時間休みナシで動くからな!」

「漫画もトランプも、上の収納棚に上げちゃったしなぁ……ゲームアプリでもやるか?」

 そう言って、上着のポケットからスマホを取り出すと、その拍子に何かが外れて床に落ちた。

 それはゲームモンスターのデザインが入ったストラップだった。

「おっと」

 拾い上げようとすると、誰かの手が先にストラップに触れた。

「はい、落ちましたよ」

 声の主は、クラスメイトの海原ミナギだった。あまり話した記憶はないが、校内でも1、2を争うほどの美少女だったので、名前と顔くらいは知っていた。

 お礼を言ってストラップを受け取ろうとすると、ミナギの手が止まった。

「あれ? この絵、どこかで見た気がする……」

「ドラゴンスフィアっていうRPGに出てくる、ドラゴンだよ」

「そのゲームって、いつのものですか?」

 正直、変なことを聞いてくる子だなぁと思ったが、

「もう5年くらい前かなぁ。俺がやったのはわりと最近だったけど、もうクリアした。知ってるの?」

 ミナギは少し眉間にしわを寄せ、目をつぶって何事かを思い出そうとしているようだった。

 そして、美少女と会話が出来るチャンスをこの男、コウイチが逃すわけが無かった。

 横から割り込むように、

「なになに!? ミナギちゃんこのゲームやったことあんの!?」

「うーん……このゲーム自体、やった記憶はないんですけど……このドラゴンが何かひっかかるというか……可愛い、というか」

 俺とコウイチは目を見合わせ、二人そろって言った。

「「可愛い?」」

 ミナギがまた食い入るようにストラップを見つめ始めたところ、コウイチが発明家の表情になった。

「じゃあさ! わかんないならこのゲーム、俺たちでやってみようぜ!」

 ミナギの顔がぱっと明るくなり、こくこくとうなづいた。その表情はまるで花が咲いたように可憐で、見る者は誰しもが微笑み返してしまうほど暖かいものだった。

「ユウタ、何人で出来るんだこれ?」

 我が意を得たりのコウイチである。沖縄までの暇つぶしで美少女と一緒にゲームが出来て、さらにその中で仲良くなれば現地でも交流の機会が増える。修学旅行から帰っても、そこから更に仲良くこともある……

 コウイチがそこまで考えているかどうかはわからないが、俺はなんだか面倒なことになってきたなぁ、と思いつつも、正直に答えてしまう。

「プレイヤー人数は近くでリンクできるなら何人でも大丈夫。ただ、あんまり多いと通信も時間がかかるから、四、五人がちょうど良いんじゃないか。俺はソロでやってたけど……」

「ここにいるのは三人だから、あと誰か呼ぶか?」

 あとで気づいたが、これはコウイチなりにミナギを気遣ったのかもしれない。よっぽどのコミュ力がない限り、仲の良い男二人のなかに女の子一人では入りづらい。

 そのことに気づかず、俺はゲーム攻略的な観点で返事をしていた。

「そうだな、このメンバーで魔法剣士、戦士、魔法使いは一人ずつ担当できるけど、もう一人魔法使いが欲しいところだな……そうなると」

「魔女っ子でロリっ娘な妹っ子が欲しいところよね」

「そうだな、魔女っ子でロリっ娘な妹っ子が……いもうと?」

 俺の妹、結城ルナがいた。というか紛れていた。

「ルナ!? なんでお前こんなところにいるんだよ! バッグに潜りこんでたのか!?」

 ルナは小学五年生で、当然ながら今回の修学旅行生には含まれていない。

「やーねーお兄ちゃん、南の島に行くからってもう頭ん中バカンスになっちゃってるんじゃない? ルナは高見野高校の修学旅行生としてじゃなくて、フツーの旅行客として飛行機のチケットを取ってここにいるの」

 確かにこのジャンボ機、ボーイング747には高見野高校の生徒、引率の教師以外にも通常の旅客者が乗っている。それにしても、

「ただの客として来たのは分かった、だが費用は? この修学旅行の費用は一人10万かかるんだぞ? 母さんと父さんには言ったのか?」

「あーもーうるさいなぁー。飛行機代その他はお年玉と貯めたおこづかいから出せるし、宿泊費はおじいちゃん家に泊まるからタダだもん。それに少しならママが出してくれるって。学校の勉強は一日二日くらいならすぐ追いつけるし、それより自分で旅のやり方を覚えるほうがずっと役に立つってパパも言ってたよ。おじいちゃんにも連絡してあるしね」

 結城家は母が屋我地島の出身である。この修学旅行の代金は半分近くが沖縄で5本の指に入る高級ホテル代で取られており、それを抜きにすれば小学生にも払えない値段ではない。

「そーゆーわけで兄に付きそいで遊びに来ました、妹のルナです。コウイチくん、ミナギさん、よろしくお願いします」

 ぺこりと頭を下げると、両側で結んだツーテールが合わせてぴょこんと動いた。

「ユウターお前! こんな可愛い妹がいたのかよ! 犯罪だろ!」

可愛い妹がいるだけでなぜ犯罪になるのか。

「結城くん、こんなに可愛い妹さんがいたんですね!」

 ミナギは嬉しそうな顔でルナと握手をしだした。

 俺は観念せざるを得なかった。


       @


「――――と言うわけで、全員アプリはインストールしたな?」

 ゲームは俺のクリア済みデータで、俺だけ「つよくてニューゲーム」いわゆる最強状態で始めることにした。他の三人は初期レベルからのスタートだ。

 コウイチとルナから抗議の声が上がったが、ドラゴンスフィアは序盤のレベル上げに少し時間がかかり、機内での二時間、沖縄での移動中にプレイするにしても全くゲームが進まないと判断した。

 序盤では俺がサポートをしてみんなのレベルを上げ、快適に進めたほうが面白い。

 中盤まで進めば、さすがの俺でも強力な装備をつけていなければ適度な難易度で進めることが出来る。

 旅行が終わっても続けてこのゲームを皆でやる可能性もある。そういう理由があった。

 4人シートに俺とルナ、ミナギ、コウイチが並び、

「ドラゴンスフィア、プレイ開始!」


 ゲームを始めたその瞬間、俺の視界はブラックアウトした。

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