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後編

 昨日投稿したものの後編となります。


 ……ルルルー


 突然聴こえてきた軽やかな音。一般人なら素直に楽しめたかもしれないが、ボクは違った。

 何故なら、あれはサンタの天敵が来たことを知らせるサインだったからだ。

 ボクたちサンタの間では「サンタ狩り」の名称で認識されている彼らは、元サンタに夢を壊された子供たちだと専らの噂だ。因みに、サンタ側にコンタクトをとった強者がいるので、信憑性はかなり高いと言えるだろう。


 彼らはサンタを見付けると特別製の笛で連絡を取り合い仲間と共闘する。目的はサンタに夢を壊された子供を増やし仲間にすること、という本末転倒も良いところなものらしいが。


 ……自分たちが夢を壊されてショックを受けて結成したなら、夢を叶える仕事をしようよ。


「……む」


 サンタ狩りに突っ込みを入れていると、何だか嫌な予感がして上に避けた。ほんの少し前にボクが居たところには、水が大量にかかっていた。それはみるみる内に凍りついていく。


「……」


 ……窓枠を蹴った勢いで跳ね上がったわけだから、もう足場が無い。さて、どうしたものか。


 その時、サンタ狩りの姿が見えた。全身黒でサンタ服のデザインにそっくりなそれは、ボクが目安箱にいれた意見と瓜二つだった。

 ……もしかして、だから案が通らなかったのか? しかも、実物を見てみると真っ黒すぎて完全に闇に紛れてしまっているので、これは止めた方が良いかもしれない。

 これでは仲間を橇で轢きかねない。……あ、サンタ狩り同士激突。

 ああ、やっぱり危ないんだ。……よし、来年は別の案を入れておこう。


 ボクがのんびりと思考している間に、相手は準備が出来たようだ。

 因みに大分前から囲まれているので逃げるという選択肢は存在しなかった。そもそも、囲まれていなくても、無防備に背中を見せたところで狙い撃ちにされそうな気もするし。


 サンタ狩りの様子を伺うと、彼らの武器が殆ど水鉄砲であることが判明した。ご丁寧に能力付与がなされているようで、水を発射するまでは凍らない仕組みになっているようだ。


 あ、そろそろ空中停滞が切れる。本格的に詰んだ。


『困った時はこの言葉を思い出すと良い』


 唐突に脳内で再生された先輩の言葉。何かヒントになるかもと藁にもすがる思いで記憶を辿る。


『成せばなる成さねばならぬ、何事も。……要は、大抵のことは出来ると思えば何とかなるもんさ!』


 ……クソほどにも役に立たん!


 今ここで、先輩の名言(迷言? ……一部パクリだし)が出てきた理由とは。一瞬でも役に立つかもしれないと思ったボクが馬鹿だった。

 ああ、無駄に良い笑顔だった先輩の顔を思い出したせいで、無性に苛々するのだが……。


「覚悟!」


 ボクの都合も省みずに突撃してきたサンタ狩りにキレた。……完全に八つ当たりだったが、この時はそんな考えは無かった。偶然苛立つことが重なったことによる不幸な事故だ。


「覚悟するのはお前らの方だ、クソっ」


 一応断っておくが、ボクの語尾は「クソ」ではない。当然だが。

 ……閑話休題。


 思わず怒鳴り付けると、サンタ狩りの集団は驚きからか一瞬動きを止めた。

 この好機を逃すボクではない。


 ……ボクは翔べる!


 怒りを全て原動力に変えて、ボクは心の中で唱えた。もしかしたら、声に出ていたかもしれない。


 その途端、身体が軽くなったように感じた。軽いものの喩えで「羽のように」と言うが、まさしくそんな感じだ。

 比喩ではなく、今なら翔べると感覚的に理解できた。


 ボクは一瞬の躊躇もなく、消えかけている足場から一歩踏み出して何もない空間を軽く蹴った。


「……!」


 途端に、ボクの身体は何の抵抗もなく遥か上空まで跳ね上がった。距離と色が原因か、サンタ狩りの姿は全く視認出来ない。


「見付かったらまた逃げれば良いか。……さっさと残りのプレゼントを配りに行こう」


 落下に身を任せながらボクは予定をたてた。

 まだ理解出来ていない様子のサンタ狩りどもを横目に、ボクは再び地面を蹴った。


「……あ、おいっ」


 サンタ狩りの中で一人だけ反応したやつが居た。すらりとした長身で、少年の面影を残した青年だった。


「……縮め、クソっ」

「は?」


 思わずもれた本音に、彼はポカンとした表情を浮かべた。



「……次は、「くまさんのぬいぐるみ」ね」


 ボクは手紙を確認してから、その子の家に向かった。

 再び三角割を行って部屋に滑り込み、流れるようにプレゼントを詰める。明らかに先ほどより早く出来た。

 しかし、これで上がったのはサンタのスキルなのか盗人のスキルなのか……。



「見付けたぜ」

「げ」


 窓を修復したところで、サンタ狩りが姿を現した。先ほど反応してみせた彼だけで、他のサンタ狩りの姿は見当たらない。

 距離を取って警戒を続けるが、一向に笛を吹こうとしない彼につい尋ねた。


「……仲間は呼ばなくて良いの?」

「あ、ああ。オレ以外じいさんばっかだし、呼んでもすぐに撒かれるわ」


 虚を突かれた様な表情になった彼は、普通に返事をしてくれた。

 というか、おじいさんばかりって……。いい加減諦めようよ。凄く切なくなったんだけど。


「……お前こそ逃げねぇの?」

「ん? そういえばそうだね。なんだか調子が良いからまだ逃げなくても大丈夫かなって……」

「……ふぅん」


 彼は呟くと、一瞬で空けていた距離をつめてきた。

 どうやら、彼は水鉄砲の他にも何かを持っていたようだ。まあ、他に動ける人が居ないなら当然とも言えるが。


 ボクはバックステップの要領で彼から再び距離をとった。

 彼は、「なるほどね」と呟いて何かを投げ付けてきた。通常なら反応出来ない速度だったが、集中力が高まっていたボクは簡単に視認出来た。

 何を投げてこようが避ければ問題無いだろうと、ボクは上に逃げようとした。そこで、ふと考える。


 ……彼は何か情報をとっている様子だった。対してボクは、彼に上と横に翔ぶ動きを見せている。

 特筆すべきこの動きの利点は、他人が追ってこられないほど上空に待避出来ることだ。

 ならば、彼はボクが上に逃げることを想定して罠を張ってくるのではないだろうか? 横も可能性が無いとは言えないが、ボクの周り一帯に何かを仕掛ける余裕は無かったように思われる。


 短い時間で常には無いほどの速度で思考したボクは、長距離ステップを選択した。


「……避けるか。なかなかやるな」

「どうもっ」


 あの高速思考は、人が極限状態に陥った時に体験するという走馬灯のようなものだろうか。

 だとすれば、ボクはどれだけ危険な攻撃を仕掛けられかけていたのか……。


 思考が戦闘から逸れかけた時に、彼が身動ぎしたことに気づいてボクは気持ちを引き締めた。

 ……さあ、次はどう来る?


 彼はポケットの中に手を入れて、何かを探るような素振りを見せた。そして手を握った状態のままポケットから引っぱり出して、また腕を振りかぶった。

 さっきよりも更に速い動作に思わず反射的に飛び上がってから彼の手を見て、ボクは「やられた」と呟いた。彼の手には何も握られていなかったのだ。……詰まるところ、フェイクだったというわけだ。

 ボクの体が向かう先には妙に粘着質な網。これで捕まえるつもりらしい。しかし、それに対しては「甘い」と言わざるを得ない。

 ボクは網まである程度の距離があることを確認していたので、肩に担いだサンタ袋を思いっきり進行方向に振りかぶった。途端に巻き起こった風が網に向かって吹きつけ、ボクの身体をギリギリのところで停止させた。

 そのまま方向転換して、次の家に向かった。サンタ狩りの彼は、また置き去りだ。

 ……自分もフェイクを使うくせに、咄嗟の行動というものが苦手なのかもしれない。



 子供の家から出る度に彼は姿を現し、次の家に行くときに撒き続けるというパターンが「お決まり」と化した頃、手紙がとうとう最後の一枚になった。鞄の中をしっかり確認して、他に手紙が見当たらなかったので間違いない。

 ……最後くらいこちらから何か仕掛けても良いかもしれない。


 そう考えたところで、都合よく真っ黒な彼が現れた。何度も追いかけっこをしているうちに目が慣れたのか、最初の頃より無駄に見つけるのが早くなったように思う。……困った、G氏を見つけるのが早くなったらどうしてくれるんだ。


「あれ、もうにげねぇの?」

「うーん、あと少しでお仕事終了だしね。少し遊んでいってもらおうかと思って」


 待ち構えていたボクに、彼はきょとんとした表情で目を瞬かせた。そんな彼の様子もお構い無しに、ボクは個人的な荷物が入っているポーチに手を突っ込んだ。指先は、すぐに少し弾力を持った球体に触れる。

それを引っぱり出して自分の足元へぶちまけた。


 空中をみょんみょんと軽やかに飛び跳ねているのは、ボクが去年お祭りで入手したスーパーボールだ。先輩が面白がって能力付与したのでどんなところでも跳ねる。

 元々、先輩がイメージしていたのは水面や砂の上だったようだが、勿論空中でも跳ねる。

 いつ、何処で、跳ね返るか分からないスーパーボールの集団は、彼を混乱させるのに充分な役割を果たした。


「じゃあ、追いかけっこの鬼さん、また機会があったら会おうね!」

「お、おう」


 うむ、やはり彼は少々おつむが弱いらしい。



 サンタ狩りに別れを告げて、僕は空中を全力で疾走した。これで仕事が終わりだと思うと、自然とテンションが上がる。色々と散々だったが、この瞬間のためのスパイスだと思えば……、いや、やっぱないわ。

 少し正気に戻ったが、それでもテンションは高いままだ。少し叫びだしたくなって思いとどまった。

 ……そういえば、ボクが先輩に初めて会ったとき、彼が奇声を上げていてドン引いたことを思い出したのだ。

 ボクは最後の家に、なるべく音を立てないようにして侵入を果たした。まあ、ボクの予想通りなら部屋の主は起きている筈だが。「サンタさんに会いたい」。手紙にはそう書いてあったから。


「……サンタって、もっと魔法の力みたいな感じで部屋に入ってくるものだと思っていたのに」


 部屋の主が微妙に夢を壊された、という表情をしているが、気にしない。取り敢えず、サンタ狩りにならなければ何の問題も無い。


「まあ、理想と現実は得てしてかけ離れているものだよ」

「……はあ」

「さて、おめでとう! これで、キミも晴れてボクたちの仲間だ」

「はぁ!?」

「気持ちは分かるけど、ルールだから」


 「子供に見つかったサンタは、速やかにその子を新たなサンタ見習いとして引き入れ組織に帰還すべし」という妙なルールが存在するのだ。人手不足を解消するための策だろうが、実際このルールが発動するのは数年に一回だ。前回は、ボクがこのこと同じようなことを考えて捕獲された、三年前になる。

 因みに、新しい仲間を引き入れたサンタには臨時のボーナスが出る。……一応言っておくが、「友達を紹介してくれたら○○円プレゼント」というような危ないものではない。


 これらのことを手早く説明したボクは、彼を橇に招待しようとして、肝心の橇がなかったことを思い出した。


「仕方がない、ボクが抱えて帰ろう。……幸いにも小柄だし。子供可愛い」

「え、こっちの拒否権は……」

「ないよ」

「……」


 彼は諦めたような表情で溜息を吐いた。



 ボクは、新たなサンタ候補君を抱えて空を翔けた。

 途中で彼のリクエストがあったので、雪を降らせながら。これくらいの能力ならボク程度のサンタにも可能だ。


 白い尾を引いて基地まで翔けるボクたちの姿は、流星のようだった。



 さあ、新人教育を始めよう。

 取り敢えずは、あの鹿の相棒になることが決まった可哀想な彼に、先輩から教わった様々な抜け道を教えてあげなくては。

 これにて完結です。

 ノリとテンションの産物をここまで読んで下さり有り難う御座いました。


                              かっぱまき

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