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前編

 次に書く小説のお題を後輩に決めてもらったところ、「アクション」と無茶振りされました。言い張ればアクションのような気がしないことも……。

 正直、私がアクションをあまり理解していないので、イメージするものとは違う可能性が高いです。


 本日は晴天なり。……もう夜だが。

 まあ、絶好のサンタ日和であることに間違いはないだろう。


 何せ、天候が荒れると上空にある特急が遅れ、その後の橇の工程もトナカイ……の代わりをしてくれている鹿の機嫌が悪くて無意味に時間を消費することになる。

 彼はもう引退した身で好意でやってくれているわけで、文句を言うつもりもないが、寒いと古傷が痛むとかほざきやがるのだ。

 ……いや、怒っているわけではない、断じて。ただ、孫に「お爺ちゃんキライ」と言われたことを古傷と言うのか小一時間問いただしたいだけだ。

 孫も孫だ。何故よりによって、彼が活躍すべき寒い聖夜にそのようなトラウマを植え付けたのか……。

 まあ、実際はプレゼントを用意出来なかった孫が一度祖父の気持ちをどん底に落とした後で持ち上げることで、落差による喜びのプレゼントにしようとしたらしいが。

 そんなことを考えるとは……、最近の子供は末恐ろしい。恐らく、彼の心臓にクリティカルヒットを決めたことは想像に難くない。

 彼の弱々しい拍動が止まらなかったことを奇跡と言わずして何と表現しようか。


 ……いや、そんな話をしている場合ではなかった。

 ボクは、三年前から修行を始め、漸く見習いの名を返上したばかりの身なのだ。今日はなんとしても失敗するわけにはいかない。

 ……世知辛いサンタ業界のせいで、余り者の鹿を押し付けられている状態であろうとも。因みに、彼は以前ボクの先輩の相棒だったらしい。つまるところ、新人の宿命ということか。


 まったく、最近は人手不足で健全なブラック企業も真っ青な社畜ぶりだ。……いや、健全なブラック企業という言葉は日本語的におかしいか。

 まあ、いい。とりあえず、サンタは聖夜にしか仕事がないなんて考えているやつは悔い改めないと、いつかボクが夢枕に立つぞ。


 ああ、何の話をしていたのだったか。

 ボクは、話がしょっちゅう逸れることに定評があるので、諦めてくれると大変有り難い。


 ……そう、先程も述べた人手不足が原因で、見習いでなくなった途端、新人もこの道何年のプロだろうが、仕事の量も内容も同じになる。

 まあ、新人の場合、しくじると見習いに逆戻りという有り難くないおまけ付きだが。


 後数時間もすれば、子供たちは寝静まりボクたちサンタの時間となる。

 そうしたら、ボクは人生初のサンタ業に身をやつすことになるのだ。



 さて、そろそろ「星空特急」に乗らなければならない時間だ。

 天候は依然として良好。特急が遅れる兆しはなさそうだ。

 この特急によって、ボクたちは自分の担当区域に運ばれるのだ。


 ボクは、姿見の前でくるりと一回転して自分の装いを確かめた。

 所謂サンタ、という真っ赤な服が目に痛い。

 去年目安箱にいれた意見は採用されなかったらしい。赤など無意味に目立つだけではないのか。

 ああ、もしかして、わざと子供に見つかるために……?


 微かな疑惑を抱きつつ、ボクは特急に向かうのだった。



 緩やかな停車音を響かせながら特急は停車した。

 何とはなしに時計を確認すると、定時通り。

 幸先が良い。


 ボクは少し気持ちが上向いて、鹿がいる宿舎まで歩いた。



 現在、ボクは風に吹かれながら遥か上空を疾走中である。

 鹿の機嫌も特に問題がないので、安心して渡すプレゼントの確認に時間を費やせた。


「……んん?」


 ボクは無駄に場所をとってでかでかと書かれた「さんたさんへ」の下へ続く文字を読んで首を傾げた。


「ええと、「おとうさんにあたらしいおしごと」……?」


 字が大きすぎて異常なほど改行が繰り返されているが、読み間違いということはないだろう。


「お父さん?! 何なの、リストラでもされたの?!」


 お子さま、サンタはハローワークではないのですよ?

 ……ううむ、取り敢えず求人雑誌でも置いておくか。


 異次元サンタ袋から取り出した求人雑誌を靴下にそっと捩じ込んだ。

 靴下に不釣り合いな雑誌は、妙に涙を誘った。



「気を取り直して次いこう、次」


 ボクは、再び上空で手紙の確認作業に戻った。


「次は……、と。「くらむぼん」? 保護者め、子供になんて面倒なものを読ませているんだ」


 クラムボン。あの、何かよく分からないものとして有名なあれじゃないか。

 子供も子供だ。そんな意味の分からないものを頼むな。

 欲しくない物である確率が限りなく高いのに、こんなところで無意味な運試しをするんじゃありません!


 しかし、何をあげるのが正解なんだ? 変なものをあげて、それがクラムボンだと思われても責任はとれないし……。


「……もう知らん。クラムボンが出てくる物語を適当に並べておこう」


 再び靴下に見合わない冊子類を無理やり捩じ込んでおいた。



「何なんだ、最近の子供は……!」


 ボクは苛立ち混じりに次の手紙を引っ張り出した。


「「さんたさんへ。さんたさんください」おいやめろ」


 まあ、子供なら誰しも思うことかもしれないが。

 欲しいものに、某次元ポケットやその持ち主を書いたり、「一つだけ願いを叶えてあげる」と言われたら「じゃあ、いつでも願いが叶うようにして」みたいな、あれ。

 ……確かに定番といえば定番だけど、ボクにはそんな能力も権限もないよ。

 というか、もしもだけど、サンタが本当に来たらどうするんだよ? 朝起きて枕元に知らない人が居るとか、恐怖でしかない。取り敢えず、ボクは嫌だ。

 しかもさ、養わないといけないんだよ? ……いや、ペットじゃないけど。お母さんに「元の場所に返してきなさい」なんて言われて……。


 いや、ボクは一体何の話をしているんだ……?

 何か、「返すって何処に?」とか「ごめんね、家にはおいてあげられないの」とか言って涙ぐんでいる子供が幻視出来てしまったんだけど。


「良し、サンタ型の玩具と「来年も来るから我慢してね」っていうサンタの手紙で済まそう、そうしよう」



 その後も意味の分からないリクエストばかりが続いた。

 示し合わせたかの様な突飛なプレゼントどもに、ボクの顔は苦虫を大量に噛み潰したみたいになっていることだろう。


 ボクの担当区域はこんなのばっかりか!


 サンタにあるまじき荒み方をし始めている気がしないこともないが、もう疲れたんだよ……。


 次はどんな爆弾が飛び出すのかと戦々恐々しながら開いた手紙には、某有名な玩具会社のミニカーの文字。不覚にも和んだ。


 そう、ボクが求めていたのはこういうやつだったんだよ!


 何だか救われた気持ちで空を見上げると、白いふわふわしたものが視界を過った。


「……」

「くしゅんっ」


 え。

 これは、もしや……?


 嫌な予感を抱きながら、相棒(不本意)の様子を伺うと、案の定というかなんというか寒そうにしていて、「あ、これ詰んだな」って思った。


「じゃ、古傷が痛むんで、お暇させていただく」


 鹿は片足を持ち上げながらそう言って、軽やかに去っていった。


 ……どう見ても、本日中で最も元気そうだったことなんて突っ込まないぞ。鼻唄が聞こえてきた気がするなんて……、ないない。ないに違いない。寧ろあったら困る。


 無意味な三段活用で気持ちを落ち着かせたのは良いが、さて、どうしよう?


 ボクの現在の持ち物は鹿が橇ごと消えたので、緊急用の上空スケートと、異次元サンタ袋、子供のお手紙(残りはあと少し)、あとは個人的な荷物を少々のみ。

 上空スケートは、もっと緊急時に使うアイテムなんだが。断じて、鹿のストライキ時用のグッズではない。

 まあ、普通は持ち歩かない物を先輩の薦めで持ってきていたわけで、すでにその時から正しい使い方は期待できなかったけど。


 仕方がないので、サンタパワー的な能力で中空に停滞しながら手早くスケート靴を装備した。

 先輩に靴を素早く履く方法を習っていてよかったよ……。


 取り敢えず、さっさとミニカーを届けてしまおう。



 ボクは空中を氷に見立てて滑り、目的の家まで向かった。


「あ、御札がない」


 ボクは家の中に入ろうとしたところで漸く気付いた。

 御札というのは、良い子が居る家に不法侵入するための、必要ではあるが倫理的には大変よろしくないアイテムだ。これも、例によって例の如く鹿が首につけたまま持ち帰ってしまった。

 こういう時こそサンタパワー(仮)の出番だと思うかもしれないが、これの制約がこれまた面倒なのだ。

 以前サンタパワー(笑)を使って盗みやら色々と問題をやらかした人物がいたらしい。そのせいで、二度と同じような問題が起こらないようにと、使うための条件は勿論のこと、使える力自体にもかなりの制限がかかってしまったのだ。

 因みに、その認められる条件というのは、自分がやらかしてしまったことの後始末に使う場合だ。

 先ほどの空中停滞は、鹿に逃げられたのは(大変不本意だが)自分が原因と思い込むことで発動させたにすぎない。

 ご想像の通りかもしれないが、この暗示も先輩に抜け道として教えてもらって練習したものだ。


「……背に腹はかえられないか。良し、三角割しよう」


 因みに、不本意ながら、ボクは思考がぶっ飛んでいるとたまに言われる。……まあ、今回は関係ないけど。


 ボクは、個人的な荷物として肩に掛けていたポシェットからダイヤモンドカッターを取り出した。


 え? 一般人は、ダイヤモンドカッターを買うのは大変だって?

 身分証明とか色々必要らしいが、サンタ業界に申請してみたら簡単に手に入った。

 こっちの方が盗み防止のためには規制するべきだと思うが、便利なので態々ボクから言うつもりはない。


 窓の鍵の近くに切れ込みを入れて、手早く窓を開けた。そこから体を滑り込ませて子供の枕元に行く。この間、約十秒。

 靴下にプレゼントを突っ込めばミッション達成である。


 また窓から出てサンタパワーで切った部分を修正しておいた。



「次は……、「スケート靴」ね」


 何だか嫌な予感がするのは、気のせいだろうか。



 次の家は、鍵がないタイプの窓だった。

 これでは入れないと思うかもしれないが、ご安心あれ。またもやダイヤモンドカッターの出番だ。こいつがあれば大抵のものは切れる。

 今度は人一人通れそうなサイズの穴を開けて家に侵入を果たした。


 寒い風が吹き込んでも目覚めない子供は大物だと思う。きっと将来出世することだろう。


 家の中を傷付けないように少し浮かんだ状態で子供の枕元に向かった。


「……むにゃ」


 枕元にたどり着いた時、子供が小さな声を上げた。一瞬起こしたかと思ったが、顔を見ると幸せそうな表情で口をもごもごと動かしているだけだった。……何か食べ物の夢でも見ているのだろうか?


 安心して靴下にむかって一歩踏み出そうとしたところで、違和感を覚えた。

 ひどく抵抗があり、その一歩を踏み出せなかったのだ。

 嫌な予感を抱きつつ子供の方へ視線を向けると、案の定ボクの靴をつかんでいる姿があった。

 引っ張ったり逆に押したりと動かしてみたが、どうやっても子供の手は離れそうにない。


 まあ、下手に動かして手を怪我させても困るから、全力で出来ていないことが原因だろうけど。


「諦めてこれを置いていこうか……」


 仕方がないので、スケートの刃の部分にサンタパワーで覆いをつけておきボクはそっと靴を脱いだ。

 ついでに再びサンタパワーで靴の時間を戻しておけば完璧だ。

 他人が履いたものというのはあまり気持ちの良いものではないだろうし。何より、サンタの力で普通のスケート靴を変化させたものらしいので(ボクは物に対する能力付与はまだ出来ない)このままではあげられなかったというのが一番の理由だけど。



 さて、移動手段がなくなってしまったわけだが、どうしようか。


 ボクは直したばかりの窓の、枠に掴まりながら心の中で呟いた。

 後編は、明日投稿します。

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