12.視察
2015/11/09 主人公の性格を変更、それに伴っていろいろ修正
砦にもう少しで到着するときに護衛のひとりが隊列を止めました。
「姫さん、悪いことは言わねえ、引き返しましょう」
そして続けてこう言ってきました。
「この砦もうだめかもしれんぜ」
彼は獣人ですが私が信頼できる数少ない人のひとりナラシンハ。かなり腕が立ち信頼して護衛を頼める冒険者です。城郭から外へできるときは必ず付いてきてもらっています。
「ここまで血の匂いがプンプンしやがるぜ」
彼が言うならそうなんでしょうが、私はくんくんくんと匂いを嗅いでみせる。
「私は感じませんが」
「人間と獣人じゃ嗅覚が違いますぜ」
周りに笑いが起こる。そんなつもりはなかったのですが、少しは場が和んだようです。
「でも」
今回の視察は砦の責任者から私に巨乳神秘教について内密に御覧頂きたいモノがある。そしてそれについて至急御相談したいと連絡があり。侍女が段取りしたものである。できれば疑いたくない人たち、だから無事に視察を終了させたい。
「でもじゃねぇです。姫さんの安全が第一ですぜ。今回はお忍びとはいえ城からの護衛がひとりもいねぇってのがあやしすぎるぜ」
侍女はお忍びですから信頼できる人しか視察の件は知らないと言っていました。私付きの騎士ヴァラーハは後からすぐに合流するとも侍女は言ってはいましたが、砦を目の前にしてもヴァラーハはまだ来ていません。城からの護衛がこんなに長い時間ひとりもいないのはおかしいのです。
「姫さんもなんですか? お忍びとは思えねぇその格好は! 目立って仕方ねぇ」
プライベートなパーティーならギリギリ参加できそうな真っ赤なドレスを来た私に向かって言いました。
「侍女がシーターさまには、そんなみすぼらしい格好はさせられませんっと...」
私は小さくなりながら答える。庶民の服には少し抵抗があったし、あそこまで強く言われたら跳ね除けられませんもの。
「姫さん、どうします?」
目を閉じて考える。彼ら冒険者は護衛である。もし砦で何かあった場合、最悪の場合でもナラシンハなら動いてくれるでしょう。そんな義理はないにも関わらず…。
斥候の冒険者の報告がありました。砦は既に陥落していたと…。
「わかりました。引き返しましょう」
私は決断しました。
そして帰路は途中まで順調でした。
斥候をしていた冒険者が戻ってきました。
「巨乳神秘教徒がうろちょろしてやす」
「シンどうする?」
ナラシンハと親しい人は彼のことをシンと呼びます。
「おめぇら、すまねぇ、少しでいい、あいつらの足止めを頼めるか?」
「よろしくお願いいたします」
私も頭を下げてお願いをする。
「姫様とシンの頼みじゃ断れねーな」
本当に冒険者さんたちは親切です。
冒険者さんたちが巨乳神秘教徒を惹きつけてくれている間にナラシンハと私は先を急ぎました。
この服が目立ったのかも知れません。すぐに見つかってしました。
「ちっ、見つかったか、姫さんすまねぇ」
ナラシンハは私を脇に抱えて走り出しました。
私には長い時間と感じられましたが、短い時間だったかもしれません。
空から何かが飛んできました。
「赤い翼、ガルーダ?」
巨乳神秘教徒の進路を邪魔するように飛んでくれています。私たちを助けてくれてるの?
「ガルーダが追っ手を妨害してくれているみたいですぜ」
でも、胴が赤いどうして? ガルーダなら胴は金色のはず...。
ガルーダが私たちの進行方向に降りてきた。そしてまたすぐに飛び立った。
ガルーダが降りた場所に人がいる。ナラシンハが警戒してスピードを落とす。
「止まるな! ボクの横を抜けてください」
ガルーダはあの人を抱えて飛んでいたんだ。
赤い服を着た銀髪のポニーテールの...。うわぁ、ものすごく綺麗な人。
それが初めてあの人に対して感じた私の印象でした。




