最強の終わり。
『あァ、わーったよォ。明日の武闘演戯で第1位を全員殺せば俺の任務は終わりなんだろ?あァ、じゃあな』
部屋へ入ろうとドアノブに手をかけた瞬間、中から終の声が聞こえる。
とんでもないことを聞いてしまった気がして、ロビーへと向かった。
第1位を全員殺す?何のために?
そんなことを考え、先程買った空き缶のジュースを飲み干す。
暫くして部屋に戻ると、終がベッドに座り込んでいた。
『凌駕ァ、お前…』
まさか…感づかれたか!?そんなことを頭に浮かべていると冷や汗が出てくる。
『凌駕ァ、お前。遅かったなァ?歩美は泣き止んだかァ?どうも、昔っから女の泣いてる姿は苦手でよォ、押し付けちまったみたいで悪ィなァ』
『あー、大丈夫大丈夫。』
内心本気でホッとしてしまった。
『ところでお前は、何の武術使いなんだ?ナイフなんか使ってたからなんだろうと思ってな』
『あァ、俺は特に"何"とかねェなァ』
『どういう意…』
『今日は疲れたしもう寝るわァ、おやすみィ』
凌駕の言葉を遮るようにそう告げると終は眠りの世界へと落ちていった。
凌駕は、ベッドの上で必死に考えていた。
武闘演戯が終われば帰ってしまう、第1位を全員殺す。つまり、殺すために武闘演戯に出場した。
何のために?武術都市の第1位はほぼ全員SSSランカー。
SSSランカーを殺すことで喜ぶのは…。
成る程。そういうことか。
凌駕の思考は、この件についての全てを把握したとそう誰かに告げた。
翌日…。
『ふぅ…眠れねーもんだな…』
朝目覚めると終の姿は部屋になかった。朝食でも行ったのかと食堂に足を運んでみるが、その姿はなかった。
気がつくと身体が勝手に動いているという気持ちになり見上げると学園に俺は居た。
『茜……慈水…何故、皆…』
自分の眼に映ったのは9人の第1位メンバー。
その中でまだ生き残り、全身血まみれで地面を這って誰かから逃げている人物がいた。
『逃げんなよォ、てめェ如きが俺から逃げ切れるなんて思ってねェよなァ?』
終からそう声をかけられているのは間違いなく瑞貴だった。
地面を這う瑞貴よりも速い歩きのスピードで追い詰めていく終。
突然、彼は立ち止まると。
終は辺りの風を圧縮し金色のプラズマを自分の掌の上に作り出す。
そして、それを茜めがけて投げつけようとした瞬間だろう。
『やめろ!何してやがる!』
金色のプラズマは茜にあたる寸前、綺麗に消滅した。
『あァ?凌駕君じゃねェかァ?どうしたァ?顔が怖いぜェ?』
『どうしたじゃねぇよ!』
凌駕は剣を手に取ると矛先を終へと向ける。その眼差しはまさに本気といったほどのもので。
『やる気かァ?俺から殺りに行く手間が省けたぜェ』
『凌…駕…逃げ…ろ…』
瑞貴が俺を見つめながらそう呟いた。声は俺には届かず、届いても吸収されずに空中へと消えていった。
『さて、剣術の第1位、SSSランカーの雷光ノ剣、柳瀬凌駕君は俺をどれだけ楽しませてくれんだァ?』
終はそう告げた瞬間、一瞬雷に変化し凌駕へと襲いかかる。接触する寸前で元の姿へと変わると腹部に蹴りを入れる。
口から透明な液体を吹き出すと地面に剣を落とし腹部を抱えてその場に蹲る。
『おィおィ、そんなもんかァ?』
蹲っている凌駕を雷を纏わせた足で蹴り飛ばす。
激痛と共に風を感じる。
上を見上げると、金色のプラズマを掌に乗せて自分を見つめる終の姿が見えた。
『格が違い…過ぎる…』
『当たり前だろォ?お前は、俺の能力から複製したスキルを使っている剣士なんだからよォ』
『まさか…』
『俺は人体実験の成功者にして武術都市の武器に使用されている全ての雷スキルの原点だぜェ?』
『嘘…だろ…』
地面に這い蹲り上を見上げながら話を聞いていると、終は凌駕の顔を踏みにじる。
『いいかァ?弱者は強者に淘汰されちまうもんなんだぜェ?』
終の掌のプラズマが凌駕へと放たれた瞬間だった。
無音で、プラズマが拡散し空中に消える。
『あァ?なんだよォ…って、てめェかァ…』
『雷ヶ峰 終。戦闘を中止しただちにこの場から消えてください。』
女の子の声が聞こえた、幻覚だと思ったが事実で。
何が起こったのかわからず、目を閉じた。