それぞれの夢
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「まさかこんなに簡単に異論なく話が進むとはね。柳瀬凌駕、やはり大切な仲間を殺した能力者が憎いのだな。今回の戦争でうっかり消さないといいが……」
実験室の戸締りを終えた神田は、独りに嗤う。凌駕の能力の圧倒的さと、自分の計画が順調であることに歓喜を覚えながら。
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「凌駕、これからどうするの?私達は死んだ身よ?顔を隠さないといけないし、外に居ては絶対目立つし」
「それなんだけどよ。一回、二手に分かれて情報収集をしよう。駿に気づかれないように歩美はattribute周辺を当たって欲しい。俺らはTBVを当たるから…!!」
凌駕の提案に快く二つ返事で彼女は答えた。その反応に驚いている彼を無視して、彼女は直ぐに行動に移そうと背を向けた。
死んだはずの凌駕が生きているというだけで、彼女には十分過ぎる動力になったようだ。
「歩美、死ぬなよ?」
「凌駕もね!!!」
彼らはお互い背を向けて、別々の方向へ歩む。お互いが生還して、また同じ場所に帰れることを予想ながらに確信して。
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剣城学園内部の装飾された木の茂みに隠れている歩美。体勢的には下の方の茂みに四つん這いになっているので、周りから見えることは極めてあり得ないが彼女にとっても足元しか見えないような意味のない状態になっている。
稀に弓道術を学んでいる授業で、矢がとんでくるのがかなり気になるが、彼女は自分自身の視力の良さを考慮して絶妙に避けている。
流石に休み時間のサッカーボールが目の前に来た時には緊迫したが、サッカーで遊んでいる彼らには手で取るという行為は頭に浮かばなかったようで茂みに足を突っ込んでボールを自分らの方へ寄せていくという取り方の為に彼女がバレることはなかった。
その後も何回かバレそうになった嫌な出来事と続いたが、持ち前の運動神経と運の良さで何とかバレずに済んだ。
「……歩美も凌駕も馬鹿だね〜。この都市の闇に触れちゃったら死んじゃうさ。まあ、死人に興味はないけどさ……。んで、終。今日は集会の日だよね?いつもの場所に集合だよ、俺はそのまま向かうから」
「やっぱり、繋がってたのね…」
この時、彼の電話の相手は絶対に雷ヶ峰終。きっと、この後坂上駿の跡をつければ彼らのアジトを見つけることができるかもしれない。
だが、彼女はその行動には移せない。
もし、駿に自分が生きていることがバレれば神田の考案した計画は間違いなく失敗に終わるだろう。
坂上駿が今回の敵であることを確認出来ただけでも良しとして、彼女は速やかにその場から離れた。
彼に勘づかれる前に。
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その後、MAC総本部の地下一階。
歩美と凌駕の部屋にて。
昔は倉庫になっていたこの場所はMAC総本部の大きさを物語るほどに広い部屋だった。
彼らはそこにベッドやソファなどの必要なものだけを置いて生活している。
今は凌駕はベッドに、歩美はソファに腰を掛けて話をしているようだ。
「神田さんは俺らにもう一度生きるチャンスをくれた…。その恩に誓って全てを終わらせるんだ!この都市を……能力者の居ない素晴らしい世界にするために…!」
「うん。それとね、駿のことだけど…」
「なんか分かったのか?」
「やっぱり、神田さんの言ってた通りよ。駿は……attributeの最高位能力者。私達が学校に通ってた時、凌駕、駿と勝負したことあるよね?」
「嗚呼、あるぞ。あいつの性格に合った剣筋に、咄嗟の状況判断ができる洞察力と反射神経に恵まれたやつだったかな。あの一振りでそこまで感じさせて来るやつなんて凄い奴だとは思ってたけどなー」
一年の時、学年一位に輝いた凌駕に勝負を挑む輩は恐らく剣術クラスの中でほぼほぼが挑んだであろう。
だが、彼との一戦は何かを感じさせるような特殊な違和感があったことを凌駕は覚えていた。
「……違和感?」
「嗚呼。何というか……殺気というよりも狂気というか。目の前の敵を全力で捻り潰そうとする意志が彼奴からは感じられた気がするんだよ。昔のことだから気のせいかもしれないと思ってたけど、attributeのボスさんなら当然といえば当然だろ!」
「まあね……。凌駕はこれから戦うんだよ?仲間だった駿と」
「覚悟は出来てるさ。さあ、寝よう。明日も早いんだ。そろそろ戦争も始まるみたいだしな!睡眠をとらないと!」
元気よく振舞っている彼が一番辛いことを歩美は知っている。
この後、悔しさに涙を流すことも。
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「そろそろ、俺らattributeが世界に轟く瞬間が待ってるんだよ。狂。」
「……だな。俺らの夢、果たそうぜ」
彼らもまた思念を持。
天国か地獄か。
彼らを含め、それを知るのはまだ一人もいない。
朝晩なのに夜更かし!ヤバいですね、書きたくてたまらない!




