能力品とは
「私達は死んだはずよ?何故、生き返っているの?」
凌駕は狂に心臓を抜き取られて簡単に死んだ。歩美はTBVに果てしない暴力で二度と目を覚ますことはないーーはずだった。
彼らは現実世界ではもう生きている人間ではない。まずはそこから。
「……それは、君達の遺体は我々MACが保護し、人間から能力者に変えるための特殊な実験を行い、成功した為だ。能力者についても話しておこう。能力者は、TBVが独自に開発した能力具という、特殊な力を封じ込めてある液体のようなモノを生身の人間に注入し、体内の細胞と適合した場合に成り得る事の出来る。言わば、能力適合者だよ」
俺は能力者がどういうモノなのかを初めて知った。
当然、剣術スキル等に使用されている、この特殊な力はどういう経緯で発現してるのか。昔から、それに対しての疑問はあったが、学生時代は剣術を極めていたので他のことは二の次になっていたから、詳しいことは知ろうともしなかった。
しかし、まさかTBVが能力者を独自に開発しているとは予想もつかない。
TBVと言えば、特殊武術部隊。
剣城学園の優秀な卒業生、または教員を中心に集めた世界の治安を良くするための武術を極めた者だけが入隊を許可されるという誰もが憧れる部隊だ。
恐らく、その実態は世界に貢献しようとするよりも都市の中での金儲けや陰謀に大きく貢献しているだけなのだろう。
もしかしたら、この都市の外はもう更地になっているかもしれない。
剣城学園のモットーは、優れた武術を極める者を多く輩出し、世界の為に大きな貢献を目指す。と言うものだが、それさえも今となっては分からない。
「……凌駕…?大丈夫?」
考え込んでいるうちに自分の世界に入ってしまっていたらしい。
俺は歩美に「大丈夫だよ」とだけ伝えて、神田に次の質問を言った。
「能力者になると、身体に何か異変は?オレ達の能力って何なんだよ」
待ってました!と言わんばかりの神田の笑顔は何故か凌駕にとってイラっとくるものではあったが、彼が話し始めたので集中だけして耳で聞こえる全ての情報に体を傾けた。
「そもそも、能力者ってのは死なないんだよ。不老不死。老いる事もなければ、死ぬこともありえない。でも、不老不死だからって痛みを受けないとかではないよ。しっかり痛覚はあるし。ただ、再生能力が異常なんだ。能力のタイプによって変わってくることもあるんだけどね」
「タイプ?」
「うん。大きく分けて三種類。属性と特質、強化だね。君らが戦ったことのある能力者は、雷ヶ峰終君だと思うんだけど、彼は属性の能力者。世に言う、電撃使い。彼の所属している組織では、属性系の能力者が大半を占めているけど、磨崖狂と組織のトップの人物の能力は特質系かな。強化の能力者は生き残っている能力者の人数で言えば二人。一人は君だよ、黒神歩美さん」
「ん、待って。話しても良いけどまだ状況が飲み込めない……」
自分の名前が出ると驚いた表情を見せる彼女。当然だ。
そもそも、数日前まで普通の人間だった彼女にいきなり能力品という未知の領域の説明をされても思考が追いつくことはありえないだろう。
神田は続ける。
「歩美さんの能力は、武器の斬れ味を最高位に上げるっていう能力だね。強化系の能力はどうしても特質の能力に劣ってしまうことはあるんだけど、そこは歩美さんの身体能力ならいけるかなと思ってさ。何事も慣れていけば大丈夫だよ」
「……はい」
それとない返事を軽く承諾した神田は凌駕の方へ神妙な面持ちで視線を向けた。
「凌駕君は特質の能力。TBVの神守蒼梧という人物の能力の一段階上の能力だね。これはあまりにも危険な能力で歩美さんを殺し兼ねないから、最初は制限をつけさせてもらうよ。能力名は、能力者消し。触れた能力者を任意で消滅させる能力!また、自分自身には能力は効かず、能力で創り出されたものも消せる。」
「!?ちょ、ちょっと待ってください!!」
凌駕は、疑問げに首を傾けた神田に掴みかかって、黒い表情で囁いた。
「俺の任意で神田さんも消せるんですよね…?何が目的ですか?俺にこんな能力を身につけさせて、何がしたいんですか?」
神田は神妙な顔つきでこう返した。
「この都市でもう直ぐ戦争が始まろうとしている。能力者の成功体組織attributeと都市最強の軍事組織TBVの抗争だ。attributeの頂点に君臨する無敵の能力を持つ坂上駿は、全ての能力者の最強とも呼べる力を持っている。彼に勝つにはーー」
「!?駿……?」
凌駕も歩美も見知った友人の顔が頭に浮かぶ、坂上駿と言ったら剣城学園剣術五位の坂上駿以外に考えられないからだ。
「嗚呼、二人とも友人の関係だったね。彼の本質は昔の戦争の人間兵器。君らと同じ歳の時、能力者実験を行ってから彼の身体の刻は止まっている」
「駿…!?って、神田さん。嘘はいけませんよ……俺にはこのまま貴方を消すことだって出来る!!」
「消しても構わないよ。私は君を信用しているが、君は私を信用するとは限らない。私は君に信用されると信じている。このまま消してしまっても構わないがね」
脅しに屈しない神田を見て、凌駕の良心傷んだようだ。
彼は神田から手を離して、駿が能力者であることを詳しく知るために耳を傾けた。
「坂上駿の能力は世界の理を操る能力。文字通り、彼には何も効かない。無敵だ。ただ、君の能力ならそれを無効に出来る。ここまで説明すれば、君にやってもらいたいこと分かるよね?」
「戦争を……止めることですか…?」
「そうだ。私が目指す世界は、TBVの創り出した悪の象徴である能力者を消滅させて、武の骨頂を極め続ける青年達が都市を守り抜く世界だ。」
「つまり……私達は用済みになれば消えてもらってことね?」
「当たり前だよ。だって、君らはもう死んでいるんだから生きていてはいけない存在だよ?」
彼の凄みが出た一言。
歩美と凌駕は心の中で少し震えた。
「……俺の能力の説明、まだ終わってないですよね?最後まで説明してください」
「流石、よく分かってるね。君の能力は一段階上があって、能力が効かない体になっているのはもう前提なんだけど、触れた能力者ではなく、視界に捉えた能力者を消すっていう能力が君本来の力だよ。もし、この力が必要になった時、君はここに帰ってくればいい。リミッターの装置は分かりやすく置いておくし、ここに入れるのは君の掌の細胞認識が必要になってくるよう設定しておくから大丈夫!またそこら辺の細かい説明はさせてもらうよ。」
神田の説明に歩美はゾッとした。
触れなければいけないというのは、かなりペナルティとして高いものだが、視界に捉えるというだけでは当たり前に出来ることだ。
それだけで存在ごと、痛みもなく消してしまうのは正直、自分が能力者になった現在では怖すぎる代物だった。
「つまり、俺は俺を殺した能力者どもをぶっ潰せる力を手にしたってわけか。話がぶっ飛びすぎててマジで頭に入れるのが大変だけど、しゃーない!!分かったよ。神田さん。それで、俺らは戦争を止めるのに駿達をどうすればいいんだよ。消すのか?」
「彼らは消さないで欲しい。生け捕りの状態で頼みたいんだ。数少ない能力者の成功体は、重要な研究サンプルになるからね」
「分かった!んじゃ、俺はもう行くよ。歩美、お前はどうする?来るか?」
「凌駕は私がいないと何も出来ないんだから!行くに決まってるじゃん!
もう、凌駕を失うのは勘弁なんだからね…」
「ん?なんか言ったか?」
「いやいや、何でもないよ。ほら、行こっ!頭が追いつかないけど、私達にはそれしか道が残されてないんだから…」
歩美の最後の言葉。
凌駕は聞こえなかったフリをした。
自分ではその言葉に答えられる言葉を見つけられなかったからだ。
全ての想いは全てが終わってから告げよう。
彼は歩み始める。
残酷に尖った世界に終わりを告げるために。
お楽しみいただけたら幸いです!




