彼らの目覚め
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あれから2年後。
剣城学園の学園長室にて。
「柳瀬凌駕、彼を殺さねばならないですね。これからの計画のために…。そこための、明日の計画でしたね。既に終は潜入させています。終ならば、柳瀬凌駕をショックで気絶させて持ってくることが可能でしょう?ハイ、分かっています。全ては……この世界のために!!」
そこで電話は終わった。
MACの全責務を任されている、創設者の神田宗一郎と電話をしていたのは、当時の剣城学園、学園長の榊海道だった。
新たな闇が凌駕を襲い、蝕む。
この世界に天国がないのだと、純粋に、素直に告げようと。
ーー柳瀬凌駕と黒神歩美の死後。
「これでやっと…世界を変えられる!!あの、憎き能力者共を一掃出来る力を手に入れたのだ!」
神田宗一郎。
MACの最高権力者にして、創設者だ。
彼は黒神歩美と柳瀬凌駕の遺体がベッドに並べられている特殊遺体安置室に居た。
柳瀬凌駕は磨崖狂に心臓を貫かれ、潰されて死に陥り。
黒神歩美は、TBVに誘拐され、嬲り殺されてしまった。
「この二人の能力者適合の素質は前々から調べがついている。何せ、柳瀬凌駕は実質、剣術だけならこの都市で右に出るものは居ない剣豪。黒神歩美は、女性剣士で右に出るものは居ない。二人は武術を極めた者、我々MACがTBVの生み出した能力者を駆逐する方法は、この二つの極秘サンプルを使うことだ。ふむ、では。始めようか」
様々な機械が並ぶ中、凌駕と歩美の遺体はそれぞれ巨大なショーケースの中へ入れられ、ホルマリン漬けのように特殊な液体を流し込まれた。酸素を運ぶための酸素マスクを丁重に装着し、準備は万端。
神田宗一郎は装置の中央にある大きめの赤いボタンを強く押した。
プシューッ。と空気が噴出する音と機械の動く音が室内には響き渡っている。
死体が安置されて居た場所。此処、MAC東支部は武術都市の郊外寄りにある小さな支部だ。
そのため、TBVやattributeの連中も気づくことは絶対にあり得ない。
神田宗一郎は、今日の計画成功のために鬼の道を遂行したのである。
何をも拒む最強の防壁を我が手で作り上げ、自分と彼ら以外の一切の感情を許さなかった。きっと、その防壁はattribute最強の無敵でも本気を出さないと破ることはできないほど、強力なものだ。
「私の能力は……防壁を作り出すこと。TBVが能力者開発実験を行った時に、失敗作の能力を全てアンプルに抜き取って、保管をしていた。それを私が全て自分の研究室に持ち帰った結果、素晴らしい能力がいくつか見つかったのでな。そのうちの一つを私が貰ったというわけだ…。さて、そろそろ…かな?」
宗一郎の言葉に合わせるかのように、彼らの意識は再度、この世界に繋がった。
ドクンッ、ドクンッ。とショーケース越しにも聞こえるほどの大きな心臓の音は中の液体を揺らしている。
「まだ意識は戻らないか?」
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なんだ。ここ?
何で俺は水の中にいるんだ?これはなんだ…?何をしているんだ?
確か俺は睡眠途中で瞬間的な激痛の後、走馬灯を見て、即死したはず。
これは夢の続きなのか…?
クソ、体が動かない。
腕も、足も、首も。
「さあ、出てくるがいい!この都市の闇に消された哀れな鬼の子よ!」
その瞬間、ショーケース内の液体は全て外へ流れていった。先程まで全然動くことがなかった身体も前のように動かすことが出来るようだ。
「ほう。やはり、性別で目覚めの速度が変わってくるのか…?ふむ?」
「………ま……え………な……こ……し……」
ショーケースから声を出しながら出たはずの俺。しかし、声は声になっていなかった。
「ハハハ、まだ声までは出ないだろう。何せ、君は今、生存していた時の記憶を持った赤子のようなものなのだからね」
生存していた時の記憶を持った赤子…?
なんだよそれ…。声を出そうにも声は出なかった。
「おお、歩美ちゃんもお目覚めかい?」
え…!?
恐る恐る後ろを振り向くと、見馴れた姿の歩美が目に映った。
彼女は裸体のまま、地面を歩き、俺の方を向くと驚愕の表情で目に涙を溜め、床に腰を下ろした。
「ここは…夢?りょ、凌駕どうして…!私も死んだはずじゃ……」
「そ………は……お…にも……さっぱ………り……って…お……え…死ん……!?」
神田宗一郎は歩みながら盛大な拍手を彼らに向けて行った。
それに伴った歓喜の声も伺える。
「ほう…!これは素晴らしい!黒神歩美の方は声も脳も正常と!柳瀬凌駕は時間が経てば声も元に戻るだろう!」
「ええっと…貴方は?」
疑問げに歩美が聞く。
「私はMACの総本部長、神田宗一郎だ。君らが使用していた武器を作っていた場所、というのが分かりやすい答えかな」
「……それで、その神田さん?は私達に何の用ですか?それと幾つか質問したいことがあるんですけど…」
「全部答えよう。君達の気が済むまでね。それよりも黒神歩美さん。服を手配してあるからそこの更衣室で着替えて来なさい。それとも、裸はお好き?」
神田に言われるまで気がつかなかったというような表情とリアクションで顔を真っ赤にした彼女は用意された服を手に更衣室へと大急ぎで走って行った。
「時に凌駕君。声は出るようになったかな?」
「あー、あーー!大丈夫ですね。ところで俺の服は?」
「勿論、あるよー!はい。男の子だしここで着替えてもいいよ」
「分かりました。そうさせていただきますね」
その場で着替えを済ました凌駕と神田が歩美を待っていると、手配された服を身につけた歩美が更衣室から出てきた。
出てきて早々のこと、彼女は神田を睨みつける。何か胡散臭いような気がしたからだ。
「何でも答えよう」
「じゃあ・・・」
彼らは知る。
自分達の置かれている状況を。
涅槃の方に力を入れすぎて武術都市の方早く投稿しろ!って身内に怒られました…。ちゃんと、平等に頑張ります!気長に待っていただけると幸いです!