瑞貴との出会い
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「君が剣術トップの柳瀬凌駕君?」
突然、背後から声をかけられ声のした方へ振り向く。そこには短髪で身長も低めな青年が立っていた。
その顔には見覚えがあり、凌駕が最も重視していた人物の一人でもあった。
「そうだよ。てか、前に俺の横に並んでた奴だよな?名前は確か、水泡・・・」
そっから名前が出てこなかった。
相手は苦笑いして、こう言った。
「俺は水泡瑞貴。この学年の銃術トップをしてる者さ」
「だよな・・・んで、何の用だ?」
すると、少しだけ顔を赤らめて恥ずかしそうに彼は言った。自己紹介をした時のようなハキハキとした声ではなく、耳元でやっと聞き取れるレベルの声を。
「・・・俺と友達になってくれない?」
少しだけ目が点となったが、彼の不安そうな表情と真っ直ぐな眼を見て、凌駕はニッコリ笑って、言った。
「良いぜ!俺でよければ!」
「ホントに!?ありがとう!」
瑞貴は嬉しそうに笑って、思わずガッツポーズをした。その無邪気さが凌駕の中での瑞貴の第一印象になった。
「強くならねーとな。今度の武闘演戯で優勝すんだからよ!」
「え?凌駕君、優勝狙ってるの?」
「当たり前だろ!瑞貴も優勝じゃねーのか?」
「いや、俺は無理だよ。勝てっこないって・・・」
いきなり、弱々しい雰囲気に変わった瑞貴を見て凌駕は不思議に思った。
何故、あそこまでの力を持っていながら此処まで自信が無いのか。
その真相は、その日の夜の歩美との稽古で分かった。
「あー、水泡君ね。その理由は、お兄さんじゃないかな?」
「あいつ、兄貴いんのか?」
「居るよー、確か。水泡魁斗さんって言って、二年連続で武闘演戯、銃部門制覇だったかな。とにかく、凄い人よ。」
「へー、そいつが居るから瑞貴は自信が持てねーのか。取り敢えず、明日、歩美を紹介するぜ」
ーー次の日。
「あー、瑞貴。今日は紹介したい人が居るんだよ。俺の幼馴染で、腐れ縁の黒神歩美だ。よろしくしてやってくれ!」
凌駕の紹介と共に現れたのは、黒い長髪の少女。少女は、瑞貴に優しく手を差し伸べるとこう言った。
「よろしく!凌駕と同じ剣術クラスよ。この馬鹿、平気で臭いこと言っちゃう人だから、瑞貴君も気をつけてね!」
右手を縦にして、"ごめんなさい"の合図を可愛い笑顔付きで瑞貴に謝る歩美を見て、思わず突っ込みをした。
「おい!おかしいだろ!臭いことなんか言ったことねーよ!バーカ!」
「はっ!?あんたより、成績良いっての!」
「そういう意味の馬鹿じゃねーよ!バーカ!」
「馬鹿馬鹿言うなっ!それ以上言うなら、その口ぶった斬るわよ!」
これ以上は言ってはいけないと感じたので、瑞貴の方へ視線を向けてにこやかに笑った。
「凌駕君と歩美ちゃんは仲良いんだね」
「どこがよ(だ)!」
このやり取りを続けていたら、昨日の暗い瑞貴は何処かへ行ってしまった。
俺の眼の前に見えるのは、明るい表情で元気に笑う一人の青年。
これが続けば、きっと幸せなんだろう。俺は何故かそんなことを考えた。
「歩美、帰るぞ。」
「うん。今日の夜も稽古だよ!」
いつにも増して、やる気満々な歩美。
恐らく、先程の馬鹿連呼が効いてイラ度を上げてしまったのだろう。そんな時にふと、図書館に行って返さなくてはならない本の存在に気付き、本を懐に入れると、俺は肩を落として、この先のことを考えないように教室を出た。
「ねえ、凌駕!なんか乱闘してるみたい!アレは多分、銃のクラスの人達ね」
下駄箱へと向かう、廊下の窓からは集団が銃を持ち、一人の青年に銃口を向けている姿が見えた。
「待て、アレ瑞貴だろ!」
「え?本当に!?」
歩美と俺は走り出した。
廊下を走るな!という教員の声も無視して、ガムシャラに集団が喧嘩をしている場所へ走った。
「なんでお前が、銃の一位なんだよ!兄貴のツテとかなんだろ!どうせ!」
瑞貴への暴言を吐きながら、持っている銃の引き金を引く男が見えた。
"このままじゃ間に合わない"
そう考えたのか、剣を取り出して速さを極め、瑞貴の代わりに銃弾を受けた。
身代わりになった時、恐怖で目を瞑り切った瑞貴の姿が遅い視点で見えた。
「え?凌駕君、どうして!?」
後ろからは、目を開けて状況が理解できない瑞貴の声が聞こえる。歩美は、俺の様子を見て"先生呼んでくる"と口パクに言って走り去っていった。
「・・・どうしてって、仲間だからよ」
そんな臭いセリフが、気がついた時には友人を救っていた。無意識に放った言葉、少しだけ気持ちが楽になっただろうか。瑞貴の表情を見る限り、それは確実だろう。俺は立ち上がって、周りの奴らを睨みつけた。
「なんでどこのクラスの奴らも妬み嫉みしかしねーんだよ。自分達で努力しろっての・・・!」
「なんだテメェ!俺のインパクトガンを受けて無傷だと!?」
銃弾を放った青年が言った。確かにそうだ、銃撃を受けてマトモに動ける奴がいるだろうか。それは否だろう。
だが、俺には何の痛みもない。
「・・・ん?」
銃弾を受けた部分をさすってみると、本が入っていた。図書室に行って返さなければならない本に銃弾が突き刺さっていた。漫画やドラマでよくある展開に少しだけ、不満を感じながら複数の生徒を再度睨みつける。
「本かよ、だがな!そう何度も止められるほど、俺の銃は安くねえんだよ!」
青年は銃口を俺に向けて、銃弾を放った。馬鹿で単細胞には避けるという行動が起こせないのだろうか。
俺は、剣を取り出して、その銃弾の発射速度、弾道、回転速度を瞬時に見極めて銃弾を真っ二つにぶった斬った。
「嘘だろ・・・なんなんだよ!こいつ!」
「雷より遅いんじゃ、俺に斬れないわけがないぜ!」
凌駕の言葉に震え上がった青年達は恐れをなしてその場を逃げ出さんと走り出した。
「ピピーッ!止まれー!お前ら、集団で一人を虐めるなんざ、していいことと悪いことがあるよなあ?」
歩美が呼んできた、生徒指導担当の赤城脅威先生は、自身の武器である木刀を彼らに向け、狂気の笑みと共に殺意を振るった。
「・・・くっそおおおおおお!!」
青年らはそのまま地面に腰を下ろし、学園からも降りることとなった。
「凌駕君、ありがとう・・・」
「何言ってんだ、礼なんかいらねーよ。俺ら、仲間だろ?」
と、凌駕が言った直後。
彼の身に壁にめり込む勢いで激しいぐーパンが飛んできた。
「いってえ・・・何すんだよ歩美!」
「まーた、臭いセリフばっか言って、恥ずかしくないの!?聞いてるこっちが恥ずかしくなるっての!」
そのやり取りが面白かったのか、何なのかは分からない。でも、その時俺達は元気に笑っていた。これからも、こうして笑っていられるだろうか……。
それは、まだ分からない。




