解除者(キャンセラー)
『撃滅学院の最終ボスって感じだね…学院長なのかな?』
『学院長?それなら、俺の足元で横になってるジジィが学院長だぜ?』
見ると、男の足元に首の斬られた男性が横たわっている。真っ白な床を容赦なく真っ赤な液体は侵食していくのだ。
『へぇ…なら、貴方は?』
『俺か?名前は…まぁ、柳瀬凌駕だ!よろしく!』
『柳瀬凌駕?どっかで聞いた名前…って…気の所為か』
『気の所為だな、嗚呼。』
凌駕は冷や汗をかいていた。撃滅学院の学院長は最後の力を振り絞り首を斬り落とされる前にポケットの赤いボタンを押していた。
『ん?なんか聞こえるような…』
サイレンを鳴らし、撃滅学院の校庭や正門前にはMACの車が多数止まっていた。
『通報されたパターンか…めんどくせぇ…』
『それなら、安心しなよ。こうすれば良い話だから…』
刹覇の言葉と共に、車の爆発音が聞こえる。その場にいたMACの連中は全身血まみれの状態で永眠することとなったのだろう。
『お前…能力者か?』
『そうだけど?』
『マジかよ…やっと仲間がぁぁ!』
『えぇ…なんで泣いてんだこいつ…』
凌駕は立ち膝で刹覇の手を掴むと上下に揺らしながら感動している。「良かった良かった」と言いながら。
『動くな!』
『さて、敵だよ?凌駕さん』
『凌駕でいいぜ!行くぞ!』
『お前ら言葉が聞こえないのかっ!』
不思議な音を立てて武装した男の掴んでいる黒い銃から紫色の光が見え始める。と、次の瞬間には紫色のビームが放たれる。
『……』
何も言わず無言でその場を通り過ぎようとすれば紫のビームは刹覇を貫こうと襲いかかった。通常なら見えない速さで放たれたビームは速攻で相手を貫くのだが。
そんなことは起きなかった。
寧ろ、もっとおかしなことが起きたのだ。
『へぇ…。やっぱ弱いな』
ビームは弾き返され、男の口の中にジャストで入っていった。口の中の全てが溶かされ焼かれて綺麗に穴が空く、赤い液体は何処か焦げて黒く染まっていた。
撃滅学院の校舎一階では、赤い目を光らせた金髪の少年がMACの兵士を片っ端から殺していた。銃を撃ってもビームを撃っても効かない。
攻撃され傷がついてもすぐに治ってしまう。ボコボコと皮膚の表面が液体のようになっているように見え。
『操作者ァ…殺してやる…』
少年は独りでに呟くと何処かへ消えていった。
『もう兵士がいないな、どうしたんだろ』
『知らねーよ』
次の瞬間、無音で刹覇の首元に痛みが生じた。痛みに耐えながら刹覇は後ろを振り向くと。
金髪の少年が赤い目を光らせて刹覇の首筋を噛み付いていた。
『操作者ァ…お前の能力は俺が貰ったぜェ…えへへあははえへへへェ〜』
刹覇の首からは血液が溢れ出ているが、気にすることはない。死ぬことはないのだから。
そう思って血を放っておけば、意識が朦朧としてきている。倒れそうになり、ギリギリで踏み堪えると後ろから蹴り飛ばされ背中に痛みが生まれた。
『凌駕…!?』
『残念だけど…MACの敵として判断したぜ?操作者さんよー?金髪のこいつの名前は、雷ヶ峰終って言ってね、最強の雷能力者だったんだけど俺らで買収して使ってるんだよ』
すると、凌駕はポケットから不思議な注射器を取り出す。中には黒色の液体が入っている。
『これは、「アンプル」と言ってね?能力者の能力を封じ込めた薬なんだけど、雷ヶ峰終君は「能力を奪う力」をアンプルで会得したんだ。つまり、どういう意味かわかるか?お前、もうただの人間だぜ?』
意識が朦朧としてきて、声もよく聞こえなくなってきた。海の底へと落ちていく感覚が自分の中で生まれる。その時、一つ確信した。
これが「死ぬ」ということか。
『さて、任務終了…。終、帰るぞ』
『分かってらァ…』
二人はその場から姿を消した。
そんなことにも気がつかず、汗と血液を体内から出し続け、もがく。
『死にたくない…何で俺が死ななきゃ…ぁぁ……』
刹覇は死んだ。刹覇の人格は真っ暗な海の底へと吸い込まれていき、消えた。
『ったく…操作者を狙う者達ねぇ…気をつけなきゃいけない系だなこりゃあ…』
刹覇という存在は消えた。そのことに対し一切の哀しみもない刹那。
それもそのはず…。
刹覇は刹那が作り出したもう一つの人格なのだから。人格に命を吹き替えさせたのは能力の力。
刹覇という人格が消えても、刹覇の能力が消えても刹那にとって、それが別に大きな損傷になるわけでもない。
『別に…刹覇の能力の操作者を取られても俺の能力の解除者が居れば問題ねぇ系だろ』
口でそうは言っていても、身体は言うことを聞かなかった。涙が止まらない。自分が作り出しても、大切な家族として受け入れていた。
絶対許さない。
潰す。潰す。潰す!
何が何でも絶対に!
刹那は決意した。単独で動くことの危険さを学び誰も信用してはいけないとそう感じながら。
『俺が信じるのは刹覇だけだ!』




