二人の主人公
『なっ…なんだ!?』
突如、車の運転は誰かに奪われる。
ハンドルが独りでに動いているのだ、ブレーキもアクセルも。
通常の道路を走っていた車は、突然横転し中に居た刹覇を除く全員が悲鳴を上げて助けを求め始める。
刹覇がドアに手をかけると、ポンッとドアが弾け飛びどこかのビルの窓ガラスを打ち破りそこに居た複数名の男の首を斬り落として壁にめり込みようやく止まった。
『全く…久しぶりの外だって聞いて嬉しかったのにガッカリした系だな…なんだこのしけた世界は…つまんねー系だわ…別の人格のやつはあまり能力使いたくねーとか言ってる系だしぃ…』
弾け飛んだドアのあった場所には、当然のように穴が開いている。こじ開けられた穴ではなく、次戦にあった車の出入り口。
そこから、飛び出てコンクリートの硬い地面に両足を任せて彼は長々とそう言った。
『動くな!真鏡刹覇だな?お前には逮捕状が来ている!抵抗しなければ、痛みは無いぞ!手を頭の上に上げてうつ伏せになれ!』
手に拳銃を持った男が刹覇の目の前に立っていた。男は、銃口を刹覇に向けて命令を口にしている。
『あーあ…俺の名前は、そいつとは違う系だわ…俺、真鏡刹那って名前なんだわ、それと…銃を下ろした方がいい系だぜ?俺の力に殺される系だから…』
『なに訳のわからないことを言っているんだ!早く言った通りにしろ!』
公衆の面前で、銃口を刹那に向けるその男の周りには人が集まってきていた。勿論、目的無く…そこに立っている訳では無い。彼らの瞳の色は真っ白に、白眼になっていた。男はまだ気づいていない。自分が囲まれていることも…。
『俺、もう行く系だわ…つまんねー系だし…』
刹那は歩き出した。一歩を踏み出し、足場をコンクリートに任せた時銃声が鳴り響いた。
十段は軌道を間違えたのか、突然直角に曲がりその場にいた少女の心臓部分を貫いた。
『なっ…何で!?俺はあいつを撃ったはず…何故…』
男は頭を抱えながら、その場に崩れ落ちた。手に持っていた拳銃を地面に落としながら泣き叫んで…。
白眼だった人々の目の色はやがて元に戻り撃たれた少女の母親は泣き叫んで涙で顔がぐしゃぐしゃになった男は手錠をかけられて捕まった。
その場から離れた刹那は、路地裏へと入っていった。路地裏にはゴミひとつ落ちてなどいない。誰もいないその場所で刹那は眠った。
刹那と刹覇は夢の中で話をしていた。二人とも楽しそうに。
『つまんねー系だな…この都市は…なんか無い系?』
『あるよ?実際、俺らの能力は"何でも操る"という能力でしょ?なら、もっとこの都市を楽しまないと!』
『あー?そういう系?何か潰す系とかじゃなくて?まぁ…いいか…』
『じゃあ、決まりだね!』
直後、瞼が上に上がり綺麗な瞳が外の空気と触れる。人格で言うならば、刹派の方が目覚めた時だった。
『じゃあ、まず手始めに…刹覇の人の怒らせ方講座!』
独りでにそう呟いて、笑いながら能力を発動させる。
『怒らせ方その1!突然のビンタ!』
近くを走っていた少年を操って、少し転ばせる。そして涙を流させれば大人が寄ってくるだろう。そう思って行動に移しみる。
すると…。
『大丈夫かい?絆創膏貼ってあげるわねー』
通り掛かったおばあちゃんが少年に声をかける。少年の足を見て絆創膏を取り出し始める。おばあちゃんが少しかがんだ瞬間に…。
少年は何事もなかったかのように立ち上がるとおばあちゃんの頬めがけて手のひらを大きく振り被りパシィンッと音を立てさせてビンタを放つ。
『この時!少年だけだと効果が無いと思うので近くのおばさんを使いましょう!』
刹覇の言葉と共に、女性の方が少年の母親のように駆け寄って少年を心配する口ぶりを放つ。
『ゆうくん、大丈夫!?このおばあちゃん何されたの!?』
『ビンタされた…』
少年は平然と自分のした行動をおばあちゃんのせいにする。その言葉を聞いた瞬間に女性の顔は鬼の形相へと変化しておばあちゃんへ口を開いた。
『ちょっとぉ!?何してくれてんの!子供が怪我したらどうするのよ!ふざけんじゃないわよ!』
『この時、おばあちゃんの口を開かないようにしましょう!』
おばあちゃんは何か言いたげな顔をしているが口が開かない。自らの口なのに動かすことが出来ない。そんな状況に陥っていた。
そんな時、女性の蹴りがおばあちゃんの顔面を蹴り飛ばす。思い切り放たれたフロントキックはおばあちゃんを数メートル先へと吹っ飛ばすほどの威力だった。
まぁ…威力まで操ったとかは言わないでおこう。←
『そして、全ての能力を解除しましょう!この後の展開が面白いですよ!』
能力が解除されると、おばあちゃんは怒り狂った顔で持っていた鞄から拳銃を取り出して女性へと向けた。
『は?私に何、拳銃向けてんのよ!私何かした?』
公衆の面前で繰り広げられていたため、誰もがその様子を見ていた。おばあちゃんが怒り狂うのも無理はないと誰もが思った。
そして、銃声が鳴り渡り少年と女性は死んだ。おばあちゃんは鞄に拳銃をしまい何事もなかったかのように平然な顔で何処かへ歩いて行った。
『人を怒らせるとこうなります!まぁ…まさか、二人の犠牲者が…人の怒らせ方講座その1の終了です!次回もお楽しみに!』
刹覇は、誰に言うでもない言葉を独りでに放った。その姿を見ていた刹那は、刹覇に言いたいことを言うために口を開いた。
『お前…痛い系のやつだな…』
『別に痛くないよ!俺何もされてないし!』
『そういう意味じゃない系なんだがなぁ…』
『さて!次は何をしようかな!』
刹覇は行く宛もなく何処かへ向かって歩いて行った。