天使殺しの決意
天使殺しの都市内最初の弓矢使い。
天獄慈水。
彼は、僅か高校二年生という年齢で死という名の扉を開いてしまう。
正確には開いてしまったのではない。まるで自動ドアとでも言うように自然と開いてしまったのだ。
彼は、扉に率先して向かうような人物ではない。何故、死という扉の向こうへと足を運んでしまったのか。
彼が弱かったから…。
都市内最強と謳われ、数々の強者を倒してきた慈水ですら足元にも及ばないほど相手は強かった。
しかし、ソイツは何の武器も使わなかった。手から雷を放ち、余裕の笑みで当たり前のように仲間を殺す。
ソイツにしてみたら、こんな殺戮も日常の中の一つの出来事だったのかもしれない。
天使殺しなんて、呼ばれていても。
いざとなったら、仲間も守れず自分の身も守れない。そんな奴に、一言言葉をつけてあげれるとしたら…。
何て言葉をつけてあげるだろう。
「頑張れ」「負けるな」「いけ!」
応援の言葉なんて響かない。
俺が欲しいのは、そんな言葉じゃない。俺が言うようなキャラじゃない言葉なのは自分でよく分かっている。でも…。
「助けて」欲しい。
この一言を、もし伝えられたなら俺は助かっていただろう。
分からない。
そんなことも分からない自分が悔しくて辛い。
意識が朦朧とする中、腹部からの外へ流れる血液は止まりを知らず俺の中から消えていく。
ペットボトルを逆さにして水をこぼす程の流れの速さで俺は意識が消えた。消えた後の話はよく知らない。
ただ、どこか懐かしくて昔の自分を見ているようで微笑ましくなれた。
走馬灯。人間は死ぬと自分の人生の振り返りのビデオのようなものを見せられるらしい。
誰の意図でもない、「自然にそうなっている」から見れる。
何事もそうだ。幽霊も何故見える?「そこにいる」から。
簡単な話だ。
全て、簡単な話。
俺は死ぬ時、死の扉を潜ろうとした時。聞き覚えのある声が流れてきてホッとしたのかもしれない。
仲間の安否が何よりも大切だ。
嬉しかった。
第1位など関係なく食堂でご飯を食べて話をして…楽しかった。
俺の走馬灯には、小さな頃の映像は映し出されていなかった。
それが何故なのかは、よく知っている。自分自身でよく分かる。
俺は小さい時「死」を味わったことがあるからだ。その時に、見るものを見てしまったから。
走馬灯に同じ映像は流れない。
だから、俺が「死」を体験したのは二回目なのだ。だが、俺は死ぬまでその自覚がなかった。
人は死んでから走馬灯を見て、その後に記憶を失う。記憶の失った後、別の誰かに転生する。
恐らく、この繰り返しだ。
俺の人生は、二回目で終わった。
楽しくない人生も楽しかった人生も両方好きな人生だ。
自らが生きた道を誇れるならば、もう何もいらないだろう。
俺は自分の人生なんて、関係ない。
もし、この二度目の人生を体験しているのが俺だけならどうなる?
そうだとしたならば、俺は大切な人を一人守り抜きたい。
柳瀬凌駕という人を。
俺は守りたい。何があっても。
この"3度目"の人生を、凌駕を守るためだけに使いたい。
俺は死ねない。
何故か…俺は、混血人という能力者と人間のハーフだからだ。
武術を極めた能力者というところだろうか。
「俺はこの力を使って、全ての災難から柳瀬凌駕を守る!」
そう心に決めた天獄慈水の眼の色はやがて月の光に照らされてなのか真っ赤に染まっていた。
凌駕を化物にした、MACという存在に復讐を行うために…。
また、世界の全てが変わるのだろうか。誰かが回答しても、決して本当の答えとはならない。
それが世界の秩序とでも言いたげに空は赤かった。




