水爆ノ龍(後編)
教室で自分の席に座っていると、大勢の生徒が俺に話しかけてきた。
『君が、水泡瑞貴?』
『シードになるなんて凄いね!』
など、他にもあったが省略…。
『いや、うん。ありがとね』
それとなく礼を言い、流れに任せて素っ気ない返しばかりをするしかなかった。
大勢の人に話しかけられるなんて今まで無かったから。
しかし、瑞貴がシードになったことをよく思わ無い連中もいるようでコソコソと陰口を言っている。
気にしないで練習を続けた。
本番前日の出来事だ。
『お前、明日シードとして出るんだろ?そこで盛大に負けろよ、金なら払うからさぁ?』
大勢の男子生徒が瑞貴を囲い、その中の一人がそう言った。
これが世に言う八百長なのである。
『嫌だよ、俺は優勝しないといけないから!』
『へー、なら前日に痛みでも味わってもらうかなぁ』
竹刀や木刀を片手に持ち、ニヤニヤと笑い始める生徒が数人。
瑞貴は喧嘩をしたことが人生で一度も無かった。だから、逃げることしか出来なかったのだ。
逃げて。逃げて。走って走って。しかし、奴等は追ってくる。
学校の校舎を何周しただろう。
校舎裏で…俺は捕まった。
覚悟を決めた。
俺は、大会を諦めると…。
思った瞬間、木刀が俺の頭に振り下ろされた。
俺は、目を瞑り手で頭を囲い防御体制に入ってみた。
が、痛みがない。
何故…?
目を開けると、そこには…。
自分の右腕を犠牲にし俺を守る凌駕の姿があった。
『痛ってぇ…なっ!!』
凌駕は、左腕で木刀を掴むと相手から武器を奪って木刀を当てる寸前で止める。
男は、悲鳴を上げ腰が抜けたように尻餅をついた。
『大丈夫か?』
『凌駕…?』
『あぁ、ちょっと待ってろ!今、歩美が人呼んでっから…普段ならこんな奴らボコボコにしてんだけど、今は前日に問題起こしたら俺らどうなるかわかんねーだろ?』
『そうだね…』
直後に、歩美と先生が数人やって来た。武器を持った生徒らは退学となったようだ。
『痛ってー…もっと優しくしろよ』
『そんなこと言ったって…あーあ、前日にこんな怪我とか…馬鹿じゃないの!?剣で止めてれば良かったのに!』
『しょうがねーだろ!ギリギリで剣を出す暇も無かったんだよ!』
保健室では、歩美と凌駕の言い合いが続いている。凌駕の腕は、何とか大丈夫みたいだ。
しかし、万全の状態ではないため。明日はどうなるかわからないそうで。
『凌駕!ごめんな!俺のせいで…』
『お前のせいじゃねーよ?気にすんなって…!』
『俺が、シードにならなければこんなことには…』
『それはちょっと違うぜ?お前がシードになった前にどんだけ練習してきたか、俺は知らねーけど!シードになるってことはそれだけの努力をしたからだ!今回のことは、その努力を否定した奴らが悪い!お前ら何も悪くねーよ。だから、そんな悲しそうな顔しないでくれよ』
『凌駕…ありがとう…』
凌駕の言葉に思わず大粒の涙を流してしまう。履いていたズボンに、大きなシミが出来て、涙はどこまでも止まらない。
凌駕は、瑞貴の頭を優しく撫でながらこう言った。
『よし、明日。楽しみにしてるからな?』
『おう…!』
涙を腕で拭き上げ、大きな声で返事を返す。その数分後、保健室の明かりは消され人は誰も居なくなった。
保健室に静寂が生まれた。
大会翌日。
《今回武闘演戯では、一年生のシード、二年生のシード、三年生のシードが決められており、シードは強制的に明日行われる決勝トーナメントに出場となります!今日は出場致しません!が、明日の武闘演戯は各学年最強が戦い学園最強を決めるというものになります!ルールについては、いつも通りです!二本先取で特殊なバリアを先に割った方の勝ちです!今日は予選のようなものですが、選手の皆さん頑張ってください!では、第23回武闘演戯開幕です!》
放送が入り、武闘演戯は開幕となる。第一回戦の放送が入るも瑞貴はベンチに凌駕と歩美と座っていた。
『明日かぁ…今日は退屈になるなぁ…』
『今日は、歩美が居るじゃねーか!』
『そうだよ!瑞貴もちゃんと応援してくれないと怒るからね!』
『大丈夫!応援してるから!』
『うんっ!じゃあ、行ってくるね!』
三人の仲はとても良いものになっていた。仲良し三人組。みたいな呼ばれ方をされてもおかしくないほどに。
『歩美は第一回戦なの〜〜?』
『そうだぜ!ちゃんと見てような!』
『うん!』
数分後、第一回戦が始まった。
歩美の相手は、巨大な大男。
三年生らしく、シードにはならなかったが優勝候補らしい。
巨大な大剣を持ち、肩に乗せながら笑っている。
対する歩美は、しなやかな黒髪の行き場を風へと委ねてゆらゆらと揺らしながら、剣を手に取った。
矛先を相手に向けて真剣な眼差しを相手へと当てる。
《第一回戦スタート!》
スタートコールが会場に鳴り響き、一気に選手達は攻めを開始した。
『俺を倒せるか?このアマちゃんが!』
男が大剣を振り下ろすと、歩美は通り抜ける風のように大剣での攻撃をかわして男の背後へと回り込むと矛先を突き刺す。
バリンっと音を立てて割れるバリアの音と共に男の顔は真っ赤に染まった。
『私は貴方には負けないよ?』
男はあまりの恥ずかしさに、怒り狂ったように歩美に向けて拳を振るおうと試みる。
『まだ、始まってないけど?』
男の腕をすり抜けるように回避すれば足を引っ掛けると同時に腕を掴んで一回転させれば、男はそのまま地面に落ちていった。
男は泡を吹き、白目を剥いている。
どちらにせよ、反則行為とみなされ大会から追い出される羽目となった。
《勝者は、黒神歩美さんです!》
拍手が巻き起こり、歩美の初武闘は終了した。その様子を上で見ていた瑞貴は驚きの顔をしていた。
凌駕は呆れた顔で手に持っているコーラを飲み干していた。
『ただいまー!』
『おかえり、とおめでとう!』
『ありがとー』
歩美が帰ってきて、三人は何気ない話で盛り上がった。
その後の、武闘でも歩美は負けることはなく。ことごとく様々な相手を打ちのめしていった。
結果。決勝トーナメント進出!
予選では、予選一位と二位が決勝トーナメントへ通過となる。
歩美は、一位だったのだ。
二位は、坂上駿という名があった。
その日の夜…。
三人は同じ寮に住んでいるので凌駕の部屋に集まり話をしていた。
『んじゃあ、改めておめでとう!』
瑞貴の言葉と同時に三人は、手に持っていた缶ジュースをぶつけ合った。
直後に、口へと持っていく。
ゴクゴクと良い音を響かせながら、缶を口から話すとプハーッと三人同時に言い合った。
『いよいよ、明日かぁ…』
『どうしたんだ?今日なんかベンチで早く明日になって欲しいとかうるさかったのによー』
『そうだけど!いよいよ、明日って考えるとワクワクと同時にドキドキが止まらなくてさ!』
『それは、分かるけどよー。まぁ、頑張ろうぜ!』
『おう!』
二人で話していると、それに嫉妬でもしたのか。歩美が怒鳴り始める。
『何で二人で盛り上がってんのー!』
『あぁ、悪い悪い!明日も頑張るぞー!』
三人はその後、たわいもない話で盛り上がり時間になるとそれぞれの部屋へ戻っていった。
翌日。
『さてとやりますか…』
二日目開幕となった、武闘演戯では瑞貴の出番が来ていた。
相手は三年生のシード、五十嵐優。
漆黒ノ龍と呼ばれる彼の腕前は都市最強と言われ、現在も名を馳せている。
いきなり、最強の相手と当たってしまい少し萎えた気持ちになっているのだが…。
相手はやる気満々なようだ。
会場の人達は、瑞貴の顔を見るなりあいつ終わったな。などと口々に言っていた。
『終わってるってよ?ここで素直に降参するのもお前のためかもよ?』
優は嫌な笑顔を向けて、嫌みたらしく言葉を口にすると銃を構えた。
『まぁ…いいや…さてと、やりますかね!』
優の言葉に見向きもせず、動揺もせず。瑞貴は銃口を相手へと向けて当たり前のように構える。
《スタート!》
スタートコールが始まると、優の銃からは弾が撃ち出される。パァンッと大きな音が鳴り響いて発射された
銃弾は突然、巨大な黒い龍へと変化し瑞貴へと襲う。
『へぇ…これが武闘演戯か…。』
相手の銃弾をまるで見ていなくてかわせないと相手が判断したと思えば、自分の銃口を下に向ける。
地面に銃弾を撃ち込む際に、何かを彼は言ったが銃口でかき消されたのだ。して、地面へとめり込んだ銃弾から突然爆発が巻き起こり相手の銃弾の威力は下がり落ちていった。
『な…俺のカオスドラゴンを止めた!?お前!』
優が言葉を述べ終わる時、パリンッと音が聞こえバリアは割れた。
『俺が一本取られた!?あり得ない!』
優のバリアが再度形成されていくと優は銃の側面にあるボタンを人差し指で押す。
すると、銃口が大きくなり優はニヤリと笑いながらこう言った。
『お前、終わりだぜ?まさか、俺にこれを出させるなんてな!』
『へぇ…?』
興味無さげに声を上げると優の顔は怒りの顔へと変わっていた。自分の武器に対しての態度が気に入らなかったせいだろう。
二回目のコールが会場に落とされると、勝負は始まり…終わった。
一瞬で勝負はついたのだ。
スタート同時に、相手の頭を鮮明に狙った銃弾は弾道を決して間違えることなく優のバリアを粉砕する。
たったそれだけ。
勝負は終わり、瑞貴の態度は優の怒りを優しく包み込んだ。
『あー、先輩!またやりましょう!』
しかし、優は怒りの表情で会場を走って出て行った。
『あーらら…凌駕は終わったか…なっ…?』
凌駕の会場へと視線を向けると、もう片付いていて次なる勝負が始まっていた。
確か、二年生シードと凌駕の試合だったはず。俺は、走って二人の元へと戻った。
『凌駕、負けた?』
『勝ったぜ?』
当たり前のような返答が帰って来れば、瑞貴の表情はたちまち笑顔に変わった。
『私も勝ったよ!』
全員、次勝てば優勝というところまで辿り着いたのだ。
『次は歩美かよ…けったりぃ…』
『ま、私が勝つけど!』
『は!?お前に負けるわけねーだろ!』
『まぁ、後で見てなさいよ!』
『二人とも頑張ってねー!』
三人は決意を固め直せば、それぞれの会場へと向かっていった。
『まさか…俺と相手になるなんて思わなかっただろ…?』
『兄貴…俺は兄貴を超えて優勝する!』
『瑞貴、お前じゃ無理だよ?俺を超えるのなんてさ』
次なる相手は、実の兄。水泡魁斗。
二年生シードとして瑞貴の前に立ち塞がったのだ。
『兄貴…俺、負けないから』
真剣な眼差しを当ててくる瑞貴を鼻で笑うと魁斗は銃を構える。
瑞貴は銃口を空へ向けながら魁斗へ視線を外さないでおけば、勝負は開始となった。
直後、魁斗のバリアは割れる。
二回目の勝負が始まって、直後に魁斗のバリアはまた割れるのだ。
無音で、瑞貴の銃口は空へと向けられているのにも関わらず。魁斗のバリアは開始直後に割れる。
これが、瑞貴のスキル。
水爆ノ龍。
銃弾の弾道を計測すると確実に魁斗に落ちるように銃口を空へ向けている。銃弾を放つと同時に、本物の銃弾は空に落ちるも水分が銃弾と同じような目的を持ち魁斗へと明確に鋭い水の刃となって落ちていくのだ。
して、魁斗のバリアは二回とも割れたのだ。
『俺…優勝したんだ…!』
『ッチ…何で俺が負けんだよ…』
魁斗は髪を掻き上げて会場から出て行った。
《銃部門優勝は、水泡瑞貴さんです!》
瑞貴はトロフィーを貰い、トロフィーを片手に拳を空へと掲げている。
笑顔で、満点の笑顔で。
その時、全ての部門の優勝者が決まり会場のムードは最高潮に達していた。
《閉会式を致します。選手は全員、会場へとお集まりください!》
アナウンスが入り、選手全員が会場に並ぶ中。選手の前に優勝者十人が集まった。
その中に、凌駕と瑞貴の姿があり二人とも肩を組んで声援を受けている。
満点の笑顔で。
それから、1年後。
俺は人生の終わりを知った。
全てのスキルが効かず、姿を雷に変えてしまう男。
雷ヶ峰終という男に、俺は負けた。
そして、死んだ。
俺の流れは止まってしまった。
全ての流れが終わったのだ。
血の流れも俺に入る空気の流れも。
"人生の流れ"も。
3話目の意外と大切な部分が抜けていた件について謝罪申し上げます。
申し訳ありませんでした。
引き続き、お楽しみください。