武術都市
弱者は強者によって淘汰され踏み台にされていく。それが今の世界の秩序。
世界が変わってしまったのは現代から二十年後の話。
ーー2035年。
アメリカ合衆国、およびロシアなどの勢力が同盟を組み日本を潰そうという計画を実行しようと試みた時。計画の遂行も秘密にされ、準備は万端だった。
しかし、計画は失敗。
アメリカ部隊の一人が、ミサイルを撃っても「何か」に打ち消されると供述した録音が残されている。
歴史的に有名な産物へとなるはずだった、録音はただの録音と評価された。
何故だろうか。
理由は「何か」が日本によって公開されたからである。
「何か」は人だ。正確には人を捨てた化物とでも言えるだろう。
人という枠から外れ、化物になってまで力を手に入れたかった愚か者達だ。
その愚か者だから、最強になってしまった。
彼らは、集団的に行動し、国のためではなく自分達の楽しみのためだけに様々な国の攻撃を撃ち落とし壊滅にまで追い込んだのだ。
人では出来ないようなことをやってのけ、人の心を持たない最悪の兵器。
手から雷を放ち、自らの意思で風を起こす。
そんな存在が自分の眼の前に現れたら人はどうするだろうか。
恐怖のあまりに、立っていられなくなるのが普通だ。
どういう結末に陥っても、結局待つものは誰も彼もが同じだった。
"死"というもの。
死という存在は大きく人を変えてしまう。死んだ人も周りの人が死んだという状況だけでも。
死んだ人は意識が消え、周りの人は恐怖が芽生える。
それだけで人は大きく変わってしまうほど弱いものだ。
人を超える人、言うなれば。
"能力者"は世界を大きく変えていった。
能力者の力で全大陸が日本を中心に集結してしまったことも含めて。誰からも日本から逃れることはできないとでも言いたげに。
力が世界を大きく変えた。
強さこその世界になってしまった一つの理由なのかもしれない。
して、三年の月日が流れる。
2038年。
全大陸は、日本の多大なる力のせいで地球ごと日本の物となる。
能力者達は日本から反乱を起こし、力に溺れて人を殺していった。
世界の頂点は能力者。
当たり前とでも言うように決まってしまった事柄だ。
能力者が頂点に立つ世界に平和などない。
平和が存在してはいけないとでも言うように日常が殺し合いの毎日となっていた。
そんな世界に、秩序もルールもあるわけがなく。
沢山の人が死んだ。
一秒に十人程の人が死んでいると言われるほどにまで。
日本は考え、どうにか力を取り戻そうとした。
して、結果として生まれたのが、TBV。
通称、特殊武術部隊。
各国の様々な武術の達人を集めて作られた組織で、組織のトップには能力者開発に関わっていた人も居る。
そんな組織でも防げないほどに世界の問題は深刻だった。
荒れくれた世界を良くしようと建てられた場所こそが今物語の舞台!
有り余った大陸に都市を作り上げ意思ある者を育てる。
それが今の日本という国。
"武術都市"と呼ばれる場所。
勿論、ここでは昔の世界の秩序など通用しない。
強さこそが全て、それ以下もなければそれ以上もない。
武術者を育てるといえば、学園である。
都市の唯一の学園は都市全体の中心とも呼ばれ、最強の武術者を育て上げる学園。
剣城学園と呼ばれる場所。
勿論、学校の成績も勉強ではなく武術。
つまり、武器をどれだけ使いこなせるかが要となりレベルごとにランク付けされている。
SSSというランクが一番高く、低いのはDランク。
武器を握ることさえもできないほどに弱い者達だ。
学園から退学しそのまま都市を離れない愚か者も多数存在し、都市内での事件は絶えない。
勿論、学園内に居れば安全だが。
剣城学園の生徒数は一億を越え、様々な国から集まってきているのか凄まじい人数になっている。
一年生の頃は全ての分野を授業で習うが二年生からは自分にあった武術を選択しそれだけを学べるというスタイルだ。
秩序の欠片もない学園の生徒と思われる二人が石で出来た階段に腰を下ろして、話をしている。
『凌駕は、また武闘演戯で優勝するの?』
『ばーか、そんなに簡単にできねぇよ。ま、頑張るけどな』
柳瀬 凌駕。
学園内の剣術総合ランクはSSS。
都市内最強と呼ばれ周りから慕われている。
『歩美はどうすんだよ、ずっとその位置に居るのか?』
黒神 歩美。
学園内の剣術総合ランクはSS。
都市内で剣術ならば凌駕の次に強いといったところ。
二人の寮は同じ学生寮、登校時はいつも一緒となる。二人は鞄と愛用の剣を持ち登校している。
『次こそは勝つわよ、あんたに!』
『おー、楽しみにしてるぜ?』
二列で登校し互いに顔を見つめあってそれぞれの決意を固める。
彼らの通る道は現代のように落ち葉もありというわけではない。武術都市は清潔さを大切にしており、ゴミ用のロボットが普段からゴミを吸い取っている。
『あっと…こんな時間じゃねぇか。急ぐぞ!』
凌駕は通りかけたガソリンスタンドの時計の針を見て急いで歩美に声をかけると走り始める。
時計の針は8時を回っていた。
『待ってよ!』
歩美も後を追いかける。
『はぁ…はぁ…何とか登校時間までには…』
凌駕がそう言いかけた時、学園内の鐘が鳴り響き、門が自動で閉まろうと門と門が距離を詰めていた。
『嘘だろ!?』
『え…ちょ!』
凌駕は咄嗟に歩美の手を掴むと、剣を取り出す。
突然、剣から発される白い光、空気に触れるとビリビリと音を出し、持ち主の動作を支援するが如く、凄まじい速さで閉まろうとする高さ5mの門の隙間をするりと抜けた。
人の目では決して認識することのできないようなスピードで。
『……こんな所で剣術スキル使うなんて馬鹿げてるわよ!』
『良いじゃねーか。間に合わなかったら怒られるだろ?取り敢えず、中入ろうぜ!』
歩美の困惑と怒りに軽く転がすような対応をすると、二人は学園内へと足を進めた。