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魂戟のソーマ~異世界憑依譚~  作者: 空地 大乃
第三章 レンジャーへの道編
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エピローグ 零の出来ること

「しかしトイ、一体この畑で何がわかるというのだ?」


 ダグラスは不思議そうな顔で零に問いかける。

 となりの村長もさっぱり見当がつかないといった様子だ。


「ヒントは畑がふたつあることです」


 零はそう答えるがそれでもなお皆目見当もつかないといった様子。


「なぁトイ、俺達もその件については何も聞かされてないんだ、いい加減教えてはくれないか?」


「教えてくれたら、お姉さんがいいことして、あ・げ・る」


「あんたはいい加減にしなさいよ!」


 眉を寄せて怪訝顔なロック。

 そして相変わらずのロイエとジェンである。


「そうですね、判りました。その答えはこの畑の土にあります」


「土?」


 ダグラスが頭に疑問符を浮かばせて復唱する。


「はい、実はこの畑の土は片方はこの山を利用したもの、それに対しもう片方は――村の荒廃した大地から運び利用したものなのです」


「な、なんじゃとおおぉお! 馬鹿な! そんな、そんな筈はない!」


「村長の言うとおりだトイ。あの場所は既に土が死んでいる。しかも邪気を含んだ事で再生不可能な程にな。だからその土で作物が育つことなどあり得ないのだぞ?」


「それが出来てしまうのが、この稲の凄いところです」


 言って零は水田から土を一つ掴み上げる。


「そもそも叔父さんは不思議に思ったのではないですか? 何故畑にこんなに水を満たしてるのか、と」


「あぁそれはわしも不思議じゃった」


 村長が頷く。


「これは水田といって、そもそも水で満たすのが基本なのです。そしてこれこそがこの水稲の重要な部分……水稲は土の栄養ではなく、水の栄養だけで育つのです」


 なんと! とダグラスがこれまでで一番の驚きを示した。

 それも当然だろう、そしてこの特性は零の知っている稲ともまた違うものだ。

 ガイアルの知識がなければ思いもよからなかっただろう。


「まさか水だけで育つなんてな。それであの村の土でもすくすくと育っていたってわけか」

 

 ロックが感心したように頷く。

 

「トイってばそこに気づくなんて流石よ!」


 ジェンが破顔して零を褒め称えるが、そもそもこれはガイアルの功績なのでなんとも言えず苦笑で返す。


「しかもこの水稲は余剰分の栄養は土に戻します。ですからほら、あの村の土も少しずつ栄養を取り戻しているのですよ」


 そういって零は手のひらに乗せた土を叔父と村長に差し出した。

 ふたりはそれに触れ、驚いたように目を見開いている。


「これは、まるで夢の様な作物だな……」

「しかし、なぜこのようなもの今まで誰も手を付けなかったのか……」


「それは気候が原因としてあるみたいですね。この稲は古代種で元々はデンデラ帝国で採取されたもののようですが、そこではどうやっても上手く育つことはなかったとか……でもここフォービレッジは風と水、それに気温と全てのバランスが良く、稲を栽培するのに適しているようなんです。勿論その結論に至ったのはガイアルさんの研究の賜物ですが」


 零の発言に感心したように頷くふたり。

 そして、あのガイアルがな……とどことなく優しさに満ちた表情でダグラスが呟く。


「でも、これで叔父様にも判って貰えましたよね? ちなみにこの稲ですが水の栄養だけで育つため連作が可能なようで、更に一年で二回収穫が可能です」


「年に二回だと!? なんてことだ……これは確かに凄いものをガイアルは見つけてしまったのかもしれない」


「それも全て叔父様に認めてもらいたいという事と、そして、この村を立て直したい、そう思ってのことです」


「村を、立て直す……」


「はい。この稲であればあの大地も元の姿に再生すること可能なんです。それは今見てもらった水田の効果で判ったと思います」


「……確かにな。だが、そうなると大規模な工事が必要だ。水が大事であるなら、これまでの流れは邪気の影響を考えると使えない。そうなるともっと上流の奔流から引っ張る必要があるだろう」


「……ですが、それだけの価値はあるのではないですか? 立場をわきまえずこのような発言、無礼かとは思いますが、それでも私はトイが導き出したガイアルの意思、一考の価値があると思いますよ」


 トイを後押しするようにロックが進言し。


「……叔父様、弟がここまで必死になってガイアルの汚名を晴らそうと尽力したのです。その気持ち、そしてガイアルの意思、汲んではもらえないかな……」


 そういってジェンが、ダグラスに、頭を下げた。

 

「この米は美味しいし迷うことないと思うな~」


「ダグラス卿、わしからもお願いです。村に復興できるチャンスがあるなら、どうか、どうか――」


 全員が懇願するようにその頭を下げた、そしてそれに対する叔父の答えは――






◇◆◇


「お~いこの土を早く運び出せ~あ、トイ、そこは土のソーマで頼む」


 ロックの声に、はい! と零は返事し、土のソーマで川の道筋を整える。


「トイー~川の経路の調整が終わったよ~」


 そしてセシルが零の傍まで駆け寄ってきて報告した。

 彼はこの村の件を耳にし、自分にも何か出来ないかと赴いてくれたのだ。

 しかもそれはセシルだけではない。


「おいエリソン! ちゃんとそっち支えとけよ! 全く使えねぇな!」


「ひぃ、もう先輩、僕は元々先輩みたいな筋肉バカじゃないんですよ! むしろ知力を活かした仕事を」

「うるせぃ! いいからしっかりやれ!」

「痛! 酷い!」


「全くあいつらは相変わらずだね」

 

 シドニーとエリソンのやり取りにマーニも腰に腕を当て呆れ顔だ。

 ちなみに勿論この三人も噂を聞きつけ手伝いに駆けつけてくれた。

 

 マーニとエリソンがやってきた事には零もびっくりだったが、どうやらマーニに関しては騎士見習いでありながらもその実力が早い内から認められたようで、今回の件は人のために何かをすることも騎士として大事な事と、特例で許可をもらったらしい。

 

 エリソンは、何かしら理由をつけてマーニに付いてきたようだ。


「みなさ~ん、食事の準備が出来ましたよ~」


「ワオ! マーリンちゃんの手作り! おお! ロイエ様ももしかしてご一緒に?」


「うふっ、よかったら私も、た・べ・る?」


「おわ! 汚え! なんで鼻血なんて吹いてるんだテメェは!」

 

 シドニーがエリソンに向けて叫びあげた。

 その様子に思わず零も笑みをこぼす。


「トイ~トイが教えてくれたおにぎりだよ! お姉ちゃんの愛が篭ってるんだからね! はい、あ~ん」


 おにぎり片手にいつもどおり過保護な姉にタジタジな零である。

 ちなみに米はあの小屋にあったものを使っているようだ。


 結局……ダグラスは村の復興のため尽力することを決めてくれた。

 そしてそれからの行動は早かった。

 先ず、もともと村に住んでいた人々に村の件を伝令させ、協力を仰いだのである。

 

 その結果、元々村に住んでいた人々は全員戻り、灌漑工事と水田の構築に力を貸してくれた。

 元の村人だけではなく、ロイエの誘い(どうやって誘ったかは言及しないでおくが)に乗ったレンジャーたちも数多く協力してくれる事となり、予想以上のペースで工事は進んでいる。


 勿論これらの功績はガイアルによるところが大きい。零が稲と米の事を知っていたとはいえ、元の世界とは違う点も多かった。

 彼の知識がなければダグラスを説得しここまでの事を成し遂げるのは不可能であっただろう。


 ただ――


「トイ、どうしたのですか?」


 高台の上から、徐々に復興の兆しを見せ始めている村を見下ろしている零にマーリンが声をかけてきた。


 そんな彼女を振り返り、零は笑みを浮かべ。


「……なんか、嬉しかったんだ。僕でも……僕でも人の役に立つことは出来るんだなって、そう思えてね」


 その返しにマリーンはきょとんとした顔を見せた後、くすりと笑った。


「トイさんは、ご自分では気づかれていないだけでもう十分人の役に、えぇ、みんなを幸せにしてますよ」


「僕が?」

「はい。それに、私だって……」


 そこまで言った後頬を紅潮させ、目を伏せる。

 それにきょとんとしてしまう零だが、うん、と何かを決意したように頷き。


「ありがとうマーリン。こんな自分に何が出来るか、まだまだわからない事も多いけど、それでももっと自分を信じて頑張ってみるよ」


「トイ……はい、そうですね」

  

 そして、零は再びみんなの元へと駈け出した。

 零は魂だけの状態でこの世界を彷徨うこととなった。

 だが、今はトイの身体を借り受け、少しずつ自分の出来る事を模索し始めている。

 生前は知り得なかった家族の暖かさも、感じ始めていた。

 そんな零の異世界の物語はまだまだこれからも続いてゆく事だろう――

ここまでお読みいただきありがとうございます。

魂戟のソーマ~異世界憑依譚~はここで完結とさせて頂きます。

ここまでお付き合い頂きありがとうございましたm(_ _)m


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