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魂戟のソーマ~異世界憑依譚~  作者: 空地 大乃
第三章 レンジャーへの道編
87/89

残された手記

2015/09/03

タイトル変更

旧題:異世界転魂~憑依して獲るは知識と力~

「やっぱりあった……」

 

 荒れ果てた農作地を見せてもらい、ガイアルの埋葬を終えた後は、零の頼みもあって、全員でガイアルの家におじゃまする形になった。


 幸いガイアルが家族で住んでいた家屋は破損も少なく、また一行が寝泊まりするには十分な広さがあった。

 村長もこのまま遊ばせておくぐらいなら、どうぞご自由にお使い下さいと二つ返事であった為、その事には特には問題がなかった。


 家にお邪魔し、ガイアルと既に亡き家族の為に聖神ミコノフの元に英霊へのお祈りを捧げた後は、いつもどおりジェンに弄ばれたりもしつつ、夕食を済ませ就寝についた。

 零が本格的に動き出したのはそれからである。


 彼にはガイアルの記憶が宿っていた為、どこに何があるかはすぐに判った。

 屋敷の書斎に足を踏み入れ、シンプルだが丈夫そうな木製の机の引き出しを開け、その先に見つけたのが一冊の手記である。


 そして零は、己の精魂に刻まれた記憶と照らし合わせるように、ページを捲り目を通していく。

 基本夜眠ることの出来ない零だが、こういった作業には寧ろ好都合である。

 

 手記にはかなり事細かに零の確認したかった情報が記述されていた。

 それは一冊では終わらず結局十数冊近くに集中して通読する事となった。


「ふぅ――」


 パタンと最後の一冊を閉じ、大きく息を吐き出す。勿論これは人としての記憶から行っているだけであり、実際に息を吐き出しているわけではないが、生きていた頃の習性でついやってしまう。

それだけ憑依した後の身体の扱いに慣れてきているという事でもあるが。


 そして、零は読み終わった後の感想を頭の中で形にする。

 やはりガイアルは叔父の事を恨んでなどなかったと、それどころか……


――ガチャ。


「ちょ、トイ、こんなところでどうしたの?」


 ふと書斎の扉が開き、姉のジェンが顔を見せた。

 零が振り返ると、どことなく心配そうな表情。

 

 眠るときはしっかりと抱きしめていた筈の弟が、いなくなっていて不安になったのかもしれない。

 勿論零がジェンにばれないようにそっと腕の中を抜けだしてきたわけだが。


 ふと、零が窓に目を向けると、カーテンの隙間から光が差し込んできている。

 どうやら読むのに夢中になってる間に朝になってしまっていたようだ。


「ごめんねお姉ちゃん。ちょっと眠れなくて屋敷の中を歩いてみたんだけど、そしたらこの書斎を見つけて――」

 

 そこまで言った後、零はガイアルの残していた手記を胸の前まで持っていく。

 零は別にこの手記の事を隠したかったわけではないからだ。

 寧ろ読んでもらい興味を持ってもらいたい。


「え~と、トイそれは?」


 そしてジェンが食いついてきてくれたので、零は柔らかい笑みをこぼしつつ、ガイアルが書き溜めた手記の内容を伝えた。


「ガイアルがそんな事を……」


「うん、それでね。僕この内容をこの目で確認しに行きたいんだ。いいかな?」


「……ふぅ、仕方ないわね。じゃあロックとロイエにも声を掛けてくるわね」


 ジェンは一瞬思案顔を見せたが、彼女自身もこの内容には興味があったのだろう。

 すぐにロックとロイエを叩き起こし、準備した後村を出た。

 

 そして――






「これは、見事なものだな……」

「ガイアルっち、こんなことを密かに考えてたんだねぇ」

「……と、いう事はやっぱりそうなんだ」


 その光景にロックとロイエは感嘆の声を漏らし、ジェンは神妙な面持ちで呟いた。

 

「……お姉ちゃん。僕、叔父さんがそんなに言うほど悪い人には思えないんだ。寧ろ領民の事を優先に考えるいい領主なんだとも思う。それはガイアルさんも判っていたんだと思う。だからきっとガイアルさんなりに考えての事なんだよ。村に残ることに拘ったのも、この手記やこれの事も。だからね……僕はこのことをしっかりダグラス叔父さんに伝えるべきだと思う」


「……そうだな。ガイアルの為にもそれには俺も賛成だ。恨みを持って邪気に蝕まれたソーマ士という汚名は返上させてやりたいしな」


 零の意見に追従するようにロックが述べる。

 するとジェンは、すっと優しい笑みを浮かべ、そうだねと納得を示した。


 その表情にホッとしつつも、零はその後村に戻り、村長に挨拶を済ませる。


「もう行ってしまわれるか……いや、流石にここで長居させるのも申し訳ないかのう」


「あ、いえ、一旦ミルフォードに戻るだけです。その後はまた戻ってきますし、その時は村長さんにも見てもらいたいものがあるんです」

 

 零は若干寂しそうに口にする村長にこれからのことを告げた。 

 すると不思議そうに眉を開き。


「わしに見て欲しいもの?」


「はい。戻りましたらまた顔を出しますので」


「……ふむ、あなた方がそう言われるのでしたら、是非みてみたいですな。楽しみに待つこととしましょう」


 はい、と笑顔で告げ、そして零は皆とミルフォードへと向かった。






◇◆◇


「私に見てもらいたいものがあるだと?」


 ミルフォードの街に戻ると、街の皆から再び歓迎された。

 別れを告げてから、わりと早い戻りでもあったので少し気恥ずかしかった一行だが、理由を話し、その足でダグラスの屋敷に向かい、今は叔父を前にして零が村に来て欲しいとお願いしているところである。


「しかし、今更私があの村にいっても……それに――」


 そこまでいって辛そうな顔をみせる。あそこには叔父の娘と孫が眠っている。 

 その事を思い出したのかもしれない。


 だが――


「叔父様……辛いのは判ります。でも、でも叔父様は一度その辛さを乗り越えてあの村のために動いている。村の皆の為に手をつくして、そして新たなる移住地を探してあげて、僕はそんな叔父様を尊敬します。なにより領民の事を一番に考えられる叔父様が。だからこそ――来てもらいたい。領地の為に、村のために、そしてガイアルさんと奥さんの為にも、何より叔父様自身の為にも」


「……領地、村、ガイアルに娘、そして私自身の、為?」


 零の瞳をじっと見つめ呟く。

 するとジェンが一歩前に出て言葉を紡いだ。


「叔父さん……私からもお願いです。ガイアルの込めた想い、それを見てあげて欲しいの」


「ジェン……」


「俺からもお願い致します。ガイアルは鉱山に向かう前、貴方に一度見てもらいたいものがある、そういって出て行ったのですよね? その理由がきっと判るはずです」


 ロックも一緒になって頭を下げお願いした。

 するとダグラスは、ふっ、と小さく口にし。


「街を救ってくれた英雄にそこまで言われて、嫌だなんていってはミコノフ神に怒られてしまうな――それに、トイやジェンが私にここまでいってくれてるんだ……判った。すぐにでも馬車の手配をするとしよう」


「あ~それなら大丈夫だよ。馬車なんかよりいいのがあるし~」


 と、ここでどこか緊張感のないロイエの発言。

 それに、へ? と応えるダグラスであったが、いいからいいからと促され――






「う、うぉおお! な、こ、これは速すぎるぞおおぉおお!」


「ほらほら領主様しっかり振り下ろされないようにね~」


「お、おいロイエ。いくらトイとジェンの叔父と言ったって領主様なんだから丁重に」


「え~? でものんびり走ってたら馬と変わんないし」


 ロイエのユニコーンと並走しながら、ロックが心配そうに言うが、ロイエはそんな事は何のそので、その脚を緩ます様子はない。

 その姿に苦笑するトイである。


「と、というかそもそも私はもともと馬術は特異ではないのだ!」


「いや、ただ私の後ろに乗ってるだけじゃないですか~う~ん、それなら私にしっかり掴まってくださいよ~落ちても責任とれませんし~」


「いやだからロイエ、それは」


「こ、こうか!」


 するとダグラスも藁にもすがるといった感じに手を伸ばし――むにゅっとスポンジのようなソレに食い込む指。


「いやん、伯爵様ったらえっちぃ」


「へ? い、いや違う! こ、これは!」


「うわ、伯父さん最低」


「な!? ジェンお前まで何を!」


「まぁいいです。じゃあそのまましっかり掴まっててね~速度上げるよ~皆~」


「え? ちょちょ、ちょっと待て! うぉ、うぉおぉおおおぉおおおぉお!」


 こうして一行は、半ば無理やりダグラスをユニコーンの背中に乗せたまま再び村へと戻っていった。


 そして村に戻るなり、約束通り村長に挨拶に向かうと、まさかこんなに早く戻るとは! とかなり驚かれた。


 が、取り敢えず零も必要なものを用意し、そして、ダグラスと村長を連れて目的地へと向かった。

 ミルフォード山脈の麓の森である。


 そして――






「……なんと、これが見せたかったというものか――」

「こ、こんなところで、まさかこんなものが育っているとは……」


 そこは森の中の一部が開墾されたところであった。

 丸太で作られた小さな小屋が設置され、その横には小さいながらも手入れの行き届いた畑が存在している。


 そして――これこそがガイアルの意思であり、零が叔父と村長に見せたかったもの。

 畑には既に彼にとっても見慣れたそれがすくすくと成長を遂げていた。


 零もこの異世界に来る前からよく知る稲がである――

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