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魂戟のソーマ~異世界憑依譚~  作者: 空地 大乃
第三章 レンジャーへの道編
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大地のガイアル

「うがぁああぁあああぁあぁあ!」


 獣のような咆哮が鳴り響いた。

 あのガイアルから発せられたものだ。

 今のガイアルにあの時のイービルの姿を零は重ねる。


 邪獣の影響を受けた人間の狂気――ただ以前のロックの話では、邪気にあてられて変貌するのは心に闇を持っている場合だけだった筈。


 つまりそれでいくと、彼は闇を持っていたという事になるのか?

 しかしそんなことを悠長に考えている場合ではなかった。


「トイ! とにかく自分の身を守ることを最優先させろ!」


「ロイエ! トイの援護をお願い!」


 ロックとジェンの叫びが重なり、ロイエもこの時ばかりは緊張した面持ちで頷いた。

 零も頭を切り替え狂気に飲まれたガイアルの所為へ心魂を預ける。


 その瞬間、ガイアルのソーマが完成した。

 ガイアルから零達へと続く大地が、波のように激しくうねりだす。


 思わずバランスを崩しそうになるがそこはグッと堪えた。

 すると今度は、ガイアルの両手の動きに合わせて地面が盛り上がり、巨大な岩の手を作り上げ左右から全員を押し潰しにかかった。


 まさかここまでとは! と思わず心魂を冷やす思いの零だが、迫り来る右の手をロックが巨大な斧で粉砕、左の手はジェンが大剣で斬り刻んだ。


 このふたりは確かにレベルが違うが、ロイエもガイアルがソーマを発した直後の隙を見逃してなるかと、瞬時に弓を引き、容赦なく頭蓋目掛けて矢を射った。


「え!? ロイエさんそれだとあたったら死んでしまいますよ!」


「当たり前だろそんなの、こっちは殺す気でやってんだ!」


 いつもとガラリと変わった口調にも、そしてその言葉にも、零は驚きを隠せない。


 だが、同時にガイアルに迫った矢は、迫り上がった土の壁に阻まれ命中することなく終わった。


「チッ! 切り替えが速い!」


「え、え~と」


「トイ、これはあの時のイービルとはわけが違うんだ。ガイアル程の使い手が狂気に飲まれたなら、俺達に出来るのは奴にトドメをさしてやる事だけ。レンジャーとして被害の拡大を防ぐためにも、ここで食い止めなきゃいけない」


 ロックの台詞には迷いがない。その言葉に嘘もない。

 そしてそれは、何も言わず飛び出し、ガイアルに向けて大剣を振るうジェンも一緒なのだろう。

 

 なまじガイアルが優れたレンジャー故、イービルのように気を失わせて等といった事は不可能。

 そう判断し、ジェンも容赦なくその刃で倒しに掛かっているのだ。


 ジェンの大剣が土壁に喰い込む。錬で強化された刃はガイアルの土の防御に剣戟の跡を刻み込む。

 だが、それはガイアル本人までは届かず。

 

 かと思えば、彼の生み出した土の壁がハリネズミのように突起し、ジェンを狙った。


「お姉ちゃん!」


 思わず叫ぶ零だが、ジェンは反射的に後ろに飛び退き、その一撃は躱した。

 ほっとする零だが、直後今度は突起した部分が弾けたように射出され、土から岩の槍に変化したそれが四方八方に飛び散った。


「チッ! こんなものまで!」


 忌々しそうに顔を歪めるロックだが、ロイエや零より前に出て、迫る岩の槍を全て斧で叩き落とした。

 勿論ジェンも軽快な動きで全て躱している。

 だが表情は真剣そのもの。

 余裕など全く感じられない、少しでも気を抜いたらやられる――これはそういった戦いだ。


 だからこそ――命のやりとりは避けられない。


 そしてガイアルの攻めは途切れることがない。 続けて練り上げられたソーマにロックの表情が驚愕に満ちる。


土人形(ゴーレム)か! あんなものまで創りだすとは!」


 ガイアルの周囲に、土で出来たまさに人型の人形――大きさはどれもロックと同じぐらいのそれが、合計六体生み出された。


 そのゴーレム達はまるで意志があるかのように動き出し、ジェンに二体が、ロックの方に四体が迫る。


「チッ! ロイエ! トイをしっかり――」

「僕も戦えます! いや戦いますロックさん!」


 零の訴えにロックが一瞥してくるも、直ぐに向かってくるゴーレムに顔を戻し。


「……そうだな、だが無茶はするなよ!」


 ロックの返しに、はい! と気合を入れて応える零。


 ジェンも零の方を気にしている様子はあったが、目があった一瞬に軽く頷くのが見えた。

 零の真剣な表情に、弟としての零ではなく、漢としての零を見たのかもしれない。

 

 迫るゴーレム二体に、男顔負けの勇猛さでジェンが挑みかかる。

 ゴーレムの攻撃方法はその頑強な両腕を使用した殴打。

 弧を描くような右の拳がジェンに迫るがそれを上体を低くして回避。

 

 そのまま滑りこむようにゴーレムの側面に移動し腰を回転させ遠心力を活かした斬撃が人で言う脇腹のあたりに抉りこまれる。

 

 しかしゴーレムは命を持たない土人形だ。例え斬られたところでダメージはない。

 ジェンもそれはよく理解しているのだろう。

 攻撃はそれだけではとどまらず、刃を胴体に食い込ませたまま、ぐるりと廻るように疾駆し、ゴーレムの身体を上下に分断した。


 一方零達だが、迫るゴーレムの内の一体にロイエの放った矢が次々と命中したかと思えば、その直後爆散して粉々に砕け散った。


 何事かと一瞬目を丸くさせる零であったが。


「爆灼岩付きだよ~。キラウェアから入ってきてる爆発する岩なんだよね~」


 元の口調に戻ったロイエが言う。

 そんな物もあるのか、と感心する零だが、まだゴーレムは残っている。

 

 ロックが既に二体を相手にし斧で次々と粉砕していた。

 しかしもう一匹が零達に迫ってくる。

 自分も負けていられないと、零はジュードに願いを込め刃の如き竜巻を起こし、残った一体を見事に切り刻んだ。

 

 ジェンの方も最後の一体を一刀両断に斬り伏せている。


 ゴーレムを創りだした彼の実力は確かに凄い。

 レンジャーに一目置かれる存在だけある。しかしゴーレムは動きが鈍く、ある程度ソーマを使いこなすものからすればそこまで脅威にはならず、またロイエのような道具を使って破壊することも可能だ。


「狂気に支配されている分、冷静さには欠けているか……これなら――」


 ゴーレムが全て片付き、ロックがガイアルを見据え武器を構え直す。


 だがその時、再びガイアルが叫びあげ、同時に体全体からどす黒い何かが吹き上がるのを零は捉えた。


 それは恐らくロイエには視えていないが、ソーマ士であるロックとジェンには、零と同じように視認できていることだろう。


「やべぇ……完全に邪気に飲まれやがった」


「ソーマが明らかに暴走しているわ……」

 

 邪気に飲まれるという意味を零は当然知らないが、しかし見ているだけでも、なんとなくそれは察することが出来た。

 ガイアルから吹き上がる何かが彼自身を飲み込み、そしてその眼に宿る狂気が兇気に変わる。


 そして――ガイアルの足元が大きく隆起し、かと思えば地面が膨張しガイアル自身を飲み込んだ。

 

 いったい何が? と零が目を凝らしていると、ガイアルを飲み込んだ土塊が形を変え、先ほどとは比べ物にならないほどの巨大なゴーレムに姿を変えた。


 山のように巨大なとは正にこのことを言うのかもしれない。

 天井につくほどの、それでいて幅が広く分厚い怪物。

 その空の全てが、土から頑丈そうな岩に変化している。

 ガイアル本人は、そのゴーレムの中に取り込まれているような状態であり、堅牢なそれはまさに動く要塞ともいえる代物だ。


 しかし、その出来上がったばかりの岩の要塞が動き出す前に、射られた矢弾が数発命中し爆発した。

 ロイエが放った爆灼岩付きの矢だ。


 だが――先ほどのゴーレムと大きさが違いすぎる。

 僅かに体の表面が多少窪みこそしたが、そんなもので怯むようなたまでもない。

 それどころか損傷箇所は瞬時に土が重なり岩と化し修復される。


「ちょっとこれってまずくな~い?」


 たらりと汗を頬に伝わせロイエが言った。

 かなりの動揺が感じられる。


「まずくてもなんとかやるしかないでしょ!」


 声を上げ、側面からジェンが巨大なゴーレムに迫り、足から腰、腰から胴体、胴体から頭へと駆け上がりながら次々と斬撃を叩き込む。


 しかしゴーレムは全く怯む様子も見せず、それどころか先ほどガイアルが見せたように、突如全身を突起させ、岩の長大な槍を創りだす。


「くっ!」


 流石にジェンは反応が良く、岩の身体を蹴りあげ空中に逃げるが。


「マズイぞジェン! 次が来る!」


 そう、あれには続けての第二波がある。そして直後岩の槍が放たれ、空洞内のあちらこちらに巨大な穴を穿っていく。


 それはまるでバリスタ()による一撃の如く破壊力を秘めていた。

 しかも先ほどとは違い、おおよそ死角なしといった具合に全方位に射出されたのである。


 当然だがまともにいけば零やロイエも無傷では済まされない――が。


「ロックさん!」


 思わず零が叫ぶ、ロイエも、ちょ! ロックちん! と悲鳴にもにた叫び。


 ふたりの正面には仁王立ちのロックの姿。

 彼がその身を呈して、岩槍からふたりを守ったのだ――

 

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