鉱山へ――
次の日の朝は皆で簡単な朝食を済ませ、預けていた武器を受け取りに行くところから始まった。
ただ、やはり零が一緒にいきたいと願いでても、ジェンによって阻止され、零は素直に宿で留守番して待っているという話になったのだが――
(だからって黙ってもいられないよな……)
そう思いつつ、ある程度時間が過ぎるのを待った。
尾行という手も思いついたが、冷静に考えたら、あの三人にそんな手が通用するとは思えない。
なので作戦を変更。そろそろ鉱山に辿り着いたかな? と思えるタイミングを見計らって、零は宿を飛び出し、城と鉱山とを繋ぐ門の前まで行く。
「なんだ昨日の坊主じゃないか。どうかしたのか?」
「う、うん、ちょっと叔父さんに会いに行こうと思って」
零が少し可愛らしさを強調しながらそう伝えると、ふたりの門番は、叔父さん? と顔を見合わせた。
ちなみに今は鍛冶の音もそこまで喧しくもない。どうやら時間によって波があるようだ。
「フォーグ伯爵の事だよ。僕とジェンお姉ちゃんの叔父さんなんだ」
「え? 伯爵と? 本当かよ!」
「あ、でもそういえばそんなような事も聞いたような……」
ふたりの門番は、甥と姪が来るということに関してはそこまで詳しくは聞いていないようだ。
だが、少しでも覚えがあるならそれで押せそうである。
「そうなんだよーだからお兄さん、ここを通してもらっていいかな~?」
零の問いかけに、どうする? と一人。
「一応許可とった方がいいんじゃないか?」
やはりそういう話になるか……と頭を悩ませつつ。
「でも昨日は通してくれたよね? 叔父さんも門番に言えば、いつでも通れるようにしておいてくれるって話だったし」
「伯爵が?」
「聞いているか?」
「いや……ただ忙しい人だからな。うっかりしていたのかもしれないな」
「そ。そうだよ! きっとうっかりしていたんだよ!」
ここぞとばかりに零はふたりに同調するように話す。
すると顎に門番の一人が手を添えた。
「そうかな……う~ん」
「まぁでも、問題ないんじゃねぇか? 今回の関係者なのは確かだしよ。駄目ならそもそも城に入れないだろ?」
「……まぁそうだな」
零は身魂でガッツポーズを決める。
「ほら通っていいぞ。但し鉱山の方には近づくなよ?」
「うん、大丈夫だよありがと~~」
零は門番に手を振りながら先を急いだ。
勿論その脚の向けられた先は、城ではなく鉱山なのだが――
「へ? 伯爵から頼まれた?」
町の門番は何とか乗り越えられた零だが、第二関門として、鉱山の入り口の問題もあった。
何せこの道だって今は本来封鎖中。
そして当然ここに番をしているものがいる。
格好は入口前のふたりと殆ど一緒だ。腰に小剣を吊しているのが違うぐらいか。
一応事件の起きた現場なので、その事を考慮しているのかも知れない。
とはいえここを乗り越えなければ皆と合流ができない。
なので零は、伯爵をだしにしてこの場を切り抜けようと目論んだわけだが。
「いや、しかしいくら甥だからって、こんな子供に頼み事するかね?」
「で、でも先にいったレンジャーと僕は一緒にきてるわけだし、お姉ちゃんも中にいて、この事を伝えないと大変なんだ!」
「う~んしかしなぁ……」
やはりここは簡単にはいかないか、と溜息を付く零。
こうなっては仕方がないと。
「叔父さんが僕にお願いしたのは、僕がソーマ士だからだよ! お兄さんたちだって知ってるでしょ? ソーマ士は?」
するとふたりは顔を見合わせ、
「ソーマ士?」
「嘘だろ?」
と口にする。
これはやはり見せないと納得してくれないなと、零はそこら辺に落ちていた岩石を握りしめ、錬による強のソーマでそれを粉砕した。
「すげぇ!」
「ほ、本当にソーマ士かよ!」
ふたりとも目をパチクリさせて驚いている。効き目はばっちりといったところだ。
「それじゃあ通っていい?」
「……う~んまぁそういうことなら仕方ないか」
「でもあんま無茶するなよ坊主」
そういって坑道入口の門も開けてもらうのに成功した。
「うん、ありがとう。ただね、一応僕ももう準成人ではあるんだからね!」
そう言い残し、零は鉱山の中へと駆けていった。
そんな彼の後ろ姿を眺めながら、それが一番驚きだ、と背中を見送るふたりに呟かれていたなどとは知る由もない――
鉱山の中は、現場が既に稼働してないこともあり薄暗かった。
更に横穴は結構入り組んでおり、地図なんかもないので、皆の後を追うのに苦労する。
そこで零は思い出す。自分には役に立つ力があるではないかと。
適当な土壁に背中を預け、そして魂を放出させる。
この状態であれば、壁をすり抜けて進むことが出来る分、見つけるのも早く済みそうだ。
零は入り組んだ隧道を壁抜けの力を活用しながら、音にも意識を集中させて、縦横無尽に飛び回る。
するとその内、何か戦いを感じさせる音をその魂の耳で聞き取った。
零は急いでその場所へ向かう。
すると一つの大きな空洞に抜け出た。掘ってできたものというよりは自然に出来たようなそんな場所。
そしてこの空洞を作り上げたのが、目の前の化け物であることは零にもすぐに理解が出来た。
それは巨大な土竜のような化け物であった。トイの記憶にも全く出てこない異様な存在――
直感ではあるが、それが邪獣ではないかと、そう思えてならなかった。
それが土竜と異なるのは、やはり大きさであり、体長は軽く三メートルは超えそうだ。
視力が弱いのは土竜と一緒なのか瞼はほぼ閉じられている。
前肢には長く鋭利な爪を生え揃えており、そして胴体に関してはまるで茶色い鱗のようなもので覆われている。
そのせいか耐久力はかなり高そうだ。
その化け物相手に三人が戦いを繰り広げている。
零はそれを認めてすぐに、身体のある場所まで戻った。
そして速攻で憑依しなおし、頭で描いたルートにそって駆け出す。
魂の状態でみた空洞までは一五分ぐらい掛かっただろうか。
零は目的の場所までたどり着く少し斜面になっている場所を滑り降り、そしてロックとロイエが並んで立っているところまで駆け寄る。
「ロ、ロックさん!」
零が声を上げると、ロックはぎょっとした顔で振り向いた。
「な! トイどうしてここに?」
「え? あ、いやそのどうしても心配で……きちゃいました」
零はよく考えたら皆への言い訳は考えていなかったことを思い出した。
だが、もう誤魔化しても仕方がないので、そのままの思いを伝える。
「きちゃいましたって、あのなぁ」
ロックが弱ったように頭を擦った。
「でもぉ、私のためにトイちん来てくれたんだ~
よ~し! サービスしちゃうぞ!」
「いや! お前状況考えろよ!」
「そ、そうだ! で、どうなんですか? 化け物は倒したんですか?」
「ん? あぁまぁ、こういっといてなんだが、もう心配は……て、トイよく化け物がいるって判ったな?」
零は、あ!? と右手を口に持っていく。
確かに空洞と言っても端から端まで見渡せるわけではなく、今ロックとロイエが立つ位置には巨大な岩がズドン! と置かれていたりもする。
その為、今零がきた方向からではその姿は見えない筈なのであるが――
「いや! なんか音が聞こえたんで!」
「へ~耳いいね~トイちん」
ロイエに褒められ誤魔化すように照れ笑いを浮かべる。
「うむ、まぁとはいえ化け物というか、トイもよく知ってる邪獣だけどな。まぁでも、今いったようにジェンがもう片付けるだろ。折角ここまできたんだ、お姉ちゃんの凄さを見ておくといい」
零はさっきみた邪獣の姿を思い浮かべつつ、あれを一人で? とそう心魂で呟きながら、前に出てジェンの勇姿に目を向けた――
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