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魂戟のソーマ~異世界憑依譚~  作者: 空地 大乃
第三章 レンジャーへの道編
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鍛冶と鉱山の町ミルフォード

 ミルフォードはフォービレッチ王国の領地で尤も東方に位置する町だ。

 町と隣接する東側にはルフォード山脈が聳え立ち、その一部が鉄鉱石の採れる鉱山として重宝されている。

 その為、この町ではフォービレッジ王国では珍しく鉱夫や鉄器を作り鍛える鍛冶師の数が非常に多い。

 零の知識では、王国でこのルフォード山脈の鉱山が鉄鉱石の採れる唯一の場所であり、他国との交易以外では、このミルフォードの町の鉱夫が王国内での鉄の生産を一手に担っている。

 またルフォード山脈では良質な石材が手に入ることでも知られており、その為か町に建つ家屋もギザの港町と異なり石造りの建物が多い。

 周囲を囲む壁も石造りだ。


 これらの石材加工や鉄の精錬技術は、セドナ島東のキラウェア王国との交流会などにより発展していった部分も大きいと聞く。

 なにせキラウェアは鉄鉱石の採掘量はこのセドナ島一で、しかもかなり質の良い鉄が取れることで有名だ。

 そしてこの町でも比べ物にならないぐらいに、鉱夫と鍛冶師の数が多い。

 今でも、あの王国の技術力にはまだまだ及ばねぇ、がここミルフォードの町に暮らす職人の口癖のようだ。

 

 そんなミルフォードは町全体としてみればギザの港町よりは一回りほど大きいが、家屋の密集度が低いせいか、全体的には開放感のある広々した町並みである。


 勿論暮らしている人のため、市場なども開設されてはいるが、それでも活気に関してはギザほどではない。


 そしてフォービレッジは、橋を超えた東側は外側が山に囲まれ、海沿いに港を作るに適した場所がない。

 活気の違いはこの辺の差も大きいのかもしれない。

 だが、それでもかつては小さな舟を漕いで沖までいき、漁をするものはいたようだが、今となってはそれも廃れている。

 

 理由は明白だ、今は必要な物は西から運んでもらえるからだ。

 以前は魚などはそのまま運ぶには傷みやすく中々難しかったが、先代の王が北のジャスタ大公国と交易を結ぶようになり、永久氷石という特殊な氷も入ってくるようになった。

 これは非常に冷たい氷石であり、木製のボックスに入れておくことで零のいた世界の冷蔵庫やクーラーボックスと似たような働きを齎すことができるようになる。


 尤も永久といっても、これは比喩的な意味合いであり、実際はここフォービレッジ王国の気候であれば、常温で一ヶ月程度持つ氷石である。

 しかしそれでも流通形態に革命を起こすには十分すぎる代物であった。


 そしてその恩恵がフォービレッジ東側の町でも得られるようになり、比較的生鮮なまま食材が運ばれるようになったわけである。


 まぁそんな事情もあり、結果的にこの町は鉱山での採掘がメインに、領内の村々も穀倉地帯として栄え、実りある生活を営んでいる、が、ただ零がこの世界に辿り着く前に起きたといいう、大嵐の影響で特に今は南側の村が壊滅状態に近いとも聞く。


 ただこれは余談であり、今回の依頼とは関係がない。今回尤も重要なのは――その王国唯一の鉱山が謎の現象により封鎖に追い込まれているということである。


 

 



◇◆◇


 町に着くなりレンジャー協会に向かった一行だったが、そこで言われたのは、先ずは領主様に会いに行って話を聞いてくれという事であった。


「とりあえずは~領主様のお城に向かわないと~いけないみたいね~」


 ユニコーンの上から、砂糖にミルクをたっぷり掛けて最後に蜂蜜で割ったような甘ったるく妙に舌っ足らずな声が落ちてくる。 

 

 それにジェンが振り返り、まぁそうだけどね……と若干表情に影を落とした。

 これが仕事である事は来る前からわかりきっていたと思うが、それでも久しぶりに会う叔父に戸惑いが隠し切れないといった所だろう。


「フォーグ伯爵の居城は、東の門を抜けて山道を上った先にあるな。とはいっても既にあそこに見えてはいるが」


 言ってロックが指をさす。確かに山の岩場の上に城が見える。

 フィード山脈の一部を切り開き建てられた城である。

 とはいってもこの町を望める位置に建てたのは、ふたりの叔父であるフォーグ伯爵というわけではない。


 あの城はもっと昔に造られたものだ。手入れは行き届いているのか、古びた様子は感じさせないが、かつてはここフォービレッジ王国も東と西で分かれ、熾烈な争いを繰り広げていたこともある。


 山の上に佇む城はその戦乱期の名残らしい。尤も必要最低限の物を残し他は壊され各地の開発の材料として使われたらしいが。


「ここから先はー! 封鎖中であるー!」


 一行が東の門の近くまで行くと、衛兵らしき人物が二人、手持ちの鉄の槍をお互いに交差させ、そんな事を言ってくる。


 怒鳴るように口を大きく広げているが、別に怒っているのではなく、周囲の建物からトンテンカンテン――トンテンカンテン、と甲高い音が鳴り響き続けているからであろう。

 さすが王国で唯一鍛冶の盛んな町だなと零は思う。


 衛兵らしき二人は、鍛冶が盛んな町らしく鉄製の胸当てに半球状の兜といった出で立ちだ。

 雰囲気的にはレンジャーともまた違いそうである。

 私兵として雇われているのかもしれない。


 それにしても音は確かに煩い。あまりに強烈な為か、ユニコーンの上のロイエは笑顔は絶やさず、しかし両手の人差し指で耳を塞いでいるが。

 

「我々はー! 協会から派遣され赴いたレンジャーだー! ここの支部で尋ねたらー! 直接フォーグ伯の居城に向かってくれと言われー! ここに来てるー!」


 対応は満場一致でロックにお願いすることになった。

 この中で一番声が大きそうだからだ。

 そして実際かなりデカイ。


「おー! お話はお伺いしているー! そうかー! いやー! 確かに強そうだー! ただ女性やー! 子供のような者までいるとはー! 驚きだがー!」


 衛兵が目を丸くさせ、まじまじと全員を眺めながらロック以外に関して意外そうに口にする。

 まぁ零に関しては、建前は叔父に会いに来たというだけなのだが、説明が面倒に思ったのかロックはその辺は上手く誤魔化した。


「どうぞお通りくださーい! 鉱山の件は町の皆も困っていてー! 出来ればー! 早く解決してもらいたいところー! フォーグ伯爵のー! 居城にいくならー! 少し進んだ分かれ道をー! 左に折れてー! 後は道なりでーす!」


 ありがとー! とロックが返しそのまま全員で門を抜けた。

 衛兵たちの言っていた通り、一〇〇メートルほど進んだところで道は左右に分かれていた。

 どうやら右が鉱山、左が城へと続いているようだ。


 ロックは衛兵に言われた通り、左に折れて更に進む。麓の方は木々は豊かだ。山道というよりは林道といった感じである。

 道もそれなりに広いので、ユニコーンに乗ってるロイエも十分余裕がある。


「ねぇトイち~ん、青姦って興味ある~?」


 道の途中でロイエがユニコーンから落ちた。いや落とされた。勿論ジェンの手で。

 

「ここからは少し急だな。ロイエも気をつけろよ」


「チンチンは大丈夫だよ! 精力半端無いし!」


 ユニコーンがヒヒーンと鳴いた。

 しかし精力は関係ないだろと零は心のなかで突っ込む。


 とはいえ確かに急だ。居城への道は崖に隣接して設けられており、右側は断崖で左側は脚を滑らせでもしたら崖下に真っ逆さまという本来は険阻な道である。

 ただ、今はある程度まで上ったところで転落防止用の柵が備わってはいる。 

 勿論これは戦乱期には無かったもので、国が平和になってしばらくしてから設置された物らしい。


 ただやはり斜面はかなり急だ。一般の人間なら城までいくのは一苦労だろう。

 まぁだからこそ、馬車一台が通れるぐらいのスペースは確保されているのかもしれないが。


 城に向かう途中には戦乱期の名残もところどころに見受けられた。

 崖から突き出た岩場などが何箇所か存在するが、戦が頻繁に起きていた頃はそこに兵が潜み、弓矢やソーマ、場合によっては落石等を起こし敵の侵入を防いだらしい。


 まぁそれも今となっては無用の長物と化してしまっているようだが。


 そのような過去の産物を眺めながら山道を歩み続けていると、間もなくして城の所在する造成地まで辿り着くことが出来た。


 改めて見ると中々立派な城である。城壁もしっかり築かれていた。

 そして門の前で再び衛兵らしき人物が二人。

 ただ彼らは麓の衛兵より厚い装備で身を固めていた。

 つまり全身鎧といった様相である。


 ただロックの姿を見たことで誰が来たかは察しがついたようだ。


 すぐ前を開けるようにし、

「ようこそフォーグ城へ!」

と二人同時に声を上げた。


 するとガラガラと何かが巻かれる音が其々の耳に響き、門が上へと持ち上がっていく。

 滑車を利用した作りのようだ。


 そして門を抜けると、中では執事の格好をした初老の男が立っており恭しく頭を下げてくる。


「ようこそおいで下さいました。さぁ旦那様がお待ちです。どうぞこちらへ――」


 こうして一行は執事に案内されるまま、早速フォーグ伯爵の下へ赴くのだった――

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