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魂戟のソーマ~異世界憑依譚~  作者: 空地 大乃
第三章 レンジャーへの道編
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もう一人の仲間

「おいおいどうなってんだ? なんでトイまでいやがる。まさかお前ら、今回の任務にトイを連れて行く気じゃないだろうな?」


 あの話が終わってから次の日の早朝、協会の建物に入り、カウンターに向かった三人に向け、開口一番ドムがいい放つ。

 その目は怪訝に満ちており、そして勘弁してくれという思いも感じられる。


 どうやら姉のジェンがいっていたように、まともに話していたなら、この様子を見るに零の意見などとり合ってもらえなかっただろう。


「違うわよドム~トイは~叔父さんと久しぶりに会えるからって~街まで一緒に付いてくるだけよん」


 ジェンが応えた。気のせいか声が弾んでる。

 よっぽど零と一緒に旅に出れるのが嬉しいのだろう。


「その機嫌の良さが怖いよ俺は……まぁでもそういう事なら判ったが――」

 

 ドムは一応納得はしてくれたようだが、眉間に皺を寄せ、難しい顔も見せ始める。

 何かを悩んでるようでもあるが。


「どうしたドムそんな顔して? トイが街まで同道するのは特に問題ないだろ?」


 ロックがドムの様子を訝しく思ったようで、確認するように問いかける。


「あぁ勿論それはな。協会は別にそんな事まで禁止にしたりしないさ。ただな……まぁいっか、それはお前らに任せる。俺の領分じゃないしな」


 ドムの言葉に三人が不思議そうに顔を見合わせるが。


「よくわからないけど、依頼自体は急ぎだろうから今日このまま出ちゃうわね」


「あぁ。だけどちょっとまってくれ。今回の任務はもう一人一緒に請けたのがいる」


「うん? もう一人?」


 そこでロックが眉根を寄せた。ジェンも目をパチクリさせてる。

 どうやら初耳らしい。


「昨日はいってなかったわよねそれ?」


「ん? あぁそうだな。正式に決まったのがお前らと話し終わってからだったからなぁ。でもまぁふたりともよく知っている奴だしな」


「俺達が知っている?」


 ロックが確認するように口にすると、ドムは大きく頷き。


「あぁそうだ。で、まぁトイの件はそれがあるからちょっと心配かなと――」

「おっはよう~~~~! あ、ドムちん、どう? もう皆来てる~~?」


 と、そこへ突如建物内に広がる明るい響き。

 ドムが、噂をすれば……と呟き、一体誰かと三人が一斉に振り返る。


「て! ロイエじゃない!」

「もう一人って、お、お前かよ~~!」


 ふたりが驚いたように叫びあげる。


 するとそのエメラルドグリーンの髪を湛える女の子は、チャオ~と音符でも混じってそうな声音で軽く返事する。


「うん、きてたきてた~、ジェンたんもロックちんも元気そうだよね~」


 恐らくドムのいっていたもう一人らしい女の子は更にそう言葉を続けた。

 妙な呼び方が気になるところでもあるが――


 そして――同時に蘇る零の記憶。

 この娘、そうこのロイエという女の子には見に覚えがあったのだ。


 あれは確か零が最初にこの世界で目覚めた時。まだ憑依も知らず魂だけの状態で狼狽えていたあの時。

 零の前にひょっこり現れた女の子。結局零には気がつく事はなかったが、突如ゴブリン三体に襲われるもあっさり返り討ちにした、あの娘である。


 それにしても改めて見ると、髪と同じ緑色の虹彩をもつ瞳はぱっちりと大きく、どっちかというと小柄な体躯。


 しかしその割に銀色の胸当ての上からでも判るボリューミーな双丘。

 胸当ての下に着衣している内服も薄めで、白い肩を惜しみもなく披露し、革製ぽいスカートも襞のある妙にひらひらとしたもので。しかも太ももが顕になるほど短く、脚のブーツも足首より上は黒い編み型の作りで、なんというか全体的にとても扇情的だ。


「ふたりとも久しぶりだよね~いやぁ一緒に仕事が出来るなんて嬉しい限りだよ~」


 明るい声が室内に広がる。コロコロとした笑顔は人懐っこそうで、誰からもかわいがって貰えそうなそんな雰囲気がある。


「あれれ~?」


 その時、ロイエが目をまん丸くさせ、零に着目した。

 トイの記憶では彼はこの子にあったことがない。


「この子ってもしかして噂の~?」

「わ、私の弟のトイよ」


 何故かジェンはどこか不安そうな顔で零を紹介した。

 するとトコトコとロイエが近づいてきて零の目の前に立つ。

 彼女は小柄とはいえ、今の零に比べれば背は高いため、少し見上げる形になるが。


「あ、あの、トイ・シャイルです。初めまして」


 とりあえず無難に頭を下げて自己紹介するが、すると、へぇ可愛い~と腰を屈め彼女が目線を合わせ――


「んぐぅ!?」


 思わず目を見開く。目の前に彼女の顔があった。それこそ不自然なほど近くに。

 そしていくら感覚のない零でも判る。彼女がいましたこと。


 唇を奪われたのだ――


「な、何してくれてんのよロイエぇええぇええぇえ!」


 そこへジェンの絶叫。大きく踏み込み、ロイエを突き飛ばそうとするが、彼女はそれをいち早く察したのか唇を離し、ヒョイッとその所為を翻すようにして躱した。


 かなり身軽のようだが、零は最早それどころではない。

 心魂がグラグラする思いだ。

 正直わけがわからない。

 そして、ふと視界に映ったドムとロックが頭を抱えていた。


「そんな怒らなくたっていいじゃない? 挨拶みたいなものだし~減るもんじゃないし~」

「減るのよ! あんたの汚れた唇で! 私の大事なトイが汚れたの! あ~~~~ん! 私だって口になんてしたことないのにぃいいい!」


 姉がとんでもない事を口走っている。聞かなかった事にしようと思う零である。


「え~そうなんだ~もしかしてトイくん初めてだった? うふっ、初物ゲット~」


 初めて口を利いたが、間違いなくとんでもない女だと零は思った。

 ドムが困ったような顔をしていたのもこれで理解した。


「まぁとにかくなんだ。今回任務についてもらうのはお前たち三人だから、よろしく頼むよ」


 ドムがやれやれといった表情で纏めに入る。

 だがジェンは納得がいっていないようだ。


「冗談じゃないわよ! こいつが一緒だなんて! トイが孕まされたらどう責任取るのよ!」


「お、落ち着けジェン! 男は子を孕まない!」

「この女なら可能性はあるわ!」

「え~どうかな~?」

「いや否定しろよ」


 この会話に色々と先行きが心配になる零である。






◇◆◇


「全くこうなると判ってたら連れてなんて――」


 協会を出てからもジェンがぶつぶつと文句を言い続けていた。

 零はというと、流石に落ち着きを取り戻したが、ロイエに近づかれると自然と距離を置くようにもなってしまっている。


 可愛い子に迫られるなんて事は正直男の夢とも思っていたが、いざその立場になるとこんなにも腰が引けてしまうものかと改めて実感した。


「それにしても、なんでお前までこの仕事に選ばれたんだ?」


「あれれ~ロックちん聞いてないの?」

「聞いてないしその呼び方はやめろ」


 ロックが唸るように言う。


「今回の件って私がたまたまミルフォードにいたから~それでね、事件を知って応援を要請して欲しいって頼まれたんだよ~」


 しかし妙に舌っ足らずな喋りをする子である。


「そういう事……でもなんであんたミルフォードなんかに? 仕事?」

「ううん。男を喰いにだよ~」

「聞いたあたしが馬鹿だったわ」


 可愛らしい顔からは想像もつかないような台詞にジェンが溜め息を吐き出す。


「あ! ところでトイちん~」

「弟に変な呼び方するな!」


 ジェンが叫ぶようにいう。


「え? な、何?」


 そしてつい身構えてしまう零である。


「トイちんって童貞?」

「死ねこの尻軽女!」


 ジェンが大剣を抜いて斬りかかった。本気のようだ。いやあたったら仕事の前に死んじゃうよ? と心の中でツッコミを入れる。


「まぁあのふたりはいつもあんな感じだ」


 ロックが呆れたようにいった。

 零も呆れたようにふたりの姿を眺めるのだった。


 何はともあれ、この四人でミルフォードまでの旅を進める事となる。

 そのことに、そこはかとなく不安を覚える零でもあった――

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