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魂戟のソーマ~異世界憑依譚~  作者: 空地 大乃
第三章 レンジャーへの道編
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帰還と祭り

更新が遅れて申し訳ないです

「全く只のマウンテンボアの駆除の筈が、どうしてこうなった」


 町に戻り、協会に戻ってから事の顛末を話したふたりを眺めながら、支部長のドムはこれみよがしに大きな溜め息を吐き出した。


「まぁいろいろと問題はあったが、一応は全て解決したわけだしな。そんなに難しい顔するなって」


「ばっきゃろ! こんな報告を受けて、はいそうですか、で済ませられるわけがないだろうが!」


 ロックがドムに怒鳴り返された。

 しかしこればっかりは別に誰が悪いわけでもない。

 いやはっきりといえば裏取引をしていたあのレンジャー達が一番悪いのだが。


「ふぅ、先に依頼を受けていたレンジャーがコボルトを攫おうとし、それを知ったお前たちで連中の隠れ家へ侵入、その上で乱戦となり四人のレンジャーは死亡。ソーマ士でもあるジェシカは骨を外し動けなくして村の牢屋に囚えている……みればみるほど頭の痛くなる報告だぜ。来月の支部長とマスターを交えた定例会議で何を言われるかと思えば頭が痛いよ」


 今回の事件、やはり一番彼が頭を悩ませているのはレンジャーが犯罪に手を染めたという事実らしい。

 本来レンジャーは人々の助けになるために活動している筈なのだが、その協会に登録している人間が、悪事に手を染めたとなると、立つ瀬がないのであろう。


「……まぁふたりに文句をいっても仕方ないのは確かだけどな。ロックの判断も基本的には間違ってない。王都にしっかり書状も送ってるしな。後はこっちはこっちで向こうからの連絡を待つだけだ。まぁ俺からしたら針の筵って感じだけどな」


 その言葉にロックは肩を竦める。


「ただな。トイの事だけは感心できねぇぞ。そんな危険な任務に同行させるなんてな。いっておくがこの案件、本来ならレンジャーでも相当な腕利き連中が、隊を組んでやっと熟せるかといったところの代物だ。何せ相手だってかなりの腕前でソーマ士だって紛れてるんだ。まだレンジャーにもなっていない、あくまで見習いとして連れて行ったもんに任せるような仕事じゃねぇ!」


「いや、それは確かに、ちょっと反省してる」

「猛烈に反省しろ!」


 それには零も責任を感じ猛省した。

 何せ着いて行きたいと望んだのは自分でもある。


「いや正直トイがあまりに優秀でな。腕利きのレンジャーでなんとかという話だが、正直今のトイの実力は、その腕利きといっているレンジャー以上はあると俺は思っている」


 その言葉にドムは目を白黒させ、そして。


「そんなにもか?」


 信じられないといった様子で確認した。ロックは大きく頷くが零はいまいち実感がわかない。


「全く。試練まで待たないといけないってのがまどろっこしいぐらいだぜ」


「まぁそれはそういう制度だからな。仕方ないさ。それにしてもそこまで腕があるなら、もう試練は突破したようなものだな」


「いや、そんな。それに筆記試験もありますよね?」


「まぁ筆記試験なんてもんは、困ったらミコノフ様の言うとおりで決めればいいんだよ。俺はそれで通ったんだぜ?」


 ちなみにミコノフ様の言うとおりとは、零のいた世界の神様の言う通りと一緒である。

 

「トイ、筆記に関してはこいつのいうことを真に受けずしっかり勉強しておけよ。何せこいつあのマス、いやそのなんだ」

 

 しまったと口篭るドムだが。


「あぁトイはもう知ってるぞ。今回の件で話す機会があったからな」


 ドムが、なんだそうか、と腕を組む。


「でもトイ、その事は」

「判ってます他言無用ですよね」

「あぁ流石トイは賢いな」

「てか今のでドムの方が危なっかしいとおもってしまったけどな」


 ロックの言葉に確かに、と零も苦笑する。


「まぁとりあえず依頼は達成ということで報酬は払うが、ただ直ぐに払えるのは元の依頼の分だけだ。それ以外はちょっと待ってもらう事になるぞ」


「まぁそうだろうな。それは大丈夫だ」


「うむ。それと村長の件は困ったもんだな。これは俺の方から領主に伝えておく」


「あぁそれも頼んだ」


 ロックが納得し頷くと、それじゃあ、とドムが口にし。


「後は報酬だな。それじゃあ用意――」


「トイ~~~~! 戻ってきてると聞いたよ~~! お姉ちゃんだよ~どこ~トイ~~!」


 姉のジェンが猛烈な勢いで協会の中に入ってきた。

 ロックの顔が瞬時に強張り、ドムも目を細める。


「あ! トイ~~! 無事だったんだね! よかったぁあぁあああ!」

 

 音速を超えてそうな勢いで零に飛びつき床に押し倒し、ゴロンゴロン転げまわりながら頬を押し付けてくる。


 いつにもまして相当に激しい溺愛ぶりだ。

 海に出ていて会えなかった事で反動がでたのだろうと思うが、零とて久方ぶりのジェンの行為に戸惑いを隠せない。


「それでロックーー依頼はどうだったんだ~?」


 ロックは固まったように動かない。言葉も出ない。そしてドムに助けを乞うような目を向けるが。


「さて、じゃあ報酬を用意するかな。あぁ説明は自分でちゃんとしておけよ」


「え!? ちょ! ドム!」


「ん? 説明って一体どうしたんだよ~て、う~ん?」


 ジェンは一旦零から身体を離すと、カウンターの上に置いてあった報告書を手に取り、黒目を忙しそうに動かし内容に目を通していく。


「いや、あの、そのなんだ。それはな、ほらトイのやつすげぇんだぜ? ソーマの力で相手を――」


「ロック……」


 ジェンが振り返りにっこりと微笑んだ。それにロックも硬い笑みを浮かべ、な、何かな? と反応するが。


「コ・レ・ハ・イ・ッ・タ・イ――どういうことなのかなぁあぁあああぁああ!」


 その時、確かにジェンの背後に阿修羅が浮かんだのを零は感じ取ったという――






◇◆◇


 後から聞いた話だが、零とロックが町に戻ったのと、ジェンが船で港に戻ったのはほぼ一緒だったようだ。

  

 ジェンが戻ったのは明け方で、零とロックが戻ったのは昼頃とそのぐらいの差でしかなかったのである。


 それがいいか悪いかはともかく、ロックに関してはあの後ジェンから相当な攻めを受けた。

 零を危険な目に合わせたという事で、彼女の怒りもかなり大きかったのである。


 しかしそれは零も間に入ったりなどで、なんとか宥め、報酬に関してはロックはその全てをジェンに手渡そうとし、なんとか機嫌を直そうともしていた。

 

 その姿は健気でも有り、なんとも痛々しくもあったが、結局ジェンも報酬は受け取ることはなかった。


 だが、かといって怒りがそこまで長く続くこともなかった。


 これは時期が良かったとも言える。ジェンが協力した海狩り祭りの為の漁、これは結果から言えば例年通り上手く言ったらしく、それどころか今年は主以外の魚もよく取れ、かなりの大漁だったらしい。


 予定していた日程より少し帰還が遅れたのもその影響が強かったようだ。


 そして、漁が終われば町も雰囲気は祭り一色となる。

 町中に飾り立てがなされ、人々が盛大に騒ぎ歌い、飲み踊る。


 そんな楽しい雰囲気漂う中、不機嫌にしていても仕方ないと思ったのだろう。

 ちなみに祭りの準備は零も手伝った。

 勿論ドムもジェンに色々と命じられ、人一倍祭りの準備に追われていた。


 祭りの準備を手伝う中にはシドニーや、セシル、エリソンとマーニの姿もあった。

 更にミコノフ教会も協力しているのでマーリンの姿も見受けられた。


 零がロックと旅していた期間は、そこまで長いとはいえないかもしれないが、それでも彼らと再会するのが随分と久しぶりな気もして、再び顔を合わせられたことを喜んだものだ。


 そして祭りの準備も滞り無く終わり、今零達は港に特設された祭場で夕食を楽しんでいる。


「全くおまえのせいでねぇ~~! トイぎゃ! どんだけぇえぇ!」


「わ、判ったよその件は悪かったって」


「本当にわきゃってるのか! おい! 酒!」


 はいはい、とロックが召使のようにジェンに酒を注ぎ続けていた。

 見たところ彼女はもう顔も真っ赤で相当に出来上がっている。

 

 その姿に苦笑する零である。

 まぁただあの調子なら暫くロックの相手だけで一杯一杯だろう。

 

 零はそこから更にまわりの皆に目を向ける。零の両脇にはシドニーとセシル。シドニーの横にはエリソン。

 丸テーブルを挟んだ対面にはマーニとマーリンの姿があった。


 テーブルの上には海産物をふんだんに使用した料理が並べられ、それに舌鼓をうちながら、談笑を続けている。


「それにしてもいくら聞いても信じられないわね。マウンテンボアの駆除ってだけでも凄いと思うのに、そんな連中と戦って無事だったっていうんだから」


 対面に座っているマーニは感心したような呆れたような表情で口にする。

 

「いやロックさんがいてくれたからだよ。一人じゃ当然無理だし」


「そりゃ、そうだろうけど……」


 マーニはチラリとジェンに必死に酒をつぐロックを一瞥し、軽く溜め息を吐き出す。


「やっぱりあれはそういう事なのかしらね……」


「あん? 何がだよ?」


「あんたには関係ない話」

 

 マーニの返しにシドニーも首をすくめる。


「そういえばシドニー。作ってもらった鎧が早速役に立ったよ。これのおかげで助かったよありがとう」


 零は思い出したようにシドニーにお礼を述べる。

 あの時、クロスボウの矢弾から無事で入れたのは、間違いなくシドニーの店で作ってもらった鎧のおかげだからだ。


「おお! 早速役に立って嬉しいぜ! と、いいたいとこだけどちょっと複雑だぜ。確かに鎧の性能を褒められるのは嬉しいが、本来は頼らないで済むのが一番だからな」


「そうですよトイさん。あまり危険な事は――」


 マーリンがそこまでいって、儚げな表情をみせる。

 かなり心配をかけてしまったかなと、零は後頭部を擦った。


「マーニちゃん、予定よりトイ先輩の帰りが遅いって、随分心配そうにしてたし。勿論僕も心配でしたがちょっと焼けちゃいましたね」


 その言葉でマーニの顔が林檎のように真っ赤に染まる。


 エリソンの誂うような言葉に照れてしまったのだろう。

 それにしてもこの反応、人によっては勘違いするよなぁなどと思いつつ。


「なんか心配かけちゃったみたいでごめんねマーニ。それに皆も」


 零は改めて皆にむかって口にする。

 するとセシルが微笑を浮かべ。


「まぁでも結果的に無事で良かったよ。こうやってみんなで顔を合わせるのもしばらくないかもしれないしネ」


 そんな事を淋しげにいった。

 それに、そうね、とマーニも続き。


「はぁ休みももうすぐ終わり。マーニ先輩もニの月に入って直ぐに王都に移動ですもんねぇ。まぁ僕は王都まではご一緒できますけど~」

 

「……変な事をしようとしたら切るからね!」


 マーニの言葉にひゃあ! とおどけてみせるエリソン。

 その様子に皆で笑い合う。


 それは楽しいひと時であったが、ふたりと離れることを考えるとやはりちょっと寂しくもある。


 そう、今ふたりがいっているように、この祭りが終わればすぐにエリソンは学苑に戻り、そしてマーニは騎士見習いとして王都の養成所に出向く事となるのである――

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