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魂戟のソーマ~異世界憑依譚~  作者: 空地 大乃
第三章 レンジャーへの道編
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隠れ家を目指して

「まぁでも俺もちょっとしたくなっちまったな。付き合うぜ」


 ロックが連れションという話を振ってきて零は少し戸惑った。

 それだとあまり意味がないからだ。


 だから――


「す、すみません、実はあの、その……」


 若干モジモジした感じに話す。


「うん? あぁなんだ大の方か。だったらしょうがないな。それならそっちの奥で済ませばいい。葉はできるだけ柔らかいのを使えよ」


 は、はい、と応えつつコボルトに事情を話し、零はロックの示した茂みの奥へ入っていく。


 そしてロックはロックで逆の方へ入っていった。彼もトイレを済ますのだろう。


 それはそうとして、勿論零が皆から一旦離れたのはトイレの為ではない。 

 そもそも零にはその必要もない。


 ならば何か? というと――


 零はきょろきょろと辺りを見回し、誰にも見られていないことを確認すると、トイの身体から一旦抜け出て魂だけの状態となった。


 そしてそのままコボルトが見張る空間に出て、そこから更に離れた位置で横倒しに倒れているマウンテンボアの主に近づく。


 正直人型タイプ以外で試すのは初めてだが、これが出来ればこのボアの記憶で何かヒントが掴めるかもしれない。


 そう思って敢えてトイレにいくといって皆の前から一旦離れたのである。

 そして零はボアの身体に近づき、そして中に入ろうと試してみると――魂がボアの本体に吸い込まれ、そして目を開いた時横倒しの景色が視界に飛び込んできた。


(よし! 成功した! それに――)


 そう思いつつ零はすぐさまボアの身体を抜けだした。記憶さえ手に入れる事が出来ればあとはこの身体にいる意味は無い。


 そして心魂に刻まれたボアの記憶。元が獣だけに心までは読めないが、目にしていた記憶は画像として鮮明に残っていた。


 その記憶の中に――件のレンジャーの姿があった。

 このマウンテンボアは、移動をしている時、雌のコボルトを運んでいる途中のレンジャー達を目にしていたのである。

 

 そしてその景色を見る限り、場所はここから北に進んだ岩山ルートである確率が高い。


 だけど――と零はトイの身体に戻ってから首を捻った。

 それがあまりに妙な光景だったからだ。

 何せコボルトの雌は身体を何かに縛られた状態で中空を漂っていたのである。


 それが一体なんなのか――いや寧ろ考えられるのは一つしかないか、と、とにかく一旦零は皆の下へと戻った。 





「北のルートが一番怪しいんじゃないかなと思います」


 零は戻った後再び皆と顔を合わせ、自分の意見をいった。

 何せ記憶から潜んでる場所は予想が付いている。

 その為、なんとかそのルートを取って貰えるよう導かなければいけない。


「何故そう思う?」


 そして予想通りロックに問い返された。

 当然だろう。何も理由なくそんな提案されたところで、はいそうですかというわけにはいかない。


「僕の考えでは先ず北北東のルートはあり得ないと思います。コボルトの集落からも近いですし、確かに攫った後移動するには一番楽でしょうが見つかる可能性も高いと考えると思います」


「うむ、確かにそれに関しては俺も同意だ」


「私もそう思う。それに北北東ルートは風の流れが我らの集落に向くことが多い。もしそちらに逃げたなら匂いで気づく筈だ」


 どうやら彼らもこのルートはないと判断していたらしい。


「そうなると後は西側か北という事になりますが、やはりこの場合、相手は敢えて北側の険しい方を選ぶんじゃないかと。それに奴らはボアをけしかける事はあっても退治はしたくなかった。そう考えるとマウンテンボアが好む餌場の多い西側を使うルートは寧ろ考えづらいと思います」


 零はこの意見をロックに、そしてコボルト語でリドゥとチョイにも伝えた。


「でもよぉ、腹に子供のいる雌が五体だぜ? この険しい道を登るのはキツイんじゃないのか?」


「いや、それこそが奴らの狙いだとも考えられる。いくらなんでもコボルトを、しかも子を宿したコボルトがいては無理だ、そう思わせられれば最初から追跡のルートは絞られる」


「しかしロック殿。いくら山登りになれているものでも、おぶったり抱きかかえたままではそう簡単には――」


「確かに只のレンジャーだけでは厳しいだろう……だが、これは今回の依頼では特にいう必要もないかと思って敢えては教えなかったがトイ、奴ら五人の内、女の方は俺達と同じソーマ士だ。そしてソーマの力があれば、それも恐らく可能だろう」


 零は、そうなんですか!? と驚いた振りはしてみたものの、心魂ではやはりそうかと納得した。

 恐らくマウンテンボアの記憶にあった浮かぶコボルト達は、ソーマの力で運ばれていたのだろう。


 そして零はそれをコボルトにも説明する。


「成る程、ソーマか……それは考えていなかったが、確かにソーマの力があれば村から雌を攫うのも可能か――」


どうやらコボルトもソーマの事は知っていたようだ。

 そしてこの話しぶりだと、攫われたという事にもひっかかる部分があったのかもしれない。


「それにしてもソーマを使うのがいるってマジかよ。そうなるとある程度作戦を立てる必要があるんじゃないか?」


 テョイが若干不安を滲ませた声でいう。

 ソーマの力はコボルトにとっても脅威ということか。


「確かに作戦は大事だが、ソーマの件については、俺もこのトイも使えるからな」


 ロックの言葉を彼らに伝えると、魂消たと言わんばかりに声を上げた。

 常にロックやジェンが近くにいたから忘れがちだが、ソーマ士というのは本来はかなり珍しい存在なのだと彼らの態度で思い出す。


「どうりで、あのマウンテンボアを相手にしても歯牙にもかけないわけだな」


「それにしてもちびっこいあんたまでソーマを使えるとはねぇ」


 おい失礼だぞ、とリドゥに叱咤され面目なさげにチョイが顔を伏せた。

 まぁ今の身体が小さいのは事実なので、零も特に気にしてないが。


「とりあえずトイの意見も踏まえてここは北側のルートに向かうことにしよう。そうと決まればボヤボヤとしていられない。早速出発だ」


 ある程度話もまとまった所で、ロックがそう口にする。

 異論のあるものはおらず、リドゥとチョイも頷き返してくれた。


 そして北の山地に進路を向けて歩み出す。コボルトの動きは速いため、ソーマの力で多少加速しても問題なく付いてきてくれた。


 既にマウンテンボアも退治されているため、これといった障害にもぶち当たること無く進み、そして程なくして岩山郡の聳える地帯に辿り着き、険しい足場を更に突き進んでいった――






◇◆◇


「ここだ、この洞窟の奥から匂いが漂ってきている」

「どうやら予想は的中したようだな――」


 リドゥの言葉を聞き、ロックが洞窟へ顔を覗かせ中を探る。

 

 ロックのいっていたように、この岩山が続くルートでは洞窟らしき穴が何箇所か見つかった。

 それを本来であれば虱潰しに探していくところなのだが、ここでコボルトが任せて欲しいと嗅覚を頼りに攫われた雌がいるかを探ってくれた。


 その様子に、ロックも零も彼らと来てよかったと思ったものであった。

 何せそのおかげで、わざわざ奥までいく必要がないわけなのだから、手間が相当に省ける。

 

 そしてそれを何度も繰り返し山の中腹あたりに辿り憑いた時、かなりの急斜面にできていた穴が怪しいという話になって探ってみたところ――ビンゴだったというわけである。


「とりあえず奥までは誰もいなさそうか――」


 ロックが目を凝らしながらそう呟く。

 見張りもいないようだが、これに関してはわざわざ見張りが立っては自分たちがいることを知らせてるようなものなので、敢えては置いていないのだろう。


「先頭は私が行ったほうがいいでしょうな。匂いで相手の動きに気づけます。そしてしんがりはチョイに任せましょう。もし仲間が外に出ていたら戻っていたのに気付けるものが必要ですしな」


 リドゥの提案を素直に受け入れる事とし、先頭はリドゥが、その後ろにロックと零が続き、少し離れて最後尾からチョイが追ってくるという陣形で洞窟に進入する。


 中はやはり薄暗いが、気づかれないためにも灯りには頼れない。

 

「転ばないように足場に気をつけろよトイ」


 ロックに言われ頷き、気を使いながら前を行くリドゥの後を追った。

 ゴツゴツした足場は確かに油断するとあぶなそうではある。


 零は錬の強で脚を覆い、少しでも感触が掴める状態で先を急ぐ。

 こうしておけば躓いたりする可能性が少しは減るからだ。


 横穴は天井はロックだと少し屈まないとぶつかるぐらいの高さだ。

 幅はロックより一回りほど大きいぐらいか。


 緩やかな傾斜を下り、暫くは真っ直ぐな道が続いたが、それから畝るような穴が続く。

 だが分かれ道なんかはない。

 比較的素直な横穴だ。

 そしてそこからさらに進んでいくと――


「匂いが近くなった。この先に――いる!」


 低く抑えながらも、緊張感のあるリドゥの声音に、全員の顔が引き締まった――

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