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魂戟のソーマ~異世界憑依譚~  作者: 空地 大乃
第三章 レンジャーへの道編
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コボルトからの頼み

「いや~あんたマジで凄いな! 俺は感動したぜ!」


「いや、お前逃げようとかいってただろ?」


「バカお前、そんな昔の事は忘れたよ」


「昔って今さっきの話だろ……」


 ロックがマウンテンボアの親玉を倒した事で、コボルト達が駆け寄ってきて随分と色めきだっていた。


 零もロックが顔を向けてきて頷き、もう大丈夫であることを示してくれたので、傍まで歩み寄ったが、コボルト達の様子に若干戸惑っているのが見て取れる。


「お前たちいい加減にしておけ、この人が困ってるだろう」


「いや、でもよぉ。本当凄い闘いぶりだったぜ。西の森の英雄も凄かったと聞いちゃいるが、こいつはその英雄ばりにすげぇ」


「西の森で英雄ですか?」


「おうよ! 西の森に現れたゴブリンの化け物とそれに従うゴブリンの群れを駆逐するのに立ち上がったという……うん?」


「おいおい――」


「お前俺達の言葉判るのかよ!」

「トイお前コボルトの言葉判るのか!?」


 一斉に声を揃えたコボルト達とロックの驚いたような問いかけに、思わず零は、あ!? と両手で口を塞いでいた。


 だが、流石にもう遅い。既に零はコボルト語で話しかけてしまっている。

ついつい西の英雄の話に反応してしまったのだ。

 何せそれに零は心あたりがある。

 

 とはいえ今はそれをどう誤魔化すべきか考えるべきだろう。

 全員の目が今は零に向けられているのだから。


「あ、その、実は以前学園でコボルトに詳しい先生がいて。その先生に色々教わったんです」


 零はどことなくわざとらしい笑みを浮かべながらロックにそう説明する。

 そして同じことをコボルトの言葉で彼らにも説明した。

 尤も学園といっても判らないと思うので、単純に詳しい人に教わったとだけ伝えたが。


「なる程な。いやそれにしても凄い。人間でここまで完璧に我々の言葉を理解してるものとは初めてあったぞ」


「学園でか? まぁあそこは多種族の研究してるのもいたと思ったが、それを教わるなんてな。いやここは褒めるべきか流石ジェンの弟だ」


 双方から褒められなんともむず痒くなる思いだが、とりあえず信じてもらえた事には安堵する。


「それでこのコボルトはなんといっているんだ?」


「あ、はい。ロックさんの闘いぶりが凄くてコボルトの英雄みたいだと」


 零が説明するとロックが照れくさそうに頬を掻いた。


「コボルトにそう言ってもらえるとは光栄だな」


「いやいや実際凄かった。あれだけの猛者我らの一族にはそうはいない」

「まぁそれこそ西の英雄ぐらいかもな」


 因みに勿論会話の間には零がたち、何時の間にか通訳を任されてしまっている。


「西の森での異形と英雄って、ジェンがちらっと話してたコボルトの事か? 勇敢に戦って散ったと聞いているが」


「なんと、その闘いを知っているのか! いや我らも話で聞いた限りだがな。確かに貴殿のいうように、その闘いでゴブリンの異形へ果敢に挑み壮絶な最後を迎えたらしい。残念なことをしたものだ。せめてひと目だけでもお会いしたかったものだが――」


 なんとなく予想はしていたが、この時点でその話で英雄視されているのが自分の事であることを零は確信した。


 それにしてもこんなところにまで話が広まっているとは、コボルトの情報網は結構侮れない。


「全くだ、俺もみてみたかったぜ! その双腕たるや総勢一〇〇〇〇を超すゴブリン共を単身右へ左へと切り飛ばし、更に山のようにデカいゴブリンの化け物と相討ったというんだからな! その話を聞いた時は身体が震えたぜ!」


 ……どうやら話には大分尾ひれがついてるようだ、と零は思わず苦笑いを浮かべる。


「そんな凄い英雄と同じように思われるなんて光栄の極みだな」


 そういってロックがガハハ、と豪快に肩を揺らす。


「何はともあれ危ないところを助けて頂いたのは感謝している。何せあのままでは我らも只では済まなかったであろう。本当にありがとう」


 コボルトの一体が改めてお礼を述べ代表して頭を下げる。

 彼は逃げようという意見を跳ね飛ばし、戦おうとしたコボルトである。

 話し方と言い、雰囲気的には彼らのリーダー的な存在なのかもしれない。


 そしてそのコボルトの挨拶に倣うように他の二体も頭を下げる。 

 だが、逃げようと言っていた一体だけはきょとんとしており、それをリーダーが睨めつけた事で、慌てて頭を下げた。


 彼は話し方を聞いていてもどこかお調子者のような雰囲気を感じさせる。


「いや丁重にどうも。俺はロックというんだ宜しくな」


 彼もそれに返礼し自分の名を告げる。勿論それを零が通訳した。

 そしてそれに続いて零も自分の名を告げる。

 

 それを聞き四体もそれぞれ自己紹介をしてきた。

 ただコボルトの名前は長いので、以前と同じ下の三文字だけを略称として伝える。


 因みに名称はリーダー風のコボルトがリドゥ。

 お調子者っぽいのがチョイ。

 残りふたりはエルゥとイルィである。


「ところでなんでこんなところでボアに襲われていたんだ? コボルト達は今は大事な時期だろう? 獲物を狩るにしても住処からここまでは大分離れているように思えるが?」


 お互いが名乗りあったあと、ロックが疑問をコボルト達に投げかける。

 確かに事前に見せてもらっていた地図で見ても、コボルトの集落は東側の方であり、こことはまるで反対側の位置にあたる。


「それは――」


 零が通訳し伝えると、リドゥが言い淀み、四体のコボルトが顔を見合わせる。


「いや、別に言いにくいことなら構わないが」


 ロックはその雰囲気を察したようにいい、それを零が伝えるが。


「いや、寧ろここは話を聞いてもらった方がいいのかもしれない。我々もほとほと困り果てていたところだ。可能なら協力して頂けるとありがたい」


 コボルトの意外な申し出に、零自身かなり驚いたが、それを零の通訳で伝えられたロックも、やはり驚きを隠せないようであった。

 コボルトと人間は友好的な付き合いを築いてはいるが、それでも基本コボルトは自分たちの住む森の事は自分たちで解決する。


 勿論以前のゴブリンの時のジェンの活躍や、今回のマウンテンボアの退治など、森での出来事に人が関わる場合もあるが、それはあくまでその脅威が人にも及ぶと判断された場合であり、コボルト側から協力を要請されるなど例がないのである。


「まさか俺達の協力を仰ぐとは、そんなに厄介な事がおきているのか?」


 零を介したロックの言葉に、うむぅ、とリドゥが唸るように口にし。


「お恥ずかしい話ではあるのだがな。実はさっき貴殿が言っていたことにも関係している。我らの雌が産気づいているのは知っていると思うが――」


 その確認にロックと零は頷いて返した。

 だからこそ、彼らがこの時期集落を離れるのは珍しいわけだが。


「実は――その子を孕んだ雌の何体かが集落からいなくなってしまったのだ。それで我らはこうして森を探しまわっていてな。こんなところまで脚を運んでいるのはそれが原因でもある」


 え!? と思わず零が声を上げてしまい、ロックが身を乗り出して、何といっているんだ? と聞いてくる。

 かなり驚いてしまったが、とにかく零はその事をロックに告げた。


「コボルトの雌がいなくなったって? なんてこった」


 ロックが天を仰ぐようにしていう。


「それで被害はどれぐらいなんだ?」


 そしてロックはコボルト達に質問を返した。


 それを伝えて返ってきた答えによると、コボルトの集落で身籠っていた雌は全部で一〇体。その内の五体が突如集落から消え去ったらしいのだ。


 そしてそれからさらに質問のやり取りが続く。


「集落には勿論見張りの雄はいたんだろ? 誰も気が付かなかったのか?」


「それが丁度その雌達が消えてしまった日の夜、貴殿も先ほど相手したマウンテンボアの集団の襲撃にあったのだ。数は四匹であの巨大なものほどのはいなかったが、突然の事でかなりの混乱を来してな――」


 リドゥの説明を伝えるとロックが顔を伏せ、その表情を険しくさせる。


「それは何時頃の事だろうか?」


「五日程前だ。それがあったから我らが調査のために選抜され行方を追っていたのだ」


「だけどその途中、ここであのボアと遭遇しちまってな。これまでは出来るだけボアを見てもやり過ごしてたんだが、悪いタイミングで見つかっちまってやりあうことになっちまったんだ」


「てかあれはお前が一人で勝手に動き回るからだろう」


「う、うっせぇなあ。俺だって早く見つけてやりたいと思ってたんだよ!」


 お調子者のチョイが反論するが他の二体の視線は冷たい。

 とはいえ彼らがこんな場所まで来ていた事と、マウンテンボアに襲われていた理由もこれで判ったが――


「五日前か――」


 神妙な面持ちでロックが呟く。

 何かを考え続けているようだが、それはどちらかというと既に回答が出ていて、それに対する考えをまとめているようにも思えた。


「本来はあまり一族の事を無関係のものに頼みたくはないのだが……貴殿のその腕を見込んで探索に協力してくれるとありがたいのだが」


 零は考えこんでいるロックにその言葉を伝える。

 すると彼が零に真剣な顔を向けてきた。


「トイ。こいつは俺達と無関係とはいえなさそうだ。多分だがそのコボルトの雌を攫ったのは最初に依頼を請けたレンジャー達だろう」

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