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魂戟のソーマ~異世界憑依譚~  作者: 空地 大乃
第三章 レンジャーへの道編
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男ふたりの道程

 ロックの依頼に従者という形で付き合うことが決まった零。

 そして前々から海狩りの為、海の男達と共に船で沖に出ることがきまっていたジェン。


 以上の三人はその日の其々の旅の無事を祈るため、聖ミコノフ教会の教堂までやってきていた。

 そして聖ミコノフ像の前で請祷(せいとう)を終え、外に出たところで子どもたちに囲まれていたマーリンを目にし、こちらにも気づいた彼女が近づいてきた為、軽く立ち話をする。


「そうですか、それじゃあ今日もういってしまうのですね――」


 マーリンは零達の姿を視界に収めながら、少し寂しそうに瞳を伏せた。


 といっても別に今生の別れでもないのだが……むしろそういう目をされると、この旅で何かあるんじゃないかと不安になるほどだ。

  

 零的にはあまり変なフラグを立てるのは勘弁願いたいところである。


「いや……といっても距離的には三日ぐらいで戻ってこれるからね」


 零は一応誤解のないようマーリンにそう告げる。すると彼女の慌てたように目を丸くさせ、あ、そ、そうですよね! と返答した。


「なんかここのところ皆さんの事は毎日のように目にしていたので、旅と聞くと何かつい寂しく感じてしまってました」


 そう聞くと何か説明が悪かったのかなとも思えてしまう。

 まぁマーリンにはジェンからの話の方が長く、そしてジェンはどれだけ弟が心配かを熱く語っていたのだが。

 と、なるほどこれが彼女が心配する原因か、と、零は改めて心のなかで苦笑する。


 それにしても確かにマーリンの言うとおり、件の食事会の後も、ここのところはロックと森と街を往復することが多く、その度にマーリンとは会話をしていた。


 だから彼女とはロックも零も随分親しくなっていた。

 まぁそもそも彼女の街での人気も高く、親しいのは別に零に限ったことでもないが。

 

 何せ彼女はとても気が利く。神官見習いとして街にやってきたマーリンは、少しでも早くこの町の人々に馴染もうと、率先して挨拶にまわり、更に困ってる人々がいれば少しでも力になろうと一生懸命であった。


 時にはとても神官の仕事とは思えない事にまで手を貸したりもし、腰の悪いお婆ちゃんの買い物を手伝ったり、子どもたちに読み書きを教えて上げたり、基本は海に出ずっぱりで、中々祈りにこれない漁師の下へわざわざ趣き一緒に祈りの言葉を唱えたり等など――


 そのおかげで今やすっかり彼女も町の人々に親しまれている。

 ここのところ毎日顔を合わせる零だが、いつも子どもたちの方からマーリンに寄ってきているのを見ているだけでも彼女の人柄がよくわかるというものだろう。


「マーリンちゃんも~今回の依頼は私とトイの方がぴったりだと思うよね~?」


「え!?」


 そしてジェンもマーリンにはかなり心開いているようではあるのだが……なんともまた困った質問してるなと零が思わず乾いた笑いを浮かべる。


「大体海にいくならこのロックの方が絶対似合ってるよ! おいロック! やっぱ交代しろ!」


「いや、だからそれは無理だって話になったじゃんよ――」


 ううぅううぅう――と唸るようにロックをみやるジェン。

 ソレを見ながら取り繕った笑顔を見せるマーリン。


 その光景を視界におさめながら、零は呆れたように嘆息し、もうお姉ちゃん、とジェンに告げ。


「決まったことだから仕方ないよ。仕事が終わればすぐ逢えるんだしね」


 少しだけ諭すように零が言葉を紡げる。

 するとジェンは、うぅ、とたじろぎ、そして、はい、としょんぼり肩を落とした。


 弟が好きすぎて嫌われたくないという感情を上手く利用した形だ。

 零も暫く姉と一緒に過ごす内に、少しずつ彼女の扱いに長けてきている。


 そして――教会の鐘が鳴り響き出す。この鐘の音がもうすぐ港から船が出る事の合図、つまりジェンの約束の時間なのである。


「はぁ、仕方ない行ってくるかな」


 頬を掻きながら観念したように口にするジェン。


 そして名残惜しげに、何度も零を振り返り手を振ってくるジェンに零とロックも振り返し、姉の姿を見送った後、零とロックは顔を見合わせ頷きあった。


「それじゃあ僕達もいくね」


「はいトイさんどうかお気をつけて――」






◇◆◇


 マーリンに見送られ、更に同じレンジャーである町の門番にも、しっかりやってこいよ! と激励を受けたふたりは、ギザの港町を出て街道を北へと向かった。


 今回零とロックのふたりは目的地までひたすら徒歩で向かう形となる。

 目的のカナラ森林までは普通は馬車で三日は掛かる距離で、レンジャーであっても疲れを考慮して馬車で向かうことも多いぐらいの道程ではある。


 地図をみながら説明を受けたが、目的地につくまでには丘陵地帯の中にある森を抜け、峡谷沿いの崖の道をひた進む事になる。

 そしてロックの話では丘陵地帯の森ではヒルズウルフという狼がよく出現するらしい。


 そしてこの道程を一日半、つまり馬車の半分の日程で到着するのが第一の目標となる。

 とはいえロックも零もソーマ士であり、更にふたりとも錬の強化を使用可能なため、決して無理な話ではない。

 

 敢えて馬車を使わないのもこれが理由でもある。


「トイどうだ? 平気か?」


「はい大丈夫です」


 町を出て結構な距離を進んだあたりでロックが零を気にかけて声を掛けてくれる。

 それを受け元気に零は返事する。


 前を行くロックは歩いていても早馬の如く速度で突き進む。

 その後を零が頑張って追っていく形だ。


 ソーマが通常の人間に比べ尽きにくい零ではあるが、それでも細かいソーマの調整は中々に大変だ。


 零は錬の修練を積む内に、一見永久にも思われるソーマであっても無尽蔵ではないことを知った。

 例えばロックに最初いわれたソーマを維持して立ち続ける事、これは零もいくらソーマを纏い立ち続けていても全く尽きる様子がなかった。


 だが、ソーマを一気に高めて強を使用し、再度錬を行おうとすると、ソーマが沸かなくなるのである。

 恐らくこれがソーマの枯渇状態といえるのかもしれない。


 といってもしばらくすればまた使えるようにはなるのだが――どうやら水道の蛇口を一気に全開まで捻るような無茶をすると長くは持たないらしいのである。


 そしてもうひとつ重要なのは一度ソーマが枯渇すると、どんなに零が頑張ってもソーマが元に戻るまで全く身体を動かすことが出来なくなるという事である。


 正直一度この状態に陥った時には零もかなり焦ったものだ。

 ロックもいない自主練での事だったのでまだ良かったのかもしれないが――いやもしそのまま動かなくなっていたらそうも言っていられなかったが、時間が経てばまた動けるようになった為、先にこれを知ることが出来たのはやはり幸いだったというべきだろう。


「それにしてもやはりその鎧はかなり良さそうだな。みてて判る、かなり動きやすそうだしな」


 ロックが改めて零の新調されたリネイルアーマーを眺めながら感心したように頷く。

 もちろんそんなことを語り合いながらも一切移動のペースは落としていない。


「えぇシドニーには感謝ですね。とても動きやすいですし」


 零も笑顔でそう返す。触覚こそないものの関節の動きなどを見れば、それがどれだけ柔軟な作りなのかが判るというものだ。


「リネイルは通気性もいいからな。蒸れないのがいい」


 そういって人のよい笑みを浮かべてくる。しかし通気性という意味では、身体の半分しか覆っていない毛皮装備に筋肉の鎧という彼のそれには勝てないと思う。


 まぁとはいっても、零には風の心地よさは感じられないが。

 しかしそれでも晴れて良かったなと思う。

 顔を上げれば晴天が広がり、前を向けば柔らかな風で草原の草花が揺れている。


 緑豊かなこの地は例え感覚というものがなくても、見ているだけで癒やされる気持ちになる。


 そしてロックの更に前方を視線を向けると、街道はゆるゆるとした曲線で方向を変えながら描いている。


 とても長閑で平穏な風景は暫く続き、ついついこれが危険を伴う旅であることを忘れさせた。


 それから更に暫く進み、途中ジェンの用意してくれたお弁当でふたりして昼食を取りつつも、更に先に進み、太陽が中天から僅かに西寄りに傾いた頃に辿り着いた丘陵地帯。


 そこで改めてこの世界が甘くはないことを知る。


 囲まれたのだ。それは零がこの体に憑依する前、トイが襲わrていた獣――狼である。


「狼は本来は夜をメインに活動してるんだが、このあたりに潜むヒルズウルフは昼間でも容赦なく人間を襲う。気をつけろよトイ」


 ロックの警告に頷き返す零。改めて見ると毛の色が茶を帯びた緑と、前に見た狼と違うのに気がついた。

 また大きさも若干小柄である。


 だが――数が多い。囲んでいる狼の群れはざっとみても一〇匹以上はいる。


 その姿に精魂で緊張しつつ、零は腰に吊るしていたショートソードをスラリと抜いた――

次回更新2015/01/13日予定です

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