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魂戟のソーマ~異世界憑依譚~  作者: 空地 大乃
第二章 姉弟編
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マーリンへの疑問

「シドニーってば責任重大だね。ちゃんとトイが怪我しないように、しっかりとした防具作ってあげないとね」


 近づいてきたマーニの発言に、わ~ってるよ、とシドニーがウザったそうに返す。


 だが直後、零に顔を向け真面目な表情でシドニーが言葉を続けた。


「お前がしっかりレンジャーとしてやっていけるよう、最高の物を作ってやるぜ。作るのは親父がメインになるとは思うけど、俺も作業には参加させてもらうからな!」


 任せておけ、と言わんばかりに厚く鉄板のように盛り上がった胸を叩き、心強い事をいう。


 その姿に友人というものの有り難さを覚えた。トイにとっての友人であったが、この短い期間で零にとっても掛け替えの無い友となった気さえする。

 

 その時ふと、零自身の友人の顔も頭を過った。彼も零にとっては掛け替えのない親友であった。


「でもそのまえに、レンジャーになるための試験があるもんね。頑張ろうね(・・・・・)


 一瞬だけ想いにふけていた零であったが、すぐ近くにいたセシルが激励のようにいってきたので、零は我に返り、彼へと顎を引き応えた。


 確かにレンジャーになるためにはまずその試験を突破する必要がある。


「トイさんはレンジャーになられるおつもりなのですか?」


 ふと訪れたマーリンからの問いかけ。

 それに、うんそのつもりだよ、と返すと。


「そうですか――がんばってくださいね。きっと聖神ミコノフ様も見守ってくださっておりますよ」


 笑みを浮かべ神官(見習いらしいが)らしく祈りの言葉を囁く。


 その気持は嬉しかったのだが、一瞬だけ言葉が途切れたときに何かを思うように顔を伏せたのが気になった。


 彼女は神官と一緒に初めて零と顔を合わせてから、どこか零に大して思うところがあるような様子を覗かせていた。


 それが零には気になるところであり、実はこのチャンスにそれとなく聞いてみようとも思っていたりする。


 ただ、出来れば彼女とふたりきりになれるところで話したいというのもあるのだが――


「それにしても皆しっかり目標が定まっているんだな。トイのレンジャー希望といい立派立派」


 ロックが零の肩を何度か叩きながら大口を開けて笑ってみせる。


「ちょっとロック! トイが怪我したらどうするのよ!」


「えぇ? いやでもこれぐらいで怪我してたらレンジャーとしてやってられないぜ?」


 噛み付くジェンにロックが戸惑った様子で応える。しかし彼のいうことは最もだろう。


 だがそんな事お構いなしとジェンに責め立てられるその姿が、零は少し気の毒に思えた。


「目標か……」


 そんな中、ふとマーニが寂しそうに声を漏らした。


「どうしたの? マーニは騎士として推薦されてるし、立派な目標があるじゃない」


 セシルの言葉に、まぁそうなんだけどね、と返すマーニだが、そのままマーリンを振り返り。


「でもぉ~折角マーリンちゃんとこんなに仲良く慣れたのに、ニの月には王都に向かわなきゃいけないなんて、なんか寂しいよ~~!」


 マーリンに飛びつき、抱きしめながら声を張り上げる。唐突の事にマーリンも眼を丸くさせ、えぇ! と驚いてみせた。


「あ、そっか。お前今月の終わりには出るんだもんな。うん、まぁ頑張れや」

「あんた何なのよその適当な言い草は!」


 マーリンを抱きしめている手を放したことで、彼女がほっとした表情を見せる。

 マーニは本当に彼女を妹のように思っているのかもしれない、マーニのほうが年下なのだが。


 そしてマーニとシドニーがじゃれ合いを見せる中、そういえばと宿主の記憶を思い出す。


 マーニがいま言ったように彼女はこの月が終わる頃に王都へと旅立つ。

 勿論それは騎士見習いとして王国に従事する為である。


 本格的に配属が決まるのは通常はジェードの導きが終わり季節がガーネリアンの加護に移り変わってからなのだが、その前に騎士としての嗜みや礼節、騎士道に関する学問を徹底的に叩き込まれる事になるそうだ。


 勿論体力強化や剣術、槍術などといった鍛錬も厳しく行われる事になる。その間は当然騎士や兵士専用に用意された施設からは自由に外出することは許されず、厳格な規律の中で毎日を過ごすことになるらしい。


 つまりマーリンだけでなく、零やセシル、勿論シドニーとも暫くは顔を合わせられなくなるのだ。


 そう考えると零も少し寂しい気もするが、だがこれもマーニが選んだ道である。

 トイであっても、頑張って、と応援の言葉を送り見送った事だろう。


「マーニ先輩が出るときには僕も一緒に学園に戻りますから、頼ってくれてもいいですよ」


 シドニーに文句を言い続けるマーニへ、エリソンが喋りかける。


 だが一瞥したマーニの表情はなんとも微妙なものだ。


「気持ちだけ受け取っておくわ」

「なんか酷い!」


 因みにエリソンも今言っていたように、マーニと同じ日に王都の学園に戻ることになる。

 

「僕も頑張らないとなぁ……」


 零の横でセシルがボソリと呟いた。そういえば、と零は彼の横顔を眺めながら考える。


 トイの記憶でもこれまでの話でも、セシルが何を目指してるかはハッキリしていなかったな、と。


 ちょっと聞いてみようか? そう思った時ふと視界の端にどこかへ移動するマーリンの姿。

 そういえばマーニがシドニーと話し始めた時、彼女は少しジェンと会話していた。


 方向でいくと庭に出る方へ向かっている。

 零はチャンスは今だな、と彼女の後を追った。





◇◆◇


「もしかして疲れちゃった?」


 彼女の小さな背中に向かって零が語りかけると、マーリンはまず顔を巡らせ、それからゆっくりと身体を続かせた。


 僅かに揺れる雪髪をそっと撫でる。

 きっと心地よい風が吹いているのだろう。


 眼前で佇む彼女の背後からは、月明かりが照らされ、まるでその身と同化してるようにみえて、凄く綺麗にも思えた。


 月の女神というのが本当に存在するのなら、彼女のような者の事をいうのだろうか? とつい見入ってしまう。


「そんな、凄く楽しいです。こんなに良くしてもらったのは久しぶりだから――」


 浮かんだ可憐な微笑みに、聖女という言葉がピッタリはまる。


 だが、零は聞きたいことがある。ずっと彼女の事を見ていても飽きない気もするが、その為にマーリンを追って同じように庭に出ているのだから。


「あの――」

「あの――」


 言葉が重なり、ふたり揃って目を伏せた。マーリンの頬が僅かに熱を帯び、零も気恥ずかしい気持ちが精魂を駆け抜ける。


「お、お先にどうぞ」

「あ、いえ、トイさんの方から」


 お互いに気を遣って譲り合う。そのやり取りが数回続き、なんとなく零はくすくすと笑った。


「あ、ふふっ、確かになんかおかしいですね」


 ひとしきりふたりで微笑みあい、そして零は彼女をみつめ、そして切り出した。


「実は、その、マーリンさんの事、ずっと僕気になってたんです」


 え!? とその顔が紅く染まる。その様子に、

「あ、いや! 違います! そうじゃなくて!


 慌てて両手を振り否定した。いや、そういう意味でも気にしてなかったといえば嘘になるかもしれないが。


「マーリンさん、僕と最初に会った時から、何かを気にしてる様子に見えたので……もしかしてその邪気のってわけじゃないですが、何か感じたのかなって――」


 零は一瞬どう話していいか迷ったが、結局邪気を出しに探ってみることに決めた。

 事の流れからみてもその方が自然であろう。


「あ、なるほどそういう事でしたか――でも私そんなに顔にでてました、か?」


 どうやら彼女は特に誤魔化すつもりもないようだ。実際あの時一度零に何か言おうとしていた節もある。


「ま、まぁなんとなく言いたいことがありそうだなってぐらいには」


 零の回答に、そうですか、と少し目を伏せ。


「だとしたら神官になるにはまだまだ修行がたりませんね……あ、でも別にトイさんに何か悪いものが憑いているという事はないんですよ。それは安心して下さいね」


 ニッコリと微笑む彼女の顔に嘘はないように思えた。


「ただ……実はなんと聞いて良いのかと考えてしまう部分もあって、今もそれを折角だしとは思ったのですが――」


 そこまで口にし彼女が言い澱む。どうやら零の質問と彼女の質問はお互い重なる部分が多そうだ。


「構わないですよ。僕も気になるので、遠慮せずどうぞ」

 

 零は微笑みながら彼女を促す。するとマーリンは意を決したように零を見上げるようにし、そして言葉を紡いた。


「あの、黒ローブの少し変わった雰囲気の方とお知り合いじゃないですか?」

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