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魂戟のソーマ~異世界憑依譚~  作者: 空地 大乃
第二章 姉弟編
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歓迎会も兼ねて

「皆いらっしゃ~い。今日は楽しんでいってね」


 ジェンは招待客がふたり増えても大して気にすることもなく歓迎してくれた。

 寧ろ零がこれだけの人数連れてきた事に喜んでいる様子もみせたぐらいだ。


 そしてエリソンはともかく、マーリンに関しては、ジェンも初めて顔をみたようだ。

 彼女はこの町に着いたのもごくごく最近の話で、ここのところは協会絡みでジェンもバタバタしていたようなので、それも仕方ないのかもしれないが。


 因みにマーニが彼女を招待しようと思ったのは、特に難しい話ではなく、お互い言葉を交わすうちに気があったかららしい。


 あの一件でマーリンが神官と話を聞きに来た時から、マーニとはわりと色々話もしていたようだ。


 そして今日、マーニは教会で彼女と会話し、さらに打ち解けたらしい。


 シャイル家でアックスディアの料理が振る舞われるという話は、零達がマーニを迎えにいく前から話の種として出ていたようだ。


 マーニ曰く、彼女はその料理の話が出た瞬間から大分食いつきが良かったらしい。

 どうやら食べることがかなり好きなようだ。


 特にアックスディアの肉という話が出た時には、目を輝かせて聞いていたらしい。

 それが、マーニが彼女を招待した直接のきっかけでもあるのだろう。


 ただそれでも、マーリンは最初かなり遠慮していた。


「あまり馴染みのない私がいっても迷惑になりますし、教会の業務もまだありますので」


 と、こんな感じにである。だが彼女の背中を押すようにその場に件の神官が顔を見せ、よかったらご一緒させてあげてください、とわざわざ頭を下げてきたのだ。


 こういった機会に人々と親しい関係を築けるのは寧ろ有難いことです、と神官はいった。


 その様子に零は、ミコノフ教というのはそこまでガチガチに規律に縛られてるわけでもないのかな、と感じた。

 実際食べるものに関しても何が駄目等といった制限は設けてないらしい。

 

 そんなわけで、今、いつもなら姉のジェンとふたりだけで食事をとってるダイニングルームは中々の盛況ぶりである。


 トイの記憶でもこれだけ人が集まっているのは、両親が健在な時以来ではかなり久しぶりのようだ。

 

 多いといっても零も含めて八人ではあるが、ロックのガタイの大きさもあって、いつもはふたりだけで食事をとってるテーブルも大分賑やかに思える。



 勿論それは用意された食事の量にも起因している。ロックも一緒になって手伝ったようで豪快に焼かれた肉塊などはロックが担当したようだ。


 勿論食材はアックスディアの肉だけではなく、他にもかなり多く用意されている、

 この間の山の探索で退治した動物達の肉もかなり分けてもらったようだ。


 水揚げされた魚も今日の為にとジェンが買い集め、サラダ関係も豊富に用意されちょっとしたパーティ状態である。


 そして、これに特に興奮して見せたのは急遽参加となったマリーンである。

 テーブルの上に並べられた料理の数々に、まるで子供のように眼をキラキラさせていた。


 料理が好きというのは本当らしいな、と零も彼女をみながら微笑を浮かべる。


「折角だから、今日は町に新しくやってきた神官マリーンの歓迎会も兼ねちゃいましょうか?」


 ジェンの言葉にマリーン、そんな! それにまだ見習いですし と遠慮がちに手を振ったが、彼女以外は零も含めてさんせ~~っと声を上げた。


 こういった事で盛り上げるきっかけは、多ければ多いほどいいだろう。


 そしてその後はジェンがそれっぽくマリーンを歓迎する祝辞を述べ、そして照れる彼女が聖ミコノフ教会の本格的な祈りを捧げるのを確認し、パーティは開始された。


「まだまだ食べもんは沢山あるからどんどん食えよ~」


 ロックが両手を広げながら声を上げ、そしてガハハッと豪快に笑う。


 テーブルの前ではジェンが小皿に食事を乗せ零にまで運んでくれたりと、この辺は相変わらずだ。


「あ、あのロック様! 今日はご、ご招待してくれてありがとうございます!」


 アックスディアの肉を、ロックに取り分けてもらったマーニが少し頬を紅潮させながら、彼にお礼をいう。


「いや、まぁ今日は皆楽しんでいってくれ。て、ここの者じゃない俺がいうのも変な話だけどな」


 ロックは少し照れたように顎をかきながら、マーニに言葉を返した。

 ちょっと弱ってる雰囲気もある。確かに別にマーニだけを招待してるわけでもないので、彼もなんて応えて良いのかといったところなのかもしれない。


「マーリンさん。この料理とか美味しいよ。あ、よかったら取ってあげるね」


 え? と戸惑うマーリンの皿をとり、さりげなく食事を盛っていく。

 セシルは流石に気配りが行き届いている様子だ。遠慮して中々手を出せずにいるマーリンに気を使ったのだろう。


 まぁ彼女の場合は、叡慮していても眼からは食べたいオーラが出ているので、セシルがやらなければ零がいくところだったが。


「おお! マーリンちゃんこのアックスディアは特に旨いぞ!」


 マーニから色々と質問を受けていた様子のロックは、まるでそこから逃げ出すようにマーリンに肉を届けてあげていた。


 少し残念そうな顔を見せるマーニだが、振られてやんの、というシドニーのひとことで何時もの顔にもどり彼を殴り倒している。


 そしてロックに肉を取り分けてもらったマーリンは、深々と頭を下げつつ可愛らしい口でその肉を頬張った。


 本当に小動物みたいだ、と思わず零は微笑ましそうに笑う。

 そしてアックスディアの肉を口にしたマーリンは、頬に手をあて心底幸せそうに顔を緩ませた。


「トイお前の分もあるぞたっぷりくえよ。レンジャーを目指すなら体力もつけねぇとな」


 そういってロックが肉を取ろうとしたが、ジェンが割り込み、ロックの代わりに彼女が切り取る。

 弟に対してのその素早さに彼もタジタジだ。


「はいトイ~お肉美味しいよ?」


 首を少し傾けながら、零にあ~んをさせようとするジェン。しかし流石に恥ずかしいのでこの時ばかりは自分で食べるよと笑顔でやんわり断った。


 皿を受け取るとジェンはしゅんと肩を落とす。そこへロックがやってきて、そろそろ過保護も卒業したらどうだ? と告げるが思いっきり睨まれていた。


「や~ん、マーリンちゃんってば可愛い!」


 ふと声の方を見ると何があったのかはわからないが、マーニがマーリンを胸に埋めるようにして抱きしめていた。


 彼女は少し困り顔で、でもかまいなくマーニは妹が出来たみたい等と口にしている。


 しかし実際はマーリンの方が年上の筈なのに、と零は苦笑した。

 まぁマーニは黙ってさえいればかなり大人っぽい容姿でもあるのだが。


「うほっ! 今日はまたえらく扇情的なマーニ先輩と可愛らしいマーリンさんの密着! これはなんかもうたまりませんな!」


 鼻息荒くエリソンがいう。久しぶりに彼のむっつり具合が全開である。


「あんまり変な目でみてると抉られるよ~エリソン」


 零の隣に立ちおっとりした口調で怖いことをいうセシル。その声に振り返り、そ、それは恐ろしいですね、とエリソンが肩を震わせた。


「お前もあんなのをよく女としてみれるよな。俺はやっぱり、どうせならジェン様みたいな大人な女がいいぜ」


 やってきたシドニーの言葉に複雑な思いを抱く零。一応は今の姉の事をそういう目で友人に見られるのは中々微妙なものである。


「そんな事言ったらまらマーニに殴られるよ」


 セシルの返しにフンッと鼻を鳴らしシドニーがそっぽを向く。


「いやぁ~それにしてもトイ先輩の御屋敷には初めて上がらせて貰いましたが立派なものですね~ご両親はもしかしてかなり身分の高かった御方では?」


 その時ふと、エリソンが周囲を眺めながら問うようにいう。

 

 すると零以外の皆が固まったように口を閉ざした。それは本当に僅かな沈黙であったが、直後動きを始めたシドニーがエリソンの首根っこを掴み、よし、お前とちょっと男の話をしよう、といって連れて行ってしまった。


「そういえばエリソンはトイの事まだそこまで良くは知らないもんね」


 そういってセシルが憂いの表情を浮かべる。どことなく気を使ってるようにも思えたが。


「別に僕の事なら気にしなくても大丈夫だよ」


 零はそう返して軽く微笑んだ。


 両親に何があったのか彼の記憶でもぼんやりとしたもので詳しくは知らされていない。


 ただイービルから嫌がらせを受けていた時も、父親は裏切り者、という言葉をよくぶつけられていたようだ。


 しかしジェンは、父親は裏切り者なんかじゃないと、信じてあげて、と彼に言って聞かせたようだ。


 それ以来彼はその言葉を信じて深くは詮索してこなかったらしい。

 また友だちになれたセシル、シドニー、マーニも決してそのことには触れなかったようだ。


 だから今のエリソンの質問にも気を使ったのだろう。






「全くこいつも、ふたことめには可愛い子が~マーリンさんが~と女のことばっかなんだぜ?」


 戻ってきたシドニーが呆れ顔でエリソンにいう。

 そんなエリソンはどこかバツの悪そうな顔をしていたが、すぐにいつもの感じに戻り下ネタトークも織り交ぜて話を再開しだした。


 だが屋敷のことや両親の事には触れようとはしない。シドニーが何かを話したのだろう。


「そういえばシドニー。ちょっとお願い聞いてもらってもいいかな?」


 四人がその後他愛もない話を続けていると、ジェンがシドニーに近寄り、どことなく甘えるような顔で問いかける。


 零以外にこんな様子を見せるのh珍しいな等と思いつつ聞いてると、当然シドニーは背筋を伸ばし。


「勿論です! ジェン様の為なら日の中水の中!」


 何故か敬礼のポーズを取ってそんな言葉を返す。


「ありがとう~それでね実はトイの装備を仕立ててもらいたいのよ。シドニーのご両親は有名な職人さんだし……いいかな?」

 

 媚びるようなその眼は彼からオッケーを聞き出すための物だ。

 当然シドニーも力強く胸を叩き。


「勿論です! 親父にいって他の仕事を断ってでもトイの装備を手がけるよう言ってやりますよ! えぇジェン様と親友のためならね!」


 おいおい、と零は苦笑いを浮かべる。仮にも跡取りがそんな勝手な事をいっていいのか? と不安にもなったが。


「てか、そうかトイもレンジャーを目指すんだもんな……」


 シドニーは急に神妙な様子を見せしみじみと呟いた。


 そう、零は彼の未練を魂に刻んでいる。レンジャーになって姉を助けたかったというその気持ちを――

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