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魂戟のソーマ~異世界憑依譚~  作者: 空地 大乃
第二章 姉弟編
21/89

弟大好きジェン・シャイル

「でもこの傷みてもらった方がいいわよね――」


 ジェンが件の傷口に触れながら心配そうに呟いた。今の今まで身体中を弄くり回され、いくら零とはいえ、魂的に疲れてきた感もあったが、その話に瞬時に頭を切り替え姉を真剣な眼差しでみた。


「その事なんだけど、やっぱりこの傷はこのままでいようと思う」


「え? でもこんな……」

「戒めにしたいんだ」


 被せた零の言葉に、戒め? とジェンが繰り返す。


「うん。この傷は僕の浅はかな行動が招いた結果なんだ。だから二度と同じ過ちを犯さないように、この傷を見れば思い出すようにしたいんだ。それに痛みとかはないし、残しておいても問題はないと思うし」


 零の発言にジェンが顔をしかめ、難儀を示す。


「そ、それに僕の目指すのはレンジャーだ。このぐらいの傷で騒いでたらやってられないんじゃないかな? いちいち傷が出来る度に教会にいってられないだろうしね」


「そんなの傷なんて絶対私が付けさせないわ!」


 真剣な顔で言い切った。かなり本気な模様だ。


「それにトイにそんな傷を付けたのがいたら、私が絶対に許さない! 探しだして二度と手出しが出来ないように切り刻んで――」


 ぶつぶつと怖いことを言い出した。とはいえ、あの賊への所業を見るにそのような行動に出てもおかしくはないが――


「も、勿論なるべく傷が付かないようにはするつもりだよ。でもこれは、ね?」


 そういってジェンに向かってニッコリと微笑んだ。

 だがやはり納得が出来ないのか、うぅううううぅう――と不満そうに零の傷口をみている。


「折角の、折角のトイの柔くて綺麗な肌なのに……やっぱり、やっぱりお姉ちゃんは――」

「お姉ちゃんは僕が傷物になったらいや? 嫌いになっちゃうの?」


 小動物のように首を傾げて、瞳をウルウルとさせながら、ジェンに問いかける。


「はぅん! そ、そんな、そんな事あるわけないじゃないかトイ~~!」


 また抱きつかれた。耳元で、ごめんね! 勘違いさせちゃってごめんね~~! と謝っても来る。


 流石に一日に何度も抱きつかれるといい加減なれてもきていた。胸に関してはある程度無心になることで乗り切ろうともしている。


 とは言え――これでとりあえず傷の事は大丈夫そうだと零は安堵したのだった――





 ジェンが部屋を出た後、零はやるべきことを始めた。

 ベットに腰を掛け、精魂を集中させる。


 零がやらなければいけないこと。それは胃の中の物の処理だ。

 なにせ無理やり詰め込んではみたものの、消化など出来るはずもない。


 そのまま放置しておいたらどのような悪影響が出るか判ったものではないのだ。

 それに食事は今後も続けねばいけぬであろう。


 そこで零は折角の力を利用しようと試みた。だが零には感覚がない。

 身体に傷を付けないためには慎重に行う必要があるだろう。


「聖なるミコノフの名のもとに我は風神ジェードの力を行使する――それは優しき風、つむじとなりて吹き上がらん――」


 詠唱を終えると目の前の空間が渦をまきそして舞い上がった。詠唱の通り威力はかなり弱めだ。

 でなければ身体の中を傷つけてしまうだろう。


 調整は慎重に行った。何度も詠唱し身体に合う大きさまで規模を圧縮していく。


 そして自分の手でも触れてみて、傷が付かないぎりぎりの線を見切り――いよいよその内で試し始める。


 詠唱し丁度胃の中にあたる位置に風を現出させ、そして内なる物を持ち上げていく。

 感覚はないから時間で成功か失敗かを判断するしかない。


 ただ口内から出てくる風の動きは視認も出来る。ゴオ、ゴオ、という音も聞こえる。


 だがやはりそう簡単には上手く行かなかった。結局内容物を取り出すのに結構な時を有した。

 しかし一度でも中身を取り出せてしまえば二度目からは楽である。


 正直自分の食べたものが宙を漂ってる姿は気持ちいいものではなかった。

 仕方がない事ではあるが。


 そして零は一度取り出した物を更にソーマを重ねて、風をミキサーのように変化させソレを更に細かく砕き、粉末状にして廃棄した。

 

 こうすればそれほど目立つことはないだろう。


 ふぅ、と、とりあえず食事の問題点を解決させたことで、零は安堵した。息を漏らしたのは生きてた時の行為がそのまま出てきた形だろう。


 そして零はそのままゴロンとベッドに横たわり布団を頭から被った。

 今日はこのまま寝た振りをして過ごそうと思ったのだ。


 実際もうそれなりの時間でもある。外も暗い。


 だから零はとりあえず瞼を閉じ、長い夜が過ぎ去るのを待ち続けるのであった――





◇◆◇


 次の日の朝、零が瞼を開けるとすぐ隣には姉のジェンの姿があった。


「おはようトイ~~」


 ニッコリと微笑んで頬に恐らくは柔らかいほっぺを摺り寄せてくる。その所為に零は若干困ったような笑みを浮かべた。


 とはいえこれはこの家の日常の光景である。なにせこの姉弟は一応部屋はそれぞれ別にあるものの、夜には必ずジェンが零のベッドに潜り込んでくるのだ。

 

 そして当然だが零は眠れてはいないのでこの事にも気づいていた。

 これはあの事件のあった夜も同じではあったのだが、二日共にとりあえず寝たふりして後は身を固め続けていた。


 彼の記憶でも姉が夜潜り込んでくるのは当たり前の事となっていたので、流石に拒否をするわけにもいかない。


 なんとなくジェンの胸が背中にあてられているんだろうなということが判っていたので、精魂では終始ドギマギしていたが、とにかく無心で無心でと思考を続け、理性を保ちつづけていた次第である。


「あ、う、うんおはようお姉ちゃん」


 とにかく零は、頬を摺り寄せられながらも、何時もどおりの朝の挨拶を心がけた。


「う~ん。目覚めた顔も相変わらず可愛い! むちゅ! むちゅ!」


 零のほっぺに吸盤のようになった唇を当ててくる。これも彼にとっては日常の出来事なのである。


「く、擽ったいよ~お姉ちゃ~ん」


 零は身を捩りながらそのキス攻撃から少し遠ざかるようにして言葉を返す。

 すると少し残念そうにジェンが眉を寄せた。


「え~? 前はもっと喜んでくれたのに、お姉ちゃんちょっと寂しいな」


 ジェンは零を見つめながら、水気を含んだぷるぷるな唇に人差し指を添え、若干悲しそうな表情を見せてくる。


 その仕草が普段とのギャップを感じさせ、至極可愛らしく思えてしまう。

 とは言え今後もこれが続きすぎるのも弱りものである。ベットに潜り込まれることは諦めるにしてもだ。


「だ、だって僕ももう準成人になったし、やっぱりその恥ずかしいっていうか――」


 零は瞳を伏せ、自分の両指を絡ませモジモジしながら、姉に告げた。

 だが、これはとても逆効果であった。


「きゃ~~! トイ~可愛い可愛い!」


 そう即効でジェンが己の大きな丘陵に零の顔を埋め、グリグリと押し付けてきたのである。


「だ、だからお姉ちゃん、もう~」


 谷間から姉の顔を見上げ、零が困り声を発す。だが気のせいか自分の魂としての頬が緩み、それに憑依体が連動してるのを感じた。


 やはり男としてこれは中々に堪らない状況である。


「ところでトイお腹すいた?」


 聖母のようなほほ笑みを浮かべジェンが聞いてくる。


「あ、うんすいたかな。もうすっかり体調も良くなった感じだよ」


 勿論お腹などすくはずもないのだが、あまり心配は掛けたくないのと、とにかく早く気を落ち着かせたいとの考えから、そう応えることにした。


「判ったじゃあ準備してくるね」


 ジェンはその綺麗なパープルアイを優しく細め、そして零を開放し、ベットから降りると、ご機嫌な様子で部屋を出て行った。


 姉の階段を降りる音を耳にし、漸く零は一息付くことが出来た。

 だが、なんとなく思い出したあの形の良い果実に、少しだけデレた表情を浮かべてしまう零でもあった――





 朝食の準備が出来たと呼ばれ、零はダイニングへと脚を運んだ。


 そして椅子に腰を掛け聖神ミコノフへの祈りを捧げた後、食事へと手を付けていく。


「どうかなトイ? 一応病気明けだし軽めで消化のよいものにしたんだけど」

 

 用意されていたのは昨晩食べた、ホワイトソイシスを利用したスープに、生地の柔らかい白パン。そしてトマトにホワイトアスパラガスのようなものを盛りつけた物が乗っていた。


 トマトはこの世界でもトマトで変わらないようだが、白い方はホワイトグロースというようだ。よくみると先端の膨らみはこちらの方が大きい。


 ちなみにパンはスープに浸すことで更に軟らくなり、消化にも良くなる。

 野菜もどれも重たくなく食べやすいものだ。


「うん。ありがとう、とっても美味しいし僕の事考えてくれてて凄く嬉しいよ」


 零はトイの気持ちになったつもりでお礼を述べた。実際に彼女のその気遣いは母親の持つものとかわりはしないのだろう。


「えへへっ。それじゃあ、はい、トイあ~ん」


 と、思っていたところでジェンが何時もどおりの行動に移った。

 やっぱりこれは変わらないか、と思いながらも零は素直にその行為に身を任せるのだった――






 


 


 






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